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千年の加護と黒紫炎――勇者学園で目覚める運命

 ウチの名はアイル。

 前世の記憶をたどれば、あの頃の名前は愛琉あいるやった。

 酒場 《レッドライオン》は、無事にウチのものになった。

 ギルドマスターのエドワードは、興奮で顔を赤くしている。


「俺たちのギルド、洛陽でランキング1位だ、ガハハハッ!」


 さすが孔明や。

 名誉と賞金で、酒場の権利を手放しても惜しくないえさを与えたんやろな。

 エドワードの性格も習慣も、ことごとく把握してる。

 しかも、ウチをギルドの名誉顧問に迎え入れるなんて……。


司馬懿軍しばいぐん孫堅軍そんけんぐんも追い返したし、あとは守るだけや……」


 そう言いながら、完全に酔いつぶれるエドワード。

 浮かれすぎや、まったく。


 聖騎士長ヴァレンティアも安堵あんどの表情を浮かべる。


「私たちも信仰を許されました。玄徳様も来られて……」


 そのとき、視界が歪んだ。

 胸の奥で、黒紫炎が熱を帯び、かすかにうずく。

 過去に交わした、あの時の女神の力――千年の加護――が、身体の芯によみがえる。


 !!!


(アイル、異常事態が発生した。力を貸して――)


 声ではない。焦燥感しょうそうかんのようなものが、直接ウチの心に流れ込んできた。


「女神か……?」


 問いかける暇もなく、光が全身を包む。


 酒場の声は遠くでかすかに残る。

 笑い声、グラスのぶつかる音、歓声――

 全部が、あっという間に遠ざかっていった。



 視界が戻ると、目の前には見慣れない光景――巨大な学園施設。

 建物は幾層いくそうにも連なり、屋上には甲冑姿かっちゅうすがたの訓練生たちが整列している。

 その中心には広大な闘技場があり、円形のアリーナが小さく見えるが、それでも迫力は十分。

 低く垂れ込める灰色の雲の合間から、冷たい光が差し込み、風が屋上の旗を激しく揺らしていた。

 ここは……勇者学園? いや、見たこともない規模だ。


 んんん……? あの二人って、まさか……銀色の髪ととがった耳の少女、そして控えめな雰囲気の少年。


 ――あの時の残像が、今、目の前におる……。


「私は、至高天界アルカナ・ヘブンのリュミエル。――時空を歪めし勇者たちよ、ここで死ね」


 声が空気を震わせ、世界全体が一瞬、呼吸を止めたみたいに静まり返る。

 背後の時計塔が悲鳴をあげるかのように逆回転し、時間そのものが女神の到来に従属しているみたいや。


「嘘やろ……なんで、あんた達が……」


 声がかすれ、空へと消えていった。

 目の前のダークエルフの少女――前世の記憶のかけらもない姿やけど――ただ一人、ウチに気づいたみたいや。


 胸の奥がぎゅっと締め付けられる。まさか、こんな形で再会するなんて……。


「何が起こってるんや? この二人と戦うなんて……ウチは聞いてへんで……」


 隣に立つ少年も目を見開き、動揺を隠せない。


「――愛琉あいる……お前、なのか?」


 前世で共に戦い、散った仲間。

 いま、ここに立っているのは、間違いなく“あのときの愛琉”や。


 ウチは拳をぎゅっと握り締め、冷たい風のように流れる緊張を胸に抱きしめた。

 ――なるようになるやろ。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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