生き恥上等! 黒紫炎で曹操を焼き尽くす
ウチの名はアイル。
目指すは、世界一のおでんマスター!
『ラグナロク・フレイム!』
黒紫炎が天を突き破り、巨大な円を描いて落ちてこようとしている。空は赤黒く満ち、光と影が反転する。
先走る熱が地を舐め、熱風が一帯を揺らした。呑まれたのは、かつての仲間たち――曹操、バルバリッチ、アットマーク、テルニカ。その表情には、驚愕と動揺が走る。
「……何や、その顔。ウチが大人しく終わると思っとったんか?」
挑むように笑う声が、炎の唸りに混じって響く。
スマホの画面がひときわ強く光り――
『関西弁スキル《ボケとツッコミ》発動!』
『相手の攻撃パターンを先読みし、隙を暴くことが可能に』
「おい、何やねんこの場面で! システムもノリええな!」
笑いを挟んだそのとき、曹操が踏み出した。紅蓮の剣 《炎帝》を構え、冷酷に告げる。
「所詮、小細工よ。炎の力は、この剣の前では無力だ」
まだ地に届いていない黒紫炎の雨が、曹操の刃に吸い上げられるように収束していく。天に掛かる炎環が剣の力に導かれ、渦巻く業火は《炎帝》へと喰われた。刀身は赤黒く脈打ち、不気味な輝きを放つ。
観衆のひとりが思わず叫ぶ。
「馬鹿な……! アイルの炎が、飲み込まれた……!?」
刹那、剣から不気味な咆哮が響く。
「ぐがぁああああああ!」
炎が反転し、曹操の全身を包む。鎧もマントも焼き焦げ、肉体だけが辛うじて残る。魂まで焼き尽くさんとする炎だが、どこかで揺らぎ――アイルの意志がそこに宿る。手心を加えたように、黒紫炎は肉体の生命線を残したのだ。
「……ウチは殺さへん。生き恥を晒すほうが、似合っとるで」
バルバリッチは戦斧を振りかざす。
「どけやああああっ!」
しかし炎は意志を宿し、壁となる。戦斧は軋み、悲鳴を上げた。
アットマークは凍える呪文を叩きつける。
「《アイスブリザード》!」
だが矢は触れる前に蒸発し、白煙だけが残った。
テルニカも必死に祈る。
「《リザレクション》!」
光は炎に弾かれ、汗が額を伝う。仲間の必死の消火も届かない。黒紫の炎は、人の領域を超えていた。
やがて炎が鎮まり――曹操は裸で立ち尽くす。豪奢な鎧は灰と化し、誇り高きマントも消え、身を覆うものは何ひとつない。
静寂。仲間も観衆も、息を呑む。胸には勝利の達成感、そしてかつて共に戦った日々への哀惜。それでも、決着を告げる言葉を、ウチは選ぶ。
「外見は立派やった。勇者の仮面も、華やかな鎧も……でも中身は空っぽや。結局あんたは、裸の王様やったんや」
言葉は鋭い刃となり、曹操の心を切り裂く。顔を歪ませ、膝を折る。その瞳の炎は消え、虚ろな眼差しが虚空を見つめる。ウチはその姿をじっと見据え、静かに息を吐く。誇りは粉々に砕かれた。
ウチは手を伸ばしかけ、途中で止める。触れたい衝動を抑え、淡い笑みを浮かべる。
「……さて、次は酒場に戻っておでんでも作るか」
戦いの熱気に、日常の匂いをそっと混ぜる。その声だけが、観衆の胸に長く残った。
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