豆腐メンタリスト、シャカリキと天下統一 ~酒場から始まるナポレオンクエスト~
ウチの名はアイル。
束縛なんてクソくらえ、自由を愛する美少女。
美少年タキオンは「お笑い担当」と言われ、顔を真っ青にして固まっていた。
……メンタル、豆腐か?
「その調子じゃ天下は取れへんで」
ウチは笑って、彼の杖を指さした。
マイクみたいやん、それ。
「あ……え……?」
タキオンは震える手で杖を握りしめる。
――まるで本物のマイク。
胸の奥から、喜びがにじみ出ている。
知らんけど。
そのとき、酒場 《レッドライオン》の裏口から看板娘が飛び込んできた。
「アイルさん、大変です!」
「どないしたん?」
「孔明様と玄徳様が、お客さんでご来店です!」
「……な、何やて!?」
ウチは慌てて名刺をつかみ、VIP席へ向かう。
そこに座っていたのは――威風堂々たる二人。
「……『シャカリキ・アイル』です。よろしく!」
孔明は目を丸くし、玄徳もきょとんとしている。
「「は?」」
「え、この店での名前です!」
必死に補足すると、二人はようやく顔を見合わせ、小さく首を縦に振った。
……孔明でも分からんこと、あるんやな。
会心の一撃のつもりが、逆に自分がダメージ受けた気分や。
二人から名刺を受け取る。
「ふむ、シャカリキ……孔明と申す!」
「わしもシャカリキ……玄徳じゃ!」
……いや、マジで乗ってくるんかい。
これじゃタキオンとのコンビ解消やんけ!
ウチは焦りまくりや。
看板娘が水割りを運んできて、氷が涼しげに音を立てる。
「劉備玄徳様、孔明様。天下も笑いも取りつつ、まずは一杯どうぞ。三国の英雄でも、喉を潤さねば戦えませぬ」
玄徳は愉快そうに笑い、孔明も「心得ました」と頭を下げる。
そこへ――ギルドマスターのエドワードが、重厚な足音で登場した。
「ご一緒しても?」
「ええ、どうぞ」
会釈のあと、すぐ本題に入る。
「お二人の来店は……西国ナポレオンの侵攻の件ですね?」
孔明は静かに頷いた。
「話が早い。クエスト依頼を出そうと、我が君と相談していたのです」
ウチの頭の中には、疑問符が並ぶ。
クエスト? 依頼?
「……いや、戦うんは得意やけどな。帳簿とか制度とかはからっきしやねん」
思わず自虐してしまう。
黙って聞いていたタキオンが、分かりやすく説明してくれた。
「ナポレオン軍の討伐依頼を酒場で出すんだ。それを受けた冒険者やギルドが討伐して、報酬をもらう仕組み。依頼主が酒場に金を払って、そこから手数料を引いて分配される」
――めっちゃ優秀やん。
しかも、エドワードが低く声を落とす。
「ナポレオン軍は侮れん。鉄の騎兵は一日で国境の城を踏み潰し、大砲は雷鳴のごとく城壁を砕いた。次は我らの番かもしれん」
……背筋がぞわっとする。
なるほど、これはただの依頼やない。戦や。
「戦場はウチ、頭脳はタキオン。これでバランス取れとるやろ」
そう言いながらも――ウチと出会ってもうたことだけは、ほんまに悔やまれる。
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