孔明会計でお願いします
ウチ、アイル。
お一人様で打ち上げや。
最高級のお店で、オーダーを通した。
『桃園の誓い』 特選肉まん。
『赤壁の炎上』 麻辣火鍋。
『三顧の礼』 フルコースに、トドメは『無双の呂布』 馬肉ステーキ。
照明は薄暗く、静かで豪華な内装は、ウチの煮えたぎる怒りとは正反対やった。
テーブルを一人で占領し、孔明から受け取った高級酒を一気にグラスに注ぐ。
「ええか、ドクロ」
ウチはスマホを持ち上げ、光る目玉をにらみ返した。
「……もう蜀と関わらん。孔明の策なんか、知るか。
ほんま、誰のために鍋を煮てたんやろな、ウチ」
『かっかっかっ! マスター、ご冗談を! 今の貴女、まるでフライパンの上のステーキですよ!
ジューッと魂が焼けて、香ばしいくらいに熱い! そんな状態で最高の食材を逃すなんて、料理人として前代未聞です!』
「最高の食材? アイツらは、ウチを道具として試しただけや!」
グラスを叩きつけると、静寂がひび割れるように音が走った。
「お前は相棒やろ? 逃げるのを手伝え!」
ドクロスマホの目がチカチカと不規則な青い光を放ち始めた。
『……マスター。貴女はすでにこの世界の法則を食らい尽くし、その一部となってしまった。逃げられませんよ』
「なんやて?」
『逃げることは、貴女の料理魂が最も嫌う「自由の放棄」です! 貴女が「自由」を求める限り、「次の法則」という名の食材が、貴女をこの世界に引き戻す!』
「アホぬかせ! そんな呪いメニュー、誰が注文したんや!」
ウチはテーブルを蹴り上げ、ドクロスマホを掴んで立ち上がった。
「電源、永遠に切ったるわ。二度と目ぇ覚まさんようにな」
『おやめなさい!』
ドクロスマホが、初めて悲鳴を思わせる高い電子音を上げた。
残りの酒を一気に飲み干した。
「わかった。元気でな!」
ウチはドクロスマホを置いて、外へ駆け出した。
もちろん、お会計は蜀に回してもらうのは忘れてへん。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!




