二虎競食の計、試された神の理
ウチ、アイル。
孔明の策は、何がホンマなんかようわからん。
異世界料理トーナメント・御前試合の熱狂がまだ残る闘技場の裏。
孔明が用意した控え室は、戦場よりも空気が張り詰めとった。
「ヒャッハー! 見たか、料理人! オレ様の腹は、お前の麻婆豆腐で宇宙創造のビッグバンを起こしたぜ!」
張飛が喉の奥から吼える。
その声を、孔明が扇子をパシッと閉じて一瞬で沈めた。
「……今回は見事であった。『慈愛の創造』――あれは、もはや神の域よ」
称賛の言葉と同時に、孔明は関羽へと視線を移した。
その顔がわずかに陰る。
「このトーナメントは、アイルを“ゴッドミシェロン”として覚醒させるための舞台。そして同時に――その生存を隠すための策でもあった。
……なのに、貴殿は本名を叫ばれた」
関羽は静かに頭を垂れた。
「あれほどの神の料理を前に、偽名を名乗ることなどできなかった。真の勝者の名――アイルを讃える。それが武神としての筋と信じた」
「ほう! 義兄、カッコよかったぜ!」
張飛が呑気に拍手する。
孔明はため息をつき、扇子で額を軽く叩いた。
「幾重にも策を巡らせたというのに……。都ではすでに“死んだはずのアイルが蘇った”との噂が広まっておる。
必ずや、宮廷でその力を利用しようとする者が現れる」
孔明の瞳が鋭さを増した。
「Kが去った今、このトーナメントの真の目的は果たされた。もはや、我々が本戦に留まる意味はない」
――K。
ウチには、まだよくわからん存在や。
けど孔明の口調は、まるで奴を昔から知っとるみたいやった。
「Kは、“神を食らう者”が率いる組織の一員。
真の狙いは、宮廷の覇権ではない。“理不尽な運命”を司る神々を、料理で葬ること――つまり、『神殺し』でござる」
孔明は一拍おいて、ゆっくりとウチを見た。
虹色の光が、扇の縁に反射して、彼の瞳の奥を照らす。
――神を殺す料理。
御前試合で神を討つ、そんな噂を孔明がわざと流した。
神なんかおらんのに、釣られたのがK。
つまりこれは、蜀としての“宣戦布告”や。
その矢が、ウチに刺さっとる。
「奴らの野望を阻止することが、『ゴッドミシェロン』、アイルの最終使命」
孔明が決め顔を作る。
……正直、ウザい。
でも、その目の奥に光るものだけは、笑いごとちゃう。
「確認しとくけど。ウチは“神を助ける側”なんやな? ……正直、納得いかんところだらけやで」
「フフ……アイルに、覚悟を持ってもらうためでござるよ」
「覚悟ぉ?」
「もし最初から“救済”とだけ告げておれば、そこまで到達できなかったであろう。
“神殺し”という極限の重圧が、“毒と愛の混沌”を真の“神の理”へと昇華させたのだ」
「なんやて!? ウチを試したって言うんか!」
胸の奥で、怒りと悔しさが入り混じる。
信じたかった。
けど、裏切られた気がして、言葉が詰まる。
孔明はゆっくりと扇を広げ、目を細めた。
「究極の毒を、究極の慈愛に変え得る者――それがアイルでござる。
我は、運命を“料理”で変えられると信じておった」
その言葉に、ウチは何も言い返せんかった。
悔しさも怒りも、胸の奥で一緒に煮詰まって、
まるで“新しい味”になっていくみたいやった。
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