【孔明の第三の理】傲慢にして純粋な飢え
ウチ、アイル。
体は空っぽの鍋。
冷たい石の床に倒れたまま、目を閉じた。
中華鍋を振り続けた両腕は、鉛のように重い。
「これで、終わりや……」と、意識が再び闇に沈もうとする。
「いや、終わりにしてはならぬ」
重みのある声が、すぐ側から響いてきた。
「ウチは……もう、アカンで」
喉の奥で呟いた。
「貴女の体内の『料理魂』は、今、極限の飢餓状態にある。神の理を食らい尽くしたのだから、当然だ。だが、それこそが、我が策の『第三の理』に繋がる」
孔明から放たれる神威は、先ほどの神王とは比べ物にならんほど、静かで、そして絶対的な意志に満ちとった。
「第二の理は『神王を釣り出す』ことであった。そして、第三の理は――貴女の『渇望』を目覚めさせること」
ゾクリ、と背筋が凍る。
「何、言うとんねん?」
「アイルの料理魂は、誰かの『自由』のためだけに存在するのではない。究極の料理人として、この世の『最も強大な法則』を食らい尽くし、それを自身の内に取り込みたいという、傲慢で純粋な飢えこそが、真の力だ」
孔明は、ウチのドクロスマホを拾い上げ、手で軽く払った。
スマホの目は、今までにないほど激しく青く光っとる。
『かっかっかっ! その通りだ、マスター! 最高のエンディングは、最高の食材と、最高の試練によってのみ創り上げられる!』
「……神王を倒すことが、ウチの欲望を満たすと知っていて、仕向けたんか!」
怒りを込めて叫ぼうとしたが、声は掠れた。
「そうでなければ、アイルは動かない」
孔明は不気味に笑ろた。
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