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(下)ちょっとした大騒動 〜暴走魔道具 虎臥竹林〜

後半です

店に戻ったカロリナはしばらくは少々暇な時間を過ごした。平日の昼間、魔道具店というのはそれほど客が出入りする場所ではないのだ。


昼を過ぎたころ、次の客が来た。陰気な若い男で、手には何やらモゾモゾと動くものが入った袋をぶら下げている。


「また、これの調子が悪くて……げぇ、あんた、新人か」


何が「げぇ」だろうか。カロリナは少し気を悪くしたが、つくり笑顔で答えた。


「はい、カロリナと申します。魔道具の調子が悪いそうですが、どうなさいましたか?」


「…………」


男は顔を真っ赤にして黙ってしまった。


「あの、お客様?」


その時、男が持っていた袋の中身が一層激しく暴れだし、


キシャアァァァッ!


と叫び声のようなものまで発したのでカロリナは腰を抜かした。


「なっ、何ですかそれ!」


男はなおも黙っている。目が激しく泳ぎ、大変不審だ。


カロリナがドン引きしていると、騒ぎを聞きつけたオーティスが駆けつけた。


「トゥールブさん!あんた、またそれ持ってきたのか」


「またって、オーティスさん、あれ、何なんです!?この人、お店に来てから全然しゃべらないし、わけわかんないですよぉ」


「まあとりあえずこれを見ろ」


オーティスは男が持っている袋から魔道具をつまみ出してカロリナに見せた。


「猫?」


それは良くできた猫の縫いぐるみのようだった。それが、唸り声を発しながら暴れているのだ。


「何で猫の縫いぐるみが暴れているんです?」


「ただの縫いぐるみじゃねぇよ。これも魔道具だ。少し前に流行っただろ?」


「あー、理想のペットってやつですか。田舎でも噂くらいにはなっていましたよ。で、何でそれが暴れているんです?」


数年前、ティレン社が「理想のペット」と銘打って縫いぐるみのような魔道具を発売していたことをカロリナは思い出した。


「前にもこんな風になって、メーカー修理に出したんだわ。一応大人しくなって帰ってきたけれど原因不明なんだってよ」


「とにかくまずは止めないとですね。お客様、スイッチを切らせていただきますね」


カロリナが魔道具に近付くと、トゥールブが飛び退くように離れた。カロリナは避けられていると感じて少々傷ついたが、それよりも、何もしていないのに猫の魔道具が大人しくなったことの方に驚いた。


「あれ、止まっちゃいましたね」


「そうなんだわ。前もトゥールブさんから引き離すと止まったんだよなあ。あんた、何も自分で暴れているのを持ってこなくても、連絡くれたら引き取りに行ったのによ」


「……誰かが家に来るなんて怖いじゃないか」


トゥールブはボソボソつぶやくように答えた。一応、オーティスとは会話できるようだ。それにしても、家に誰も上げたくなくて、苦労して暴れる魔道具を運んできたとは恐れ入る。


「またそんなことを……まあいいや、カロ、モデル名“虎臥竹林”でマニュアル開いてや」


「ええと、こがちくりん、と……今は動かなくなっちゃったから、“動作しないとき”……“(1)スイッチが入っているかお確かめください”、だそうですよ」


「動いてたんだから、スイッチが入ってないはずがないだろ……ありゃ、入ってないわ」


「えっ、じゃあさっきは何で動いていたんです?」


「スイッチ入れても動かんな……ああ、魔石に魔力がないわ」


オーティスが腹部のスイッチを入れ、首輪から下げられた魔石をチェックしながら言うと、カロリナは真っ青になった。それでは怪奇現象ではないか。


「スイッチも入っていない、魔石の魔力もない、それで動くはずが……」


「……貸して」


呟いたのは2人のやり取りを聞いていたトゥールブである。オーティスが「いいぜ」と彼に近付くと、再び魔道具は暴れ出した。


「ギャアアアア!動いたあ!!」


とうとうカロリナは悲鳴を上げて尻もちをついた。彼女はお化けや怖いものが大の苦手なのだ。


「どうしたの!?」


悲鳴を聞きつけて店の奥から現れたのはゾルダムである。その後から、別の人も着いて来ていた。来客中だったのだ。


「あらまあ、カロちゃん、びっくりさせてごめんなさいね。


今日は初めて出張修理に行ってもらったり何だのでトゥールブさんがいらっしゃると伝え損なってしまったのよ」


「うわああん、ゾルダムさぁん!」


ゾルダムの姿を認めたカロリナは、ウサギのようにその場を逃げ出し彼にひしと抱きついた。完全に涙目になっている。


「何なんですかあれ!怖すぎ!無理!」


「カロちゃん落ち着いて。あれを調べるためにお客さんを呼んでいるのよ」


そして、ゾルダムに着いてきた客人が名乗った。


「ティレン社のキャスリン・カウワーと申します。珍しい不具合が生じている魔道具があるとのことで、調査に参りました」



「まだ暴走の原因までは分かりませんが、魔力切れなのに動いた原因は分かりました。ピプス様の魔力が直接作用していたのです。ピプス様、魔法を学ばれたことは?」


しばらく魔道具を調べていたキャスリンが問いかけたが、当のトゥールブ・ピプスは店の入口近くまで離れていて、聞こえないようだった。


「なあ、トゥールブさんよ。魔法を勉強したことがあるかってよ……ってあんた、なんでそんなに離れたところにいるんだぁ?」


仕方ないとばかりにオーティスが近付いて二言三言会話を交わし、戻ってくる。


「女が苦手で近付きたくないんだとよ。難儀なこって。そうそう、魔法は勉強したことないって言ってるぜ」


「女が苦手」という発言に女性陣が微妙な顔つきになる。そして気を取り直したようにキャスリンは説明を続けた。


「では、こうお伝えください。魔道具を暴走させるだけの魔力放出があるならば、それを魔法庁に報告する義務があります。私どもで報告はいたしますので、近日中に魔法訓練校への出頭通知が来るはずですからご対応ください、と」


オーティスがそれをトゥールブに伝えに行ったが、何やら揉め始めたようだ。「女が苦手」と言われては近付くわけにもいかず、他の3人は雑談を始める。


「トゥールブさんの魔力のせいで暴走したということは、魔道具自体には不具合はないということかしら?」


(ゾルダムさんって話し方は女性だけど、トゥールブさんにとっては苦手に入るのかなあ)


「動力源が何であれ、異常な動作をするからには不具合はあるといえますね。この商品は外部魔力による操作を前提としていませんので、それが原因でしょう。持ち帰って、外部魔力を遮断するなどの改造をする必要があるかもしれません」


カロリナがどうでも良いことを考えている一方、キャスリンが生真面目に答える。カロリナは何とはなしに猫型の魔道具を撫でた。


『気安く触らないでちょうだい!』


「えっ!」


素っ頓狂な声に、ゾルダムが驚いて尋ねた。


「どうしたの、カロちゃん?」


「この猫、気安く触らないでって……」


「これに喋る機能はないわよ」


「えっ、じゃあ、さっきのは……」


カロリナは再び真っ青になり震えだした。もう怖いのは勘弁して欲しい。そんな彼女にキャスリンが告げた。


「魔道具に触ったら声が聞こえたのですね?それは恐ろしいものではなく、あなたの素晴らしい才能です。ゾルダムさん、詳しく説明させていただきたいのですが、奥の部屋をお借りしても?」


キャスリンの依頼に、ゾルダムはハッとしたように表情を引き締めた。


「いいわよ。私も同席させてもらうけど。


オーティスちゃん!魔道具はティレン社で対策するためにしばらく預けていただくことになりそうよ。私たちは奥で大事な話があるから、説明よろしくね!」


「オッサン!この人、魔法訓練校なんて無理だってゴネて……ああ、行っちまったよ、畜生め……」


オーティスは大変そうだったが、カロリナは自分のことでいっぱいいっぱいで気にしている余裕はなかった。キャスリンは気の毒そうにオーティスを見たが、カロリナへの話の方が重要と判断した。ゾルダムは、オーティスなら何とかするだろうと状況を放置した。



奥の部屋ではゾルダムが茶を淹れている傍ら、キャスリンの説明が始まった。


「カロリナさん、あなたが聞いたという声は魔道具に宿る精のものでしょう。これまでにも魔道具から声が聞こえたことがあるのではないですか」


「いいえ、こんなことは初めてで……あっ、さっきの陰晴円欠!……出張修理に行った先で、不思議な声を聞きました!」


陰晴円欠の言葉を聞いたキャスリンの片眉がピクリと上がった。そこに茶器を配りながらゾルダムが割り込む。


「それ以前には?」


「うーん、多分、なかったと思います」


「普通は魔道具の精の声が聞こえるのは生まれつきなのですが、まれに、突然その声を聞くようになる人がいます。そのほとんどは精によって交信のための魔法流路を刻み込まれたことによるものです。


陰晴円欠はわが社の魔道具の中でもかなり凝った魔法流路が刻まれていますから、人に流路を刻み込むような強い精が宿っていても不思議はありません」


カロリナは呆気に取られていた。まさか自分にそのようなことが起きるとは……


「ふふ、カロちゃんは魔道具の扱いが丁寧だから、その精に気に入られたのかも知れないわね」


茶を注ぎながらゾルダムが言う。キャスリンは今度はゾルダムに問いかけた。


「魔道具の精のことはあまり一般には知られていないはずですが、驚かれないのですね」


茶菓子を置きながらゾルダムは答えた。


「私自身は精の声を聞くことはできないのだけれども。長く魔道具に関わっていればそんな知識もついてくるものよ」


「魔道具の精と交信できる方は大変希少です。わが社はこの国で一番、世界でも有数の魔道具メーカーと自負しておりますが、そのわが社にもこの能力がある者は3名しかおりません。カロリナさんには是非……」


「おっと、その先は続けさせるわけにはいかないわ」


「それは困ります、わが社としては……」


「うちにも彼女をお預かりした責任というものが……」


(へえ、そんなに珍しいことなんだ……)


大人同士が何やら難しい話を始めたので、カロリナは猫の魔道具、虎臥竹林を見つめながらぼんやりと思った。すると頭に声が響いた。


『そうね、わたしの声が聞こえる人間は初めてよ』


「わあ、びっくりした!」


カロリナが突然声を上げたので大人2人は驚いて会話を止めた。


「どうしたのカロちゃん?」


「すみません、虎臥竹林の精に話しかけられて、驚いてしまって」


「そうだったのね。その精は何と?」


「声が聞こえる人間はわたしが初めてだって」


カロリナとゾルダムが話し始めると、キャスリンは「ちょっと失礼します」と一旦部屋を出た。


「折角だから、どうして暴走が起きたのか聞いてみたらどうかしら?」


「なるほど、精なら何か知っているかもしれませんね」


『わたしたちと話すときには、声は出さない方がいいわよ。その人たちは大丈夫みたいだけど、普通は変な子だと思われるから。


それで、暴走のことだけど、知ってるも何もあれはわたしがやったの』


(えーっ、どうしてあんなことを?)


カロリナは早速、声に出さずに心の中で話すように心掛けてみた。ゾルダムはニコニコと見守っている。魔道具の精とは心で話すものだと知っているのだ。


『この魔道具、猫らしい動きができるだけのものなのだけれども、あの持ち主ときたら、自分に懐いたような動きをさせようとして無理やり魔力を流してくるのよ。だから抵抗したのよ』


(でも、トゥールブさん、自分に魔力があるって分かっていなかったみたいよ?)


『そうだったの?じゃあ、あれは無意識にやっていたのね』


(あの人、女性というか人付き合いが苦手そうだし、寂しかったんじゃないかしら。お友達になってあげることは、できそうにない?)


『ちょっと魔力の流し方が乱暴だったから嫌だったけど、優しくしてくれるならいいわよ』


(ありがとう)


「ゾルダムさん、分かりましたよ。魔力の流し方が乱暴なのが嫌で暴れていたそうです。トゥールブさんが魔法訓練校で魔力の扱いを練習したら、もう大丈夫になりますよ」


「そう、良かったわ。それなら彼にそれを伝えないといけないわね。訓練校に行きたがらない様子だったから心配だけど」


「魔力の扱いを覚えれば、虎臥竹林の暴走は止まるって教えてあげれば、きっと、訓練校に行くと仰るはずです」


そこに、キャスリンが戻ってきた。手には見慣れない魔道具を持っている。ゾルダムは優しい顔から一転、厳しい目つきで彼女を見据えて問いかけた。


「……孤煙六型……お偉いさんと話でもさせようと?」


「いえ、こちらは通信速度が改良された八型となります。カロリナさん、弊社人事部代表が対応しますので、どうか、お話だけでも聞いていただけませんか?」


「人事部の代表の方ということは、わたしが魔道具の精とお話できると分かって、雇い入れたいと仰っているのですね」


「察しが良くて助かります」


「わたしはこのお店から離れたくないのですが……お話さえもお断りすればキャスリンさんは困るのでしょう?その魔道具でお話できるのですか?」


「……すみません。お気遣いいただいてありがとうございます」


キャスリンが孤煙八型をテーブルに置いた。ゾルダムは


「何てよい子なのかしら……」


と口に手を当てて感激している。やがて、ルルルル、という呼び出し音に続いて魔道具から男性の声が発せられた。


「キャスリン君かね?状況を教えてくれ給え」


「交信能力者のカロリナ嬢から対話への同意を頂いたところです。当社代理店ニコニコ堂店主のゾルダム様も同席されています。彼女の雇い主です」


「そうか、ご苦労。カロリナ嬢、お話の機会を頂き感謝する。では、映像を……」


すると孤煙八号にはめ込まれた青い透明の窓が光り、空中に男性の姿が現れた。


「わあ、こんな魔道具があるのですね。こんにちは、わたしはニコニコ堂のカロリナです」


「魔道具越しで失礼。人事部代表のカトファン・ヒューテクです。そしてゾルダム君、久しぶりだね。元気な様子で良かった」


「驚いた、まさかあなただったとはね。そちらも変わりないようで良かったわ……カロちゃん、この人は私の元上司よ。私は以前、ティレンで魔道具開発をしていたの」


「そうなのですね。カトファン様、いつもお世話になります。改めて、よろしくお願いします」


「うむ。実を言えば、今日は何としても君を口説き落としてわが社に引き抜こうと思っていたのだがね、そちらがゾルダム君のお店だということで気が変わったよ。


カロリナ君、そのお店で働きながら、時々、わが社の魔道具開発に協力いただけないだろうか。もちろん、その度に報酬をお支払いしよう」


そこにキャスリンが疑問を挟んだ。


「よろしいのですか?機密保持上問題があるかと思われますが」


「構わんよ。ゾルダム君ならば信頼できる。カロリナ君、ゾルダム君、どうかね?」


「わたしは、良いのですが……ゾルダムさん、いいのでしょうか?」


「それなら願ってもない話ね。カロちゃん、是非、お引き受けするといいわ。カトファンさん、これからカロちゃんをよろしくお願いするわね」




その後、諸々の細かい話を終えて3人が店に戻ると、オーティスが店のカウンターに突っ伏していた。


「オーティスちゃん、トゥールブさんはお帰りになったのね?」


「……オッサンよぅ、面倒ごとを俺だけに押し付けてひでぇじゃないか……トゥールブさん、魔法庁への報告は止めてくれって、しつこくて……」


それは大変だっただろう。カロリナは気の毒に思って謝った。


「オーティスさん、ごめんなさい」


「悪いのはおまえじゃねえ。オッサンだ」


「分かったわよ。今月のお給金にご苦労賃を上乗せしておくわ。それに今日はもう上がっても良いわよ」


「そりゃありがてえ……」


オーティスはノソノソと店の奥に下がっていった。その姿を見送ったカロリナは虎臥竹林を抱き上げながら言った。


「ところでこの子、どうしましょうね?トゥールブさんが魔法の練習をしたらもう暴走しないってことは、改造はしなくていいんでしょう?」


「しかし、今返却すればまた暴走する可能性が高いですよ」


確かにキャスリンの言う通りである。


『しばらくなら、我慢してあげてもいいわよ。この魔道具がないと、あの人は寂しいんでしょう?』


(本当?助かるわ)


思いがけない申し出にカロリナは喜んだ。


「虎臥竹林の精はしばらくは我慢してくれるそうです。わたし、この子をトゥールブさんに帰して、魔法訓練をした方がいいと説得してきてもいいですか?」


「うーん、でも、女性が苦手ということだったから、カロちゃんが行くのはどうかなあ?」


「そういえば、家に誰かが来るのは怖いって仰っていました」


「仕方ないわね、電話して、取りに来てもらいましょう」



夕方、トゥールブは再度来店した。


「いらっしゃいませ。お待ちしていたわよ」


対応するのはゾルダムである。


(ゾルダムさんの話し方、トゥールブさんは平気なのかな……)


カロリナは少し離れた店内で掃き掃除をしつつ、ハラハラと見守った。しかしどうやらそれは杞憂だったらしい。


「あれを、取りに来た。もう暴れないって、本当か」


「ええ、しばらくは大丈夫なように応急処置をしたわ。でも、訓練校で魔力の制御をおぼえないと、いずれまた暴走することになるわよ」


(うまく魔道具の精のことは伏せて説明してくれたわ。さすがゾルダムさん!)


カロリナは感心した。トゥールブはしばらく黙り込み逡巡したようだが、やがてこう言った。


「……仕方ない。訓練校には行くから、あれを引き取らせてくれ」


「いいわよ。はい、どうぞ」


ゾルダムが虎臥竹林を渡すと、トゥールブはそれをしっかりと抱えた。その様子に、カロリナは思わず声をかけた。


「良かったですね、トゥールブさん」


案の定、彼は顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。その態度にゾルダムは小さくため息をついた。


「彼女には感謝することね。暴走の仕組みに気付いたのも、応急処置をしたのも、カロちゃんなのよ」


トゥールブは目だけを動かしてチラリとカロリナを見て、再度目をそらし、ほとんど聞こえないような小声で言った。


「そうか、ありがとう」


そして踵を返し、店のドアの前で「じゃあな」とだけ告げて退店した。


カロリナは驚いてしばらく何も言えず固まっていたが、ハッと我に返ると店の外へ駆け出した。


「トゥールブさん!ご来店ありがとうございました!」



この日訪れた客はトゥールブで最後だった。


「カロちゃん、今日は色々あり過ぎて疲れたでしょう。あなたももう上がっていいわよ。あとの片付けはやっておくから」


「えー、店先の掃除くらいしていきますよ」


「本当にあなたときたら……いいわ、それだけお願いね」


店の玄関で掃き掃除をしながら、カロリナは今日のできごとを回想していた。


おしゃべりが大好きなゼマ婦人、ちょっと意地悪なオーティス、優しいメイティス氏、寂しがり屋のトゥールブさん、魔道具の精、真面目なエンジニアのキャスリン、実はティレン社の元開発者だったというゾルダムに、その元上司のカトファン。


今日は本当に充実していた。これから下宿の小さなアパートに帰ったら、いつもよりちょっと良いごはんを作って自分へのご褒美にしよう。


この日はまさに彼女の人生の転機だったのだが、そういったことは往々にして後になって気付くことである。こうして彼女の「ちょっと大変だったけれどもいつものように頑張った一日」は過ぎていったのだった。


お読みいただきありがとうございました

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