ロブスター紳士の求婚と“冷めた完璧”――アイルの熱血は届くか?
ウチ、アイル。
最高の獲物、『スペース・キング・クラブ・ミサイル』に向かって宇宙を滑空しとる。
「待て! ゴッドミシェロン!」という孔明龍の悲鳴は、ウチが船体に接近する直前まで、かろうじて聞こえとった。
中華菜刀を構え、ハサミの付け根を狙った、その瞬間――
船体の側面にある、目立たへん貨物用ハッチが、音もなく静かに開いた。
その中からは、芳醇で、誘惑的なバター醤油の香りが、宇宙空間に漏れ出しとる。
「なんや、この匂いは!」
理性が一瞬で蒸発した。
調理神のプライドが、最高の料理の残り香を追えと命令したんや。
ウチはハサミへの攻撃を止め、まるで飢えた宇宙猫のように、開いた貨物ハッチに飛び込んだ。
ハッチをくぐると、そこは船団の旗艦とは思えへん、超豪華な居酒屋やった。
大きな水槽が並び、様々な宇宙海鮮が人魚と一緒に泳いどる。
円卓の上に並べられた料理は、どれも完璧なのに、湯気一つ上がってへん。
その最上席に、キャプテン・ハルバルドが座っとった。
頭部は巨大なロブスターの形状へと歪み、体はタキシードを着た紳士の姿。
両手に持つ大きなハサミは、ナイフとフォークのように精巧に動いとる。
「狙いは私の船か? 貴女の料理は『革命』、私の料理は『調和』。これが、宇宙の衝動の対立だ」
ハルバルドは、手元の水槽から、青く輝くエビを取り出し、優雅にフォークで甲羅を割った。
完璧な手つきには、調理の過程への歓喜が一切宿ってへんかった。
「貴女の情熱のスパイスは、我が王道レシピにとって、本来は完璧な調和を乱す雑音だ。しかしな、ゴッドミシェロン」
ハルバルドはグラスを傾け、どこか冷めた目をした。
「私は、この宇宙のあらゆる食材を、絶対的な秩序に基づいて完璧に調理できる。だからこそ、最高に美味い肴に飢えているのだ。誰も私の『退屈な完璧』が生み出した『冷めた情熱』を、衝動の炎で温めてくれなかった」
「完璧」や「秩序」という言葉ほど、ウチの情熱のスパイスに火をつけるもんはない。
「なるほど。つまり……」
ニヤリと笑い、テーブルを叩いた。
「あんたが求めてるのは、『熱血の火加減』でしか作れへん、『運命を裏切る衝動』やな!」
キャプテン・ハルバルドは、ロブスターの口を大きく開け、豪快に笑った。
『フフフ! 面白い! その勝負、受けようではないか!』
『私が勝てば、貴女は花嫁として、この船で永遠に料理を作り続けるのだ! 貴女が勝てば、この旗艦と、長年収集してきた「宇宙の究極食材リスト」を全て差し上げよう!』
宇宙船団の旗艦内で、究極の料理勝負や!
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