「なんでやねん!」スマホにツッコまれながら、裸の勇者と世界を救います
ウチの名はアイル。
パブで飲んでただけやのに、気付けば裸の勇者を担いで戦場に乗り込むで。
ウチがパブを飛び出すと、路上で勇者・曹操が完全に酔いつぶれていた。
三軒の酒場をハシゴした結果――なぜか全裸で寝転んでいるらしい。
「しゃーない……まずは記録やな」
スマホを取り出し、カシャッ、カシャッ。
「ぐぅ……我が剣は天下無双……いや、ビールが足りぬ……」
画面が震え、スマホが喋った。
「肖像権! いやR18やろコレ!」
「知らんわ! 証拠や、証拠!」
曹操の仲間たちはとっくに宿へ戻り、酒場 《レッドライオン》の娘々が必死に毛布をかけていた。
――その時、街に再び鳴り響く鐘の音。
「カーン! カーン! カーン!」
王都・洛陽を揺らすような緊迫の音色。
《レッドライオン》のギルドマスター、エドワードが店外へ飛び出す。
手にしたビールジョッキが傾き、中身が豪快にこぼれた。
「敵襲だ!」
鐘の音に重なるように、鋭い声が街に響いた。
同時に、聖騎士長ヴァレンティアが錬金馬クラリスを駆って現れる。白銀の鎧が街灯に反射して、夜空に閃光を走らせた。
掲げた聖書から光があふれ、群衆の怯えを押し返すように広がっていく。
逃げ惑う人々の足が、その威光にわずかに止まった。
「洛陽が包囲された! 軍師・孔明が大軍を率いて進軍中だ!」
その声は雷鳴のように、街の隅々まで響き渡った。
戦の幕が、いま上がろうとしていた。
エドワードは唇を噛みしめる。
「また孔明か……」
酒場の娘々が小声で囁いた。
「ギルドマスター……ほんとにビール片手で戦うんですか?」
「……まずは酔いを覚まさせた方がよさそうね」
商人の悲鳴、馬車の衝突音、野良犬の遠吠え――街は混乱の渦に包まれていく。
ウチは黙って様子を見ながら、悪魔のささやきに耳を傾けた。
(……正直、宿屋で寝ててもええんちゃうか?)
スマホが震え、容赦なく叫んだ。
「なんでやねん!!」
「……せやな。しゃーないわ」
ウチは肩をすくめ、にやりと笑う。
拳を握り、千年分の加護を解き放つ。
街を照らす光に反射して、茶色い髪が輝いた。
(よし……今度こそ、ウチの番や!)
スマホを握り直し、曹操を肩に担ぎ上げる。
「――ウチらで止めるしかない!」
ほんまは怖い。膝なんか笑ってるし、心臓が今にも飛び出しそうや。
でも、もう逃げへん。
――けどな。
「……なあ。せめて、パンツぐらいはいてくれへん?」
担いでるこの男、相変わらず裸やんか。
ウチの決意もへったくれもあらへん。周りの兵士の視線が痛すぎて、正直泣きたい。
それでも足を止めへん。
曹操を引きずり、一緒に戦場へ突入した。
……でも、誰も知らんかった。
この日、王都の戦場に現れたのが、伝説の勇者ではなく――裸の勇者やったことを。
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