絶対読めない! 天才軍師、黒紫炎の女に翻弄される
ウチの名はアイル。
後のことは任せた――戦場も、策略も、全部まとめて。
諸葛亮孔明が涼しい顔で声を上げる。
「この勝負、私が預かる。洛陽は我が君、劉備玄徳が治める」
ウチはもうどうでもええ。好きにしたらええんちゃうか。
どうせ、誰が王になろうと民の生活は変わらん。
孔明の言葉に、呂布が眉間に皺を寄せ、ズンズン詰め寄る。
「おい貴様、何を勝手なことを。この俺様が統治する話だろ?」
その時だった。
「軍師殿、玉璽は見つかりませんでした」
趙雲子龍が生け捕りにした袁紹を連れてくる。ボロボロで見る影もない。
「玉璽は結構。それよりも、あなたに連行されている事実こそが重要です」
ゾッとした。こいつ、袁紹を捕らえる前から、玉璽が見つからないことも計算していたんや。玉璽がなければ、袁紹の権威は地に落ちる。そして、その袁紹を捕らえた趙雲と、その主である劉備の正当性が際立つ。すべて、この男の掌の上や。
続いて、劉備玄徳が現れる。
「孔明よ、本当にワシが洛陽を治めてもよいのか?」
「もちろんです。我が君の名はすでに世界に轟いております。民は歓迎するでしょう」
民衆の歓声が、まるで音楽のように耳に届く。
シャンパンコールか?
いや、のみほーか?
これが、この世界の「正義」なんやな。ウチの「正義」とは全然違う。
さらに五虎大将軍が勢揃いする。関羽、張飛、馬超、黄忠。
「久しぶりだな、呂布。前は逃げたが、今度はどうする?」
「裏切り癖、また出たか。いつでも相手してやるぞ!」
「いやぁ、お前も懲りないねぇ、呂布」
ぐぬぬぬぬぬ……さすがの呂布も分が悪い。赤兎馬にまたがり、槍を振り回しながら去っていく。董卓はいつの間にか姿を消していた。
これで、一件落着か……?
ウチは孔明の顔をじっと見つめる。あいつは、ウチのことをどう思っとるんやろうか。利用できる駒か? それとも想定外のイレギュラーか? 表情には何も浮かんでへん。ホンマに約束を守るんかどうかなんて、わからん。
でも、ウチは知っとる。この世界は、約束なんて簡単に反故にされる。だから、ウチは約束を信じるんやない。自分の手で、勝ち取るんや。
「なぁ、孔明。酒場の件、どうすんや?」
ウチの問いに、孔明は淡々と答える。
「もちろん、約束は守ります」
嘘つきほど、そういうことを言う。ウチは口元を吊り上げ、ニヤリと笑った。
「約束を破ったら――」
孔明の顔に、初めて微かな驚きの色が浮かぶ。そしてすぐ、いつもの涼しい表情に戻る。
「……それは困りますな」
この男はホンマに底が知れへん。でも、ウチだって、この世界で生き抜くって決めたんや。次の戦いは、あんたとの交渉や。
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