【決着】魂を救う麻婆豆腐 vs. 悪魔の純粋な香
ウチ、アイル。
龍虎相打つ。
観客席の武将たちは、一斉に立ち上がった。
彼らは、Kの「悪魔の純粋な香」によって理性を失い、虚ろな快楽に沈んどったはずや。
しかし今、瞳は熱狂的な光を宿し、全身で歓喜を爆発させとる。
「ヒャッハー! これこそが、食の宇宙だぜ! アイル! お前はもう、オレ様にとって神だ!」
張飛が咆哮を上げる。
観客たちは、次第に――自らの意志で、魂の震えのままに、ウチの料理を求めはじめていた。
一方、Kが提供した料理の前の観客は、依然として微動だにしない。
彼らの顔は幸福に歪んでいるが、瞳には生命の光がなく、料理はただの「冷たい儀式」のように放置されている。
その時、ステージ中央に設けられた審査席の前に、二つの皿が運ばれた。
ウチの皿からは、虹色の白光が立ち上る麻婆豆腐。
その香りは、山椒の痺れと唐辛子の灼熱の中に、全てを許し、受け入れる慈愛の静けさを内包していた。
Kの皿は、深遠な闇を映した、紫色の麻婆豆腐。
その香りは、嗅いだ者の魂の奥底にある「最も安易な幸福」を刺激し、永遠の眠りへと誘う。
前方に団扇を構えていた関羽が、審査員として立ち上がった。
「料理は、食らう者の魂を鼓舞し、明日への活力を与えるものでござる。この二つの料理は、どちらも極限。しかし――」
関羽は、Kの料理を一瞥しただけで、目を伏せた。
「K殿の料理は、あまりにも完成されすぎた『静寂』でござる。それは死に近い。生きた喜びを与える料理、すなわち『創造の理』に満ちた料理とは言い難い」
そして、ウチの麻婆豆腐を深く吸い込んだ。
「アイルの料理は、一度理性を破壊しながらも、その先で『生きたい』という意志そのものを再構築している。これは、まさに慈愛の創造! 勝敗は、火を吹く料理の魔神、アイルの勝利でござる!」
ゴォン!
闘技場の鐘が、ウチの勝利を告げる。
歓声が、美食の都・成都を揺るがした。
「ククッ……慈愛だと? 愛という枷を、力に変えたというのか」
Kはゆっくりと帽子を傾ける。
その表情には、敗北の悔しさよりも、「未知のデータ」を得たことへの満足感が滲んでいた。
「アイル。貴様は我を凌駕した。しかし、究極の破壊と創造を理解する者は、他にもいる。貴様の愛が、その『次の存在』にどこまで通用するか、楽しみにしておこう」
Kは愛用の調理ケースを閉じると、背を向け、闘技場を去っていく。
その冷たい背中は、すでに次の戦場を見据えていた。
ウチは全身からオーラを噴き上げながら、Kに叫んだ。
「待て! なんちゅう、悟りきった顔して逃げてんねん! テメェの鼻をへし折って、ウチの完全勝利やと証明するまでが、料理バトルやろ!」
しかし、Kは振り向くことなく、人混みに消えていった。
その様子を、観客席の最上段から見ていた孔明が、扇子で口元を隠し、にやりと笑っだ。
「さすが、アイル。これで、次の策に進むことができる。すべては、この『ゴッドミシェロン』を生み出すための、試練だったゆえ」
孔明の瞳には、ウチとKの対決を遥かに超える、壮大な計画の完成が映し出されていた。
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