ジャングルニャン太郎とインスタント調理
ウチ、アイル。
料理で最強の猛将を召使いにした女や。
目の前には、さっきまで魔導馬車を持ち上げようとした南蛮王・孟獲。
カリカリ棒の切れ端を片手に、「大型犬」みたいに尻尾を振っとる。
「ヒャッハー! まさか、わが孟獲が、この神の料理に屈するとは! 終末の岩塩鉱へ案内しようぞ!」
「落ち着け! まだ食うな! これ、次の料理の試作用や!」
慌てて皿を隠すと、孟獲の目が本物の戦闘モードに変わった。
「な、なんだと? 王たるワシに、食の自由はないと申すか!」
「今は案内人や! 王やないねん!」
隣では、琥珀のハイ状態から冷めてきた張飛が目をこすり、孟獲の巨体を睨んだ。
「お前、オレ様の食い物を狙うのか? ジャングルニャン太郎!」
「何だと、デコトラ毘沙門天! ワシは南蛮王だ!」
威嚇してはいるが、顔は完全に食い物を盗られるかどうかの瀬戸際やった。
関羽は二人の横で団扇をパタパタ。
「孟獲殿の忠誠心は、アイルの料理で保証された。引き続き、インスタント調理を頼むでござる」
「ウチの人生に、トキめくような運命の出会いはないんかいな!」
文句を言いつつも、岩塩鉱へ入る前に肉巻きを量産するしかなかった。
案内人に逃げられたら、この魔境を突破できへん。
一行は馬車を捨て、「終末の岩塩鉱」の入り口へ向かう。
周囲の瘴気はさらに濃くなり、鼻を刺す甘ったるい匂いが強烈に漂った。
やがて視界が開けた先に、それはあった。
神代の血で染まったという「血晶石の山」。
異様に赤い岩山が、毒煙をはらみながら天に突き出す。
遠目でも、山肌の塩と鉄の結晶がきらめいているのが確認できる。
中腹には、まるで怪物の口を思わせる真っ黒な洞窟が口を開いていた。
「わくわくが止まらないぜ!」
孟獲は目をギラつかせて叫ぶ。
視線の先は、キノコではなく、ウチの手にある肉巻きやった。
張飛は禍々しい洞窟を、虹色に輝く瞳で見据える。
「へっ、派手じゃねえか。最高の遊び場だ!」
関羽は団扇を構え、いつになく真剣な表情でウチに向けた。
「岩塩鉱最深部、常闇の底に『神罰の灯茸』がある。我は瘴気を払いつつ、背後から援護するでござる」
「了解や! ほな、行くで!」
出来たての肉巻きを二本、孟獲に渡すと、暗黒の洞窟へ飛び込んだ。
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