スマホと関西弁とカマボコがあれば、ホンマに世界は救える!
ウチの名はアイル。
酒と気まぐれを愛する、ちょっと破天荒な女や。
《レッドライオン》のギルドマスター、エドワードと聖騎士長ヴァレンティアの視線が、孔明の使者に突き刺さる。酒場とは思えぬ張り詰めた空気が流れていた。
「洛陽の攻略に力を貸すか――それとも見て見ぬふりをするか。軍師殿からの依頼は、この二つです」
「……はぁ?」
ウチはスマホを開く。地図に映る洛陽城は二重の壁で囲まれ、外壁に傭兵、内側に庶民の街、さらに奥に王城。守られるのは王だけ。民は、餌や。
「……クソやな」
吐き捨てると、使者の声が冷たく響く。
「庶民は囮にすぎません。洛陽が蹂躙されても、内城さえ残れば問題ありません」
酒場がざわめく。ヴァレンティアの目が揺れ、拳が微かに震える。
「民を犠牲にして笑うなど、断じて許されぬ!」
エドワードも低く唸り、カウンターを拳で叩きつける。
「フザけんな……! てめぇらの都合で街を地獄に沈めていいわけあるか!」
あの軍師なら、ほんまにやる。
袁紹を討つためなら、民は駒にすぎん。
スマホが点滅する。『真実の心』アプリが映すのは、袁紹の黒、曹操の野望、孔明の計算――誰もが自分の正義だけを振りかざす。
カマボコをひとかじり、ウチは椅子を蹴る。
逃げれば楽や。でも誰かが見捨てられ、最後はノーパン勇者が横取りする。
「――ウチは孔明の策に乗る」
「アイル!?」
エドワードの声が震える。
「民を犠牲にする作戦だぞ!」
「わかっとる!」
酒場が一瞬静まり返る。視線も空気も、すべてウチに集中する。
「ウチが行く。街を好き放題にさせへん。放っといたら、最後はぜんぶ『曹操のおかげ』にされる」
ヴァレンティアは息を呑み、やがて小さく笑った。
「なるほど……“策に乗る”とは、孔明殿ごと利用するということか」
ウチはスマホを胸に押し当て、深く息を吸う。
守るのは酒場、そして街。戦を終わらせる以外に道はない。
ドアに手をかけ、口元を吊り上げた。
「ほんまの英雄は――ウチや」
夜明け前の冷たい風が酒場を通り抜け、窓の外では街の影が長く伸びる。
ウチは息を整え、口元を吊り上げた。
心臓の鼓動が耳の奥で響く。
張り詰めた空気の向こう――戦いは、もう動き出していた。
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