第3話:ここはどこ?わたしはだれ?
「兀突骨様、目を覚ましましたか?」
そこは質素な屋敷だった。壁は土壁ではあったがある程度飾り付けがされている。そんな中で俺は目を覚まし、どうやら召使いらしいお爺さんに声をかけられていたのだった。そのお爺さんは髪が白く、灰色の質素な服を着ている。心配するような表情も無いようで、何か事件が起こってゲー厶が始まるわけでも無さそうだった。
って、今何て言った? 兀突骨? え、あの南蛮でも僻地に住んでる人? 諸葛亮のせいで炎に舞って死んだ人? 色んなゲームで知力1な人? ま、まさかな……。ステータス、オープン!
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PN:兀突骨(12) LV:1
種族:蛮族
称号:【脳筋】、【アホの子】、【神の子(転生者)】
HP(体力):50
STM (スタミナ):20
STR(筋力):50
DEX(器用):5
AGI(敏捷):10
TEC(技量):5
VIT(耐久力):50(150)
LUC(幸運):30
特殊スキル:藤甲兵
スキル:複写EX、鑑定EX、WEBウィンドウEX、巨象、暴烈
装備
左右:肉切り包刀
頭:草冠
胴:藤鎧
腰:革のベルト
足:無し
アクセサリー:勾玉の首飾り
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えぇ、マジで兀突骨なのか……。道理で器用値と技量値がゴミなわけだ。
兀突骨というのは、三国志、それも三国志演義という史実をデフォルメした小説に出てくる脇役の名前である。史実より小説の方が遥かに有名になってしまった為に、現代だとゲームなどにも当たり前のように実装されているキャラだ。俺がプレイしようとしているこの三国志炎舞も、三国志演義、更にそれに加えて三国志に纏わる様々なお話の登場人物がキャラとして登場している筈だ。
それはそうとして、改めて兀突骨とは何者なのか。今確認できるWikip●dia先生によると『身の丈12尺(後漢の尺で276cm、魏・晋の尺で288.2cm)の巨漢で、体が鱗で覆われている。また穀物の類は一切食べず、生きた獣や蛇を食べている』らしい。化け物じゃねぇか。
しかも、それに加えて『油を藤の蔓に染み込ませて鎧状に編んで乾かした藤甲を着た、刀や矢も通用せず川などでは浮いて移動する最強の兵、藤甲軍を率い、自らは象に乗っていた』という。スキルに巨象なんてあった理由は此処だろう。
ただ問題は其処では無く、兀突骨は『油を藤の蔓に染み込ませて鎧状に編んで乾かした藤甲』を着ていた為に、史実(と言っても演義ではあるが)実質主人公的な立ち位置の、かの有名な諸葛亮孔明によって丸焼きにされてしまっているのだ。敵の挑発に対して寸分も疑わずに乗り、挙句の果てに焼き殺される。これが諸処のゲームにて『知力1』とされる所以だろう。傍から見てる分には面白いかも知れないけど、プレイする側としては号泣するしかない。勘弁してくんねぇかな…。
少し納得がいかないけど続きを見てみよう。種族は……蛮族!? いや可笑しいだろ! そこは人間じゃないのかよ! てかこのゲーム、皆がそれぞれ登場人物になるのか。そこは技術力の強みが出てるな。
んで、称号は脳筋と神の子か。納得いかないけど取り敢えずスルー……って、え? 神の子? 転生者?
「……えーと、お爺さん、今は何年ですか?」
「今日ですか?兀突骨歴12年3月ですよ?」
あぁ、兀突骨本当に頭悪かったんだな……。
「いや、そうじゃなくて、西暦で……てか今漢では何が起きてる?」
「それならばこの前劉宏が崩御なさったと聞きましたが」
劉宏、つまり霊帝の崩御だ。これが何時だって? 覚えてるわけないじゃないか。こんな時こそWEBウィンドウの出番()
某Googl●パイセンによるとどうやら189年らしい。兀突骨は177年生まれだったのか……。
それはいいとして、ゲームだと現在時刻も分かったはずだ。勿論ゲーム内時間ではなく、現実世界の時間である。えっと、現在時刻は……ウィンドウの右下を押せばいいのかな? よいしょっと。
"現在時刻:189年9月15日"
あ、お月見だねーってそうじゃねえええええええ! 嫌な予感がしてたんだよ、転生とか転生とか転生とか! たしかに前世に未練は無いけどさ! 会社はブラック、嫁も嫁候補もおらず、何かあるとすれば親孝行をしたかったくらいだけどさ! あ、あと課金の為に用意した数十万円は心残りだな。今となっちゃ意味ないけど。
それでも諦めきれず、最後の希望にかけて目の前のウィンドウの画面を端から端まで眺め回す。ログアウトのボタンは……無い。ログアウト! と心の中で強く念じてみても、何も出てこない。ですよねー。
……え、ホントに転生したの? マジで? 転生したら兀突骨だった件とか? ハハッ、笑えねぇよ(泣)
「どうかしましたか? 兀突骨様。いつにも増して変ですぞ?」
おいしれっと毒吐いたぞこの爺さん。
「えっと……お爺さんの名前が思い出せなくって……」
「毎朝それ言いますよね。私の名前は布岳と申します」
どうやらこの爺さんは布岳と言うらしい。てか毎朝それ聞いてたのか、兀突骨。
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