成都を救うのは……ごぼ天屋の嫁でした
ウチ、アイル。
好きな言葉は――レヴォリューション。
益州、成都。
「な……なんやここ?」
思わず声が出ると、孔明はあっさり答えた。
「蜀という、劉備玄徳さまの国です」
石造りの城壁、整然と並ぶ兵舎、空に翻る蜀の紋章。
すべてが張り詰めた空気の中で、ひとつの巨大な生き物のように動いている。
ふと遠くの空に、青・白・赤の三色旗がちらついた。
風に揺れ、雲の切れ間から姿を見せ隠れする。
あれが、ナポレオン軍。
戦の匂いが、じわじわと迫ってくる。
「ゴーレム部隊を転送したのですが、敵には、ジャンヌ・ダルクという戦乙女がいます」
孔明の声は冷静だが、言葉の奥に硬さが混じっている。
やがて、光の柱が天を貫き、蜀の城壁に反射して目がくらむほど輝いた。
「どうやらゴーレムの魔力炉が破壊されました。……私の切り札を示す時です」
……うわ、なんかすごいことになっとる。
ゴーレム以上って、まさかドラゴンか?
いや、孔明の視線がまっすぐ突き刺さる。
……なんや、ウチのことかいな。
胸がざわめく。戦場の重みが押し寄せる。
だからこそ、余計に浮かぶのは日常の匂いや。
油が弾ける音、衣をまとったごぼうを鍋に落とす感触、立ちのぼる湯気。
カウンター越しに交わした「うまい」の一言。
この戦場に立つ自分と、あの店に立つ自分。
その落差が、守るべきものをはっきりと見せつけてくる。
「……そろそろお店に帰るわ。仕込みをせなあかんし。ウチのごぼ天、最近は評判ええんやで」
孔明はフッと笑みを浮かべ、静かに言った。
「面白い。ごぼ天のレシピを、この成都を守るために使っていただきましょう。料理人の腕は、戦場でも振るえるものです」
……成都の兵にごぼ天食わせて士気を上げた方がえんちゃうか? お前の切り札、まさか屋台商法ちゃうやろな!
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