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第123話:武功の戦い

「やぁぁぁ!!!」

 

 雄叫びを上げながら乱戦の中で馬騰(ばとう)と斬り結ぶ。しかし樊稠も馬鹿ではない。流石に西涼鉄騎と呼び声高い馬騰(ばとう)に一騎討ちで勝てるとは思っていない。


「だが……これほどか……!!!」

 

「はははぁ! 貴殿も中々やるようだが、娘婿殿の器具の前では無力だったな!」

 

「何っ!?」

 

「これは鐙という物だ。これがあるだけで馬の操り易さが数倍は違う。運が悪かったと思ってくれたまえ!」

 

 鐙。それはこの時代の騎兵が単純な鞍のみを用いて騎乗していたことに驚いた兀突骨が開発した物である。馬騰(ばとう)らが率いる西涼軍や加勢して長安奪還を実行する呂布隊や張遼隊に導入されており、その効能はかなり大きかった。因みに今回の長安戦では益州の諸将が兵を出し渋った結果、兀突骨配下の軍と西涼軍を主として戦略が立てられている。

 

「器具如きでそれ程動きが変わるものか!」

 

「嘘だと思うなら着けてみるといい! その機会は来ないと思うがな!」

 

 そう言って馬騰(ばとう)は矛を振り上げる。樊稠は辛うじて耐えると、周囲を素早く見渡した。

 

「くっ、見くびったか……!」

 

 そこで彼が見たのは数の有利を覆されていく自軍の姿だった。兵の質は同じ、いや寧ろ多少勝っている程だが、身に付ける器具の質はまるで違う。ただでさえ馬騰(ばとう)隊の馬は高価な鉄鎧を使った規律の取れている精鋭なのに馬の操作性まで上げられては敵わない。更に言えば将の質でも馬騰(ばとう)側が勝っており、樊稠こそ知らなかったものの、馬騰(ばとう)が戦っている間に指揮を取って助太刀していたのは馬超であった。親子の繋がりと言うべきか、馬騰(ばとう)の一騎討ちの形勢と見事な連携ぶりを見せるその指揮は確実に場を掻き乱していた。


「隙有り!」

 

 混乱する様子を見渡して馬を止めた樊稠の隙を馬騰(ばとう)が見逃す筈も無く、馬上から鋭い突きを放つ。樊稠はそれを防いだものの、体勢を崩して落馬してしてしまう。

 

「まだまだぁ!」

 

 まるで光のような速さで馬騰(ばとう)は神速の突きを次々と繰り出す。流石は騎兵戦の第一人者なだけあり、その矛は樊稠の鎧を穴だらけにすると素早く首を刈り取って高く掲げたのであった。

 

「敵将樊稠!討ち取ったりぃぃぃ!」

 

 この時、この日一番の歓声が上がった。



 

 残りの幾つかの戦場の戦いはこれ程派手では無かった。まず李傕(りかく)側に樊稠より強い武将が出陣していない事も有ったし、実力派の韓遂と中華最強の『飛将』呂布、その戦術の隙間を堅実さで埋める張遼によって正しく蹂躙されていったからである。李傕(りかく)軍にとって敵が鐙を装備していたというのは悪夢以外の何でも無かっただろう。鐙さえ有れば普通の騎兵も西涼鉄騎並みに強くなるというのに、それを元から西涼鉄騎に比する呂布らが着けたらどうなるか等考えるまでもない。山の一方に隠れていた伏兵に至っては、真正面から呂布に誘引されて出てきたところを振り返った呂布によって文字通り叩き潰されたのである。これでは何も見る所が無いというのも致し方無いだろう。


 ともかく韓遂、呂布、張遼の凄まじい奮戦と馬親子の上げた首級によって長安郊外、武功の戦いは益州軍の大勝で幕を閉じたのであった。

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