太陽の涙と七色の蒸気! 究極の味変、錬金料理師アイル爆誕
ウチ、アイル。
限界ギリギリで抽出した「神罰のエキス」を手に、ミシェロンの頂点を目指す女。
馬車は依然、北へ魔導馬力の唸りを上げて突き進む。
ウチのラボは、エキスを収めたビンの冷気と、孟獲の甘露の猪肉を焼く香ばしい匂いで満ちとった。
慎重に調理を進めて、猪肉の切り身を炒める最終段階や。
ここで、孟獲がくれた「太陽の涙」という赤い香辛料を投入。
その時、肉から立ち上る湯気が一気に熱を帯びた。
抽出したエキスを小さな霧吹きに入れ、鉄板の上でジュッと肉全体に吹きかける。
毒のエキスが「太陽の涙」と結合し、液体は弾けるように揮発。
その蒸気は、七色の光を放ちながら濃厚な肉の香りに融合し、嗅いだことのない第六の刺激となって脳の奥を直接叩いた。
「できた! ウチのミシェロン人生を懸けた、最初の究極の逸品や!」
爆音の鼻歌が馬車内に響き渡った。
「♪ミラクズずっきゅんばっきゅん、ハイ! ハイ! オレの推し! オレの推し!」
張飛や。
巨大な鉄の串に刺した「七色のワニ肉団子」を豪快に噛み砕き、そのままラボの入口から顔を突っ込む。
「オイ、アイル。なんだこの匂いは! オレ様のハイテンションゲージが警告音を鳴らしているぞ!」
その瞳は、皿をロックオンしている。
「待て! まだ試作品や! 何が起こるか分からへんのや!」
言い終わる間もなく、張飛は電光石火の速さで、猪肉の塊を口に放り込んだ。
「ウオオオオオオオオッッッ!!」
その刹那、張飛の全身から噴き出す七色の光が、馬車内の空気を爆発的に揺らした。
「アホか! 馬車が木っ端微塵になるわ!」
関羽は冷静に扇を構え、毅然とした態度を崩さない。
「ふむ。この究極の味変の、感想を述べるでござる」
張飛は、口元から湯気を噴き出し、声を張り上げた。
「これは……オレ様の推しライブのアンコール後、会場の照明が消える、あの『一瞬の永遠』の境地だ! 全身の細胞が沸騰し、今、オレは味覚の向こう側の次元にいる!」
体からは、光の残像がスポットライトのように立ち上り続ける。
ハイテンションが通常時の300%を超えているのが体感できた。
関羽が手早く、試作品を口に運んだ。
「ふむ……舌の感覚が麻痺し、意識が遠のく極限の刺激の後に、純粋な旨味だけが残る。これは……神の理性を崩壊させる兵器でござる」
長い髭が震えている。
「ちょ、関羽まで興奮しとるやないか!」
張飛はもう馬車に収まらない勢いで、蛇矛を振り上げ、北の空に向かって雄叫びをあげる。
「ヒャッハー! この味があれば、オレ様は次元の壁を突き破れる! 次のライブ会場へ限界突破じゃあ!」
「アホぬかせ! ええ加減にせな、ファンクラブ脱退させられるで!」
二人の爆発的な反応を前に、勝利を確信した。
よし。 このエキスは、ウチの料理を最強の武器に変える。
次の目的地には、美食を食い尽くす霊獣がおるらしい。
この究極のスパイスで、ヤツの理性を完全に破壊したる!
興奮冷めやらぬ馬車の中、次なる獲物「霊獣・饕餮」を攻略するためのレシピに、着手するのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!




