神域の赤壁大戦、翔けろペガサス
ウチ、アイル。
借金返済のため、ヌードになるかもしれん女。
神域の赤壁へ飛び込もうとした瞬間、大きな叫び声が響いた。
「待ちなされ、いかにゴッドミシェロンと言えど、不用意に飛び込むのは、愚策というもの。私がお供しましょう。リフレッシュ休暇を消化して」
孔明やった。
昔を思わせる柔らかな雰囲気が漂う。
その背後にいるのは、関羽と張飛。
「ふざけんな! 一億五千万両の借金、どう落とし前つけるつもりや!」
ウチは、中華包丁を突きつけた。
孔明は、落ち着いた笑顔で扇子を広げた。
「フフフ。ご安心くだされ。一億五千万両は、この赤壁で得られる『世界の真実の力』をもって、相殺できる。そして、この度は軍師の立場を離れ、貴女の料理に魅せられた一人の客として、食材探しを手伝わせていただきたい」
「ほざけ! お前はウチを、借金返済の奴隷にした張本人やろ!」
孔明は扇子で、燃え盛る赤壁のスクリーンの向こう側を指し示した。
「違います。貴女は今、この世界で最も自由な料理人ですよ。次に待つのは『究極の食材』。それを食らい、借金をチャラにすれば、誰も『自由』を縛ることはできませぬ」
その言葉は、ウチの心に鋭く突き刺さった。
「……フン。わかった。関羽と張飛も一緒なんか?」
包丁を虚空の裂け目にしまい込んだ。
「もちろんです、ゴッドミシェロン殿! 我ら三傑が、食材集めの護衛としてお供いたします! 我らが王――劉備玄徳の未来のためにも、どうか心置きなく暴れていただきたい!」
関羽が両手を合わせる。
「おう! 俺の腹筋みてくれ! 赤壁の試練なんて、俺の暴れ肉で全部食らってやるぜ!」
張飛はよう分からんけど、いつものノリやな。
孔明が紫の扇を一振りすると、空が大きく二つに割れて、ペガサスが舞い降りる。
年末の歌番組で、大御所の歌手が背中に乗って出てくる、お約束の演出か?
白い光を放つ神々しいペガサスに呆気に取られた。
その翼は夜空の星屑を纏い、まるで天界から降りてきたかのような威厳を放っとる。
「くっそ! 全世界の乙女の憧れ、ペガサスを用意するなんて! 軍師の『プライベート』って、ロマンスの神様なんか!」
ウチはペガサスの背中に飛び乗った。
背後からは関羽と張飛が、龍の鱗に紐をぶら下げたゴンドラに飛び乗った。
「あれ? 孔明は?」
『フフ、私ですよ。アイル』
龍が喋りよった。
いきなりの展開で、戸惑うばかりや。
ウチが乗ったペガサスの首元に、紫色の鱗が生えた巨大な首が、静かに寄り添っている。
その瞳は、孔明のそれと同じ、深遠な知性を宿していた。
「な、なんやて! あんた、龍そのものなんか!」
孔明の声が、その巨体の奥から響く。
『フフ。これが、最大の試練に挑む私の真の姿です。さあ、ゴッドミシェロン。誰も追いつけぬリフレッシュ・ツアーと洒落込みましょう!』
「そんなんより先に、お前の策に追いつかれへんわ!」
ウチの叫びをよそに、ペガサスが天高く舞い上がり、巨体がその翼の横を悠然と泳ぐ。
「行くぞ、赤壁! 一億五千万両、きっちり料理で稼いで、最高の自由を手にしたるわ!」
炎と水が渦巻く神域の赤壁大戦へと、ウチと蜀の精鋭を乗せて飛び立った。
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