運命の歯車、停止す。愛と自由を叫ぶゴッドミシェロン
ウチ、アイル。
この灼熱ブレスが、ウチの、料理人としての魂の叫びや!
真紅の麻婆豆腐ブレスは、謁見の間を溶かし尽くし、真っ直ぐに玉座の神王めがけて突っ込んだ。
「グアアアアァ!」
神廷護衛隊が悲鳴を上げ、炎を避け四散する。
こいつらが纏う重厚な甲冑も、麻婆豆腐の熱には耐えられず、あっちゅうまに炭化した。
玉座の神王は、絶対的な余裕を失った。
両手を広げ、全身から白銀の神威を噴出させる。
「馬鹿め! 我こそが運命を司る神! その理不尽な熱狂は、我が≪絶対領域≫が全て受け止め、冷やし尽くしてくれるわ!」
神王の周囲に、巨大な運命の歯車のような結界が展開した。
それが回転する度に、空間の熱と時間そのものが凍結していく。
神王の能力、≪理不尽な運命≫。
いかなる熱狂も、努力も、意志も、最終的に「無意味」という冷たい結末へと強制的に収束させる、絶対的な法則やった。
灼熱の麻婆豆腐が歯車に接触する。
ジジ……ヒュウウウウ!
ブレスの熱が吸い込まれ、冷たい霧となってふわりと消えていく。
「フハハハ! 所詮は小娘の感情! 我の法則の前では、無力に等しいわ!」
神王は勝利を確信し、冷笑を浮かべとる。
でも、ウチは諦めへん。
この怒りは、誰かのためやない。
ウチ自身の料理の『自由』のためなんや!
『マスター! 今です! 毒と愛の混沌を、神の理に変える瞬間ですよ! かっかっかっ!』
ドクロスマホが、炎の中で輝き、いっちょまえに警告を飛ばしてきた。
「知っとるわ!」
最後の力を振り絞り、麻婆豆腐のブレスの中核に、極限まで圧縮した『慈愛の創造』を叩き込んだ。
ゴオォォオオオン!!
冷たい霧となった麻婆豆腐の残滓が、突如として虹色に発光した。
それは熱とちゃう。
理屈を超えた、魂の解放。
神王の『運命の歯車』が、キィィン! と甲高い悲鳴を上げ、回転を止めた。
「な、何だと!? 理不尽な法則が、反発しておる!?」
虹色の光は、まるで『涙』のように神王の全身へと染み込んだ。
神王の舌の奥で、全てを許す『静けさの麻婆豆腐』の味が弾けた。
支配でも破壊でもあらへん。
極限の怒りから生まれた、「魂の強制的な救済」。
その時、神王の冷徹な瞳から、止め処なく涙が溢れた。
「ああ……ああ……。この、温かさは……何だ……。私は、ずっと……これを、拒絶していたのか……」
神王の絶対的な神威が、急速に霧散していく。
「理不尽な運命」という名の孤独な法則が、慈愛という料理によって打ち破られたんや。
玉座に座っとったんは、あの絶対的な神王やない。
ただ、孤独に運命を背負い続けてた、一人の男の姿やった。
「……勝ったんやな、ウチ」
中華鍋を虚空に掲げ、全身の力を使い果たし、その場に崩れ落ちた。
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