追放少女、女神の千年加護で覚醒
<アイル>
夜空を裂く雷鳴が、大地を震わせた。
戦場は炎と血の匂いに包まれ、剣戟の音と魔法の咆哮が交錯する。
「我こそは勇者、曹操孟徳! この一撃で道を切り拓く!」
黒髪の青年が長剣を振り下ろすと、紅蓮の刃が閃き、敵兵をまとめて吹き飛ばした。
「喰らえっ! 《破天裂斬》!」
巨躯の戦士が戦斧を振り下ろし、鎧ごと敵を粉砕する。
「《メテオ・インフェルノォッ!》」
天から降り注ぐ隕石が敵陣を焼き払い、大地が爆ぜた。
放ったのは魔法使い――その掌から迸る魔力は、まさに破壊神のごとき威力を誇った。
「皆の者、傷は癒やしておこう。《ブレス・オブ・ガーディアン》!」
聖魔法士の光が仲間の傷を閉じ、同時に戦う力を高めていく。
その中で――月光に照らされる茶髪と、澄んだ碧い瞳を持つ少女は、ただ立ち尽くしていた。
(……また、出番なしや。どんだけ頑張っても……誰も見てくれへんのやな)
戦いが終わると、曹操が戦利品の宝箱を開く。
中には金貨と希少な武具がぎっしりだ。
酒場で豪華な料理が並んだ。
ローストチキン、香草バターのステーキ、山盛りのパン。
勝利の宴――のはずだった。
「さて、分配だが……お前にはこれだ」
曹操が放ったのは、銅貨数枚。
「は? ウチ、遠征ん時も物資運びや、荷馬車の修理や、地図の作成も――」
「戦場で戦わぬ者に、金貨を渡す理由はない」
曹操の声は冷たかった。
「それに……お前がパーティーにいると、我らの名声に傷がつく」
戦士がワインを飲み干し、鼻で笑う。
「いちいち口出すな、荷物持ちは黙っとけ」
魔法使いが言葉を刺す。
「回復も攻撃もできない者など、護衛する手間ばかり増える」
聖魔法士が吐き捨てる。
曹操が立ち上がり、最後の一撃を放つように告げた。
「――お前は今日限りでパーティーから外れてもらう」
視界が揺れた。
幼馴染だったはずの顔が、見知らぬ敵のように見えた。
十年前から、一緒に夢を追ってきたはずやったのに――。
(どんだけ、努力しても……あかんかったんやな)
街をさまよう。
石畳を冷たい風が吹き抜け、灯りはまばらだ。
明かりに照らされた指は、荷車の縄で擦れて固くなっている。
(誰より早起きして準備して、誰より遅くまで片付けして……それでも足手まといやと)
(……もう、ええわ。終わりにしよ)
橋の欄干に手をかけた、その瞬間――。
天が裂けた。
黄金の光が降り注ぎ、女神が舞い降りる。
雪のような白髪、翡翠の瞳。背には羽のような光。
「……なんや、あれ……」
女神は微笑み、静かに告げた。
「早まってはいけません。あなたはせっかちで、何度転生しても、加護を与える前に勝手に飛び出してしまう。だから今回は――まとめて授けましょう」
光の魔法陣が宙に輝き、幾重もの光の鎖が少女を優しくも力強く包み込む。
風が巻き上がり、周囲の空気が震える。
力が、全身に流れ込むのがわかる。
体中の感覚が拡張され、視界が鮮やかに、聴覚が冴え、力が漲る。
千年分の祝福が、身体と魂に浸透する。
剣の手応え、魔力の奔流、回復の力、感知の鋭さ……
あらゆる能力が、これまでの限界を突き破り、桁違いに膨れ上がっていく。
「……ぜ、全部乗せ? ラーメンかなんかと勘違いしてへんか……」
思わず口をついて出た関西弁の独り言も、光の波にかき消される。
視界が眩しくなり、身体が宙に浮くような感覚に襲われた。
そして、女神は最後に、静かに名を呼んだ。
「――アイル」
胸の奥で何かが弾けた。
自分の名前が呼ばれたことを理解したとき、世界は光に飲まれ、全てが変わった。
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