南中へ大爆走! デコトラ毘沙門天が最高のカモフラージュ
ウチ、アイル。
人生最大の旅行、南中行きに巻き込まれた女。
成都の宮廷を抜け出し、ウチらは関羽が手配した魔導仕立ての馬車に乗って南へ爆走中や。
中の様子?
もう頭がおかしくなるぐらいのカオスや!
「オレ様の虹色は、この世界を救う色だ! 馬車なんぞ、オレ様の魔力で空を飛ぶ!」
琥珀の残骸を握りしめた張飛は、馬車の窓から上半身を突き出し、風を切って叫んどる。
顔は完全に『デコトラの荷台に祀られた、原色ギラギラの毘沙門天』やった。
「おい、落ちるぞ! あんたは爆炎将軍やけど、空は飛べへんやろ!」
慌てて張飛の鎧を掴むと、虹色の魔力がバチバチッと手に触れた。
くそ、手が痺れる!
関羽は、そんなカオスな状況をものともせず、馬車の隅でライブグッズの団扇をあおぎながら、声をかけてきた。
「焦るな、アイル。張飛の暴走は、宮廷の追手に対する最高のカモフラージュになる。まさか、神殺しの重要任務で、これほどのアホを連れていくとは誰も思わん」
「冷静すぎやろ! それに、なんでライブグッズ持っとるんや!」
「……長旅には、推しのグッズが必要でござる。それに、この『至聖の光る団扇』は、瘴気を払う魔除けにもなる」
ライブグッズ、めっちゃ高性能やんけ!
ツッコミが追いつかん!
張飛が再び叫びを上げた。
「くそっ、この馬車、遅い! オレ様が先頭を走る!」
ドゴォン!という音と共に、張飛は馬車の屋根を突き破り、そのまま外へ飛び出してもた!
関羽は溜息一つで、ウチに指示する。
「ほら見ろ。仕方ないでござる。おまえは運転手を頼む。我は張飛を回収する」
「な、なんでやねん! ウチ、転生前の世界で、免許持ってへんねん!」
「大丈夫。これは魔導仕立て。『想いを強く持てば、馬車はそれに応える』と孔明様が言っておった」
そんなファンシーな原理で、巨大な馬車を運転しろってか!
ハンドルを握るウチの横で、関羽はライブグッズの団扇を優雅に一振り。
緑色の光が迸り、関羽の体が宙に浮いた。
空中で張飛が飛び出した屋根の穴に板を嵌め込みつつ、関羽はウチに声をかけた。
「急げアイル。南中はすぐに瘴気が濃くなる。それに、あの『血晶石の山』の麓には、魔物よりも面倒な『南中の猛将』がいると聞く。張飛の回収と合流は、その前でござる」
覚悟を決め、叫ぶ。
「くっそー! 想いを強く、想いを強く……! かっこええ武将と出会ったら、胃袋、わしづかみにしたるでぇ!」
馬車は、その気合に応えるかのように一気に加速した。
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