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第127話:徐晃覚醒

チカッ!

 

 長安東門の城門の上から光の合図が見える。それを見た瞬間、徐晃は天に火矢を放って銅鑼を鳴らさせた。

 

ジャーン! ジャーン!


 古来より続く襲撃開始の合図である。徐晃らは馬を駆るとそのまま戦場に躍り出た。徐晃の用いる武器は大斧。それを南方に向けて彼は叫ぶ。

 

「南方より東に向かい、奴らの増援と奴らの部隊の連携を切れ! その間に北門の奴らが畳み掛けてくれる! 皆の者! 私に続けぇ!」

 

「「「おおおおおおお!」」」

 

 凄まじい勢いで敵に斬り掛かる徐晃。唐突なその突撃に攻城戦を予定していた部隊はたじたじとなり、次々と斬り伏せられていく。

 

「なっ、そんな馬鹿……ぐはっ!」

 

 指揮官らしい人も混乱の中殺され、混乱は増々助長されていく。歩兵戦に長けている人だとは思えない速さで敵の中を走り抜ける。その手腕は見事としか言うことが無く、益州軍の中で東門を攻めてた部隊はあっという間に連携が掻き乱された。そしてその隙に北門から出た部隊が襲いかかる。今度は背後からの急襲に指揮官を失った益州軍が対応できる筈もなく、総崩れとなっていく。

 

「よし! 攻城兵器を確保しろ! そうでなくても壊しておけ!」

 

 目を滾らせながら徐晃が声を張り上げる。攻城兵器を接収して東門の攻勢を不可能にすると共に、それに対応しに来た部隊を返り討ちにして南門まで解放するというのが今回の作戦だ。接収まではスムーズに進まなければ話にならない。


 なお、徐晃は預かり知らぬ所だがその頃南門では火薬を扱う藤甲兵の部隊が出てきた所であり、やる事が無くなった普通の攻城部隊は左右に振り分けられてそれぞれの門の攻略に回されようとしていた。その為増援は尋常でない数であり、南門を攻めていた部隊の半分が東門に向かっていた。

 

 そして、敵が大量に居ることに徐晃も気づく。突破には時間がかかりそうな上にかなり骨も折れそうだが、それでもやるしかない。まずは目の前の敵を一人一人撃破していくのが先決である。


「行け! 突撃しろ! これを凌げば南門だ! 長安は守りきれる!」

 

 そう激励して徐晃自ら敵に向かっていく。眼の前に居た敵を一刀両断にすると次の獲物と一瞬で距離を詰め、そのまま肉薄する。史実で五将軍とまで評される張遼と並び立つ漢を一介の雑兵がどうこう出来る筈もなく、その兵はごく当然のように頭が胴と泣き別れすることになった。その返り血を浴びたまま次の敵兵へと向かう徐晃の様子は恐怖でしか無く、益州兵は震え上がって腰を抜かすものの次の瞬間にはその首も飛ぶ。斧を振り回しながら数多の首を周囲に飛ばす光景に、総崩れになっていた益州軍は更に瓦解していく。

 

 と、その時だった。突如轟音が響くと南門の方角から黒煙が上がるのが見えた。南門に何か有ったのか。そう察した徐晃は急いで眼の前の敵を片付ける。だがそうして敵を跳ね除けて見渡しが良くなった徐晃が見たのは、奇怪な鎧を着けた集団と崩れ落ちた南門であった。


「楊奉様っ!?」


 我を忘れたように南門に向かって走る。南門が崩れ落ちている以上もし南門の上で指揮を取っていたらもう助からないということは一目瞭然だが、それでも一縷の望みを掛けて。邪魔する敵を轢き潰しながら限界まで馬を駆って叫ぶ。

 

「よ、楊奉様っ! 楊奉様っ!?」

 

 だがその声に応える者は居ず。簡単な話爆散したのだから、遺体すら見つかるはずもない。逆に徐晃の冷静さを失った様子に、周囲の益州軍は一斉に斬って掛かる。


「くっ!?」

 

 幾ら徐晃でも突出しすぎて完全に包囲されたのに敵を倒し続けることは出来ない。辛うじて周囲からの剣戟を防ぐと、というかそれすらも人間離れした所業なのであるが、そのまま交戦を始めた。



 

 その頃、少し離れて城門の破壊に成功した藤甲兵の部隊はその様子を眺めていた。

 

「ありゃあ、誰だかは知らねぇがやべぇな」

 

「あぁ。大将から俺らは火に近づいてはいけないって言われているし、俺らが向かうことも出来ねぇ。アレ使ったせいで城門の所には何処に火種が有るか分からんからな」


 勿論藤甲兵にとっての大将とは兀突骨の事である。当の本人は仕事があると賈詡(かく)によって陣中に幽閉されているのだが、そんなのは些細な事だ。それよりも長安の南門一帯が爆炎のせいで所々燃えている方が問題である。


「どうすんだよこれ。東門と西門の包囲部隊は殲滅。南門は破壊に成功したもののとんでもねぇ手練れが出てきたと来やがる。というか彼奴は何処から来た? 東門か? 西門の方は奴の部下だと言うのか?」

 

「取り敢えず甘寧殿に報告するべきだろうな」

 

「あぁ。取り敢えず俺らの仕事は完遂したしな。撤退だ」

 

「「「おう!」」」

 

 そう言って藤甲兵達は自分達の部隊だけで颯爽と退却していく。もし彼らが火を恐れずに徐晃と斬りあったとしても大斧に藤鎧はあまり意味ないので、これは僥倖だっただろう。下手すれば他の兵と同じように蹴散らされていた筈である。


 他の歩兵が戦い続け、藤甲兵が抜けた戦場はもう少し長引く。この戦況を変えるのは恐らく先に出陣した李傕(りかく)郭汜(かくし)か船上で追加の策を練れる甘寧、そして李傕(りかく)郭汜(かくし)を撃破出来た場合の馬騰(ばとう)や呂布らの騎兵部隊であろう。徐晃が単騎奮闘している以上、長安内にも長安を攻めている部隊にも、もう策を練れる者は居ない。この戦いの行方は他の地で起こる戦闘に託された。

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刺突斬撃無効の藤甲兵でも質量攻撃には耐えれないですもんね。鉄砕棒とか⚪⚪斤の~な長物の打撃いける相手も増えてきそう、
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