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孔明は私を妻と呼ぶけれど、心はあの人に
ウチ、アイル。
自分の美しさに、ふと酔いしれる。
「言うとくけど、ウチは未成年やし、孔明とは結婚せえへんで」
肉を頬張りながら、強めに釘を刺した。向かいに座る孔明は、何も言わず静かに微笑んでいる。
その顔を見ると、自然と前の世界で好きだった男の子のことを思い出していた。
――ハルト。
元気にしてるかな。もう一度、会って話したいな。
イツキと再会できたんや。
もしかしたら、ハルトとも会えるかもしれへん――そんなことを考えると、胸が甘酸っぱい期待でいっぱいになる。
ニヤニヤしていると、孔明がじっとこちらを見つめてきた。
「やれやれ……」
その視線に、少しだけドキッとした。
でもすぐに、「こんなことでドキドキするなんて」と、胸の奥でクスクス笑う自分がいるのを感じた。
(気をつけな、アイル。あんまり油断しすぎると、コイツに利用されるで)
そう自分に言い聞かせた瞬間、ハルトとの記憶がふわりと曖昧になっていく。まるで孔明の扇子が、そっと魔法をかけたかのように。
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