第87話:滇国の王族
張遼と祝融が対峙しているその頃。夜襲を掛けた時に張遼隊と離れ単騎で敵陣に突撃していた呂布は、ある男に多大なる恐怖を齎していた。
「な、な、何故だ。何故策略が何も効かん……!」
陣の小高いところで全体を俯瞰しているその男の名は朶思。何を隠そう滇国王雍闓の長男である。脳筋が集う南蛮の中では頭のいい部類に入り、南蛮一の知恵者と呼ばれている彼は眼の前の光景に唖然としていた。
「っ……!」
軽く方天画戟を振るうだけで人が数メートル飛ぶ。幾ら伏兵を置こうが全員木っ端微塵にされる。その冗談のような光景に朶思は声も出なかった。
「……」
その時、呂布が上を見上げて朶思の姿を捕らえる。するとそのまま馬を駆け、一直線に朶思の元に向かってきた。
「くっ……! だ、だが、見晴らしの良いところに居るんだから、勿論狙われるのも織り込み済みだ! 皆の者、かかれぇ!」
合図と共に百人ほど居るだろうか、部隊が草むらから現れて呂布の行方を遮った。
「「「うおおお!」」」
声を上げて突撃する兵達。そんな彼らに呂布は方天画戟を振るうことで応じた。
「かはっ……!」
「ぐぁっ……!」
「が……くっ……!」
方天画戟で人が飛ぶのは勿論、背後からの奇襲も手で防がれる。それだけならまだしも奇襲を掛けた人は頭を手で掴まれてそのまま味方に向かって投げられる。投げる度に道が開く。投げられた人は当たり前のように絶命する上、投げられた味方に当たった人も当たりどころが悪いと死ぬ。大勢で一人を囲んでいるのにも関わらず、その様子はもはや一人による大量虐殺劇であった。
「そ、そんな馬鹿な……!」
伏兵の最後の一人が赤兎馬に踏まれて絶命した時、大量の屍に囲まれている呂布は冷たく朶思を見つめていた。
「い、嫌だぁ!来るなぁ!」
必死になって石を投げようとする朶思の首を、呂布は静かに刈り取った。
同じ頃、龐徳と高順は共に歩兵で殲滅する軍として正面から奇襲を仕掛けていた。彼らの眼の前に相対するは孟優と雍闓らの夜郎本陣である。
「何故陣中に火が回った!」
「阿会喃と董荼那は何処に行った!」
「火を消せ! 急げ!」
混乱に陥った陣に向かって龐徳高順軍が忍び寄る。
「かかれぇ!」
龐徳の号令と共に潜んでいた歩兵が一気に突撃する。龐徳は先頭に立って戦い、高順は全体的な支援をする。陣形を乱すことなく夜襲する側に対して、夜襲される側の不利は圧倒的だ。陣形どころかそもそも兵舎から出てきたばかりの兵達、自らも寝ていた将。彼らは次々と歩兵の手に掛かり、命を落としていった。
「……! そこに見えるは雍闓と孟優!」
且蘭制圧の際に顔を覚えていた龐徳が叫ぶ。その目線の先には鎧を着終えたばかりの二人の首長が居た。
「ここで殿と若への手土産にしてくれる……!」
叫びながら斬り掛かる龐徳。ちなみに馬超を若と呼ぶ癖は未だ健在である。
「ぐぁっ……!」
突然の一撃を防ぎきれなかった孟優が血を流して倒れる。
「くっ……! 守れ! 者共、守るんだ!」
孟優が死ぬのを見て慌てて周りを固めさせる雍闓。その集団と龐徳含めた兵達の一団が勢いよくぶつかっていく。
「おらぁ!」
「やぁ!」
「死ねぇ!」
あっという間に乱戦と化し、敵味方入り乱れる光景になった。しかし禄に武装も出来ていない兵舎から出てきたばかりの兵が戦況を巻き返せる筈もない。徐々に討ち取られていくと雍闓の周りも残るは数人程になってしまった。そんな時、兵達の中から龐徳が飛び出して肉薄しながら叫ぶ。
「覚悟ぉ!!!」
「くっ……!」
辛うじてその一撃を防いだ雍闓も、徐々に押されていく。
「何をっ!」
咄嗟に雍闓は龐徳の足を払う。しかしそれを避けた龐徳は続けて雍闓に下段から薙刀で斬り上げる。
「……っ!」
それを何とか剣で防ぐ雍闓。そのまま薙刀を跳ね上げると龐徳に向かって大上段から斬り掛かる。
「それっ!」
すかさず中断から薙刀を横に回す龐徳。雍闓はそれに対応しきれず、胴に深く薙刀が刺さったのであった。
「ご、ごふっ……」
血を吐きながら雍闓が地に伏せる。龐徳は雍闓と孟優二人の首を部下に切り取らせて高順に預けるよう言うと、そのまま残党狩りの指揮を始めたのだった。
雍闓の長男は朶思ということにしました。南蛮一の切れ者なので、何も問題は無いでしょう(?)
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