第98話:士燮との同盟
興平元年(西暦194年)4月
チャキュウ(ダナン)の屋敷で兵の分配をし終えた兀突骨は少数の騎兵部隊で成都に向かった。だが直接成都に向かうのは食糧や安全面で不安が残るということで、所々の村に寄りつつ成都に向かっていく。そんな中、ついでに進乗(箇旧)に寄ろうとした兀突骨は軍の一隊を見つけたのであった。
「あれは……?」
味方では無さそうな旗を掲げる軍を見て馬超が言う。ちなみにここに付いてきている人は兀突骨に賈詡、象兵を連れた木鹿大王に呂布と馬超、張遼、そして祝融だけである。歩兵の龐徳や高順、水軍まで使える甘寧は南方の防衛の為に連れてきていない。
「少し俺が見てくる」
呂布がそう言い残すと馬を走らせる。直後、辺りに呂布の大声が響き渡った。
「そこの軍はどなたか! 名を申せ!」
その声を聞いた軍の中から一人の男が歩み出てこれもまた叫ぶ。
「交州刺史士燮である! 此度は兀突骨殿の凱旋と聞いて、共に成都に向かおうと思って参った!」
え? 士燮? え、何しに来たんだ? 狸爺同士で面会ってか?
「士燮様!」
変に呂布達が無礼を働かないように兀突骨が前に出て言う。
「もしかして前の件ですか?」
「それもある!」
「なら分かりました! 進乗(箇旧)に入って話しましょう!」
「かたじけない!」
大声で叫び合った後に、それぞれ軍の中に戻っていく。こうしてさしたる衝突も無く、士燮軍と兀突骨軍は合流することが出来たのであった。
時は流れて進乗(箇旧)にある兀突骨の屋敷にて。元は兀没卒が住んでいたその屋敷で兀突骨と士燮は二人で対談していた。
「……早速本題に入らせて貰うのだが、儂は劉焉殿の下に付くことに決めた」
「以前提案していたその件ですか」
士燮には交趾に援軍に向かった際に劉焉に従わないかと誘いを掛けていた。その話なのだろう。
「あぁ。劉焉殿ならば儂の領土に干渉して来ないであろうしな」
そう、劉焉からすれば交州が支配下になっても干渉する理由が無いのだ。益州から遠い上に反乱も多く、治めるにも距離が遠くては治めづらい土地。それでいて臣下の礼を取るのだから防衛義務は有るという、劉焉にとってみれば非常に嫌な選択である。まぁあの狸爺なら何とかするとは思うけどね。
「近頃袁術や劉表からの圧力が減ったのだ。代替わりしたからなのか、孫家からも圧力が無くなった。そこで儂自ら出向くには丁度いい時だと思って来たんじゃ」
面白おかしそうに笑う士燮。いや、使者で十分だったでしょ絶対。
「そ、そうですか……」
「あぁ。それで、もう一つの件なのじゃが」
「もう一つの件?」
「あぁ。兀突骨殿、お主少し前の酒の席で粤江(珠江)以南の地域を割譲してほしいと言っていたじゃろ?」
「え?」
「そこでなんだが、共に交州と南蛮を治めたほうがいいと思うのだ」
「へ?」
え、ちょっと待って。話についていけない。粤江(珠江)以南の割譲? そんなこと言った覚えが無いぞ?
「殆ど今迄通りになってしまうが儂が東方、兀突骨殿が西方を治めることにしたいと思う。どうせどちらも劉焉殿の配下に加わる者同士なのだから共同統治でも問題はあるまい」
いや確かにそこら辺の地域を得られたら計画が一段と進むけど……。しかしそれを酒の席で言った? 全く見に覚えが無いんだが? 況してや士燮の前でそんなことを言うはずが無い。そんなもの喧嘩売ってるのと同義じゃないか。
「……兀突骨殿?」
「え、あ、あぁ、はい。それでいいのでは無いですか?」
「有り難い。儂の息子共も頼りにならないもんで、奴らに交州を渡すくらいなら兀突骨殿に交州を預けた方がいいと思って言ったのじゃが。まさか了承してくれるとはの」
「えっと……」
「息子共が反乱を起こすと言うのじゃろう? あんな腑抜け共が集まっても何もできないわい」
いや、反乱を起こすっていうのは今言いたいことじゃないけど……。でも確かに反乱は起こしそうだし……。あぁこんがらがってきたよ面倒くさいなぁ! もうどうにでもなれ!
「では士燮様、そのことはいつ発表しますか?」
「ん? 兀突骨殿は今居るここが本拠地なのじゃろう? 何なら今発表してもらっても構わんぞ?」
「……いや、では成都に着いてから発表しましょう。今だと混乱も多いでしょうから」
「はっはっは。一理ある。そこまで読めるとは増々感心したわ」
「揶揄わないで下さい」
「いやぁ、すまんすまん」
腹を抑えて笑う士燮を見ていると何故だか腹が立ってきた。目上の人に振り回されるって言うのはこう云うことか。なんか布岳の気持ちが分かってきた気がする。
そんな中、急に扉が開かれると、とある人物が部屋に乱入してきた。
「何奴!?」
「兀突骨、ここにいるかい! 孟獲は何処にいるんだよ!」
「し、祝融殿か」
「孟獲の元には何時になったら着くんだい?」
「え、進乗(箇旧)の牢屋に居るって言ったと思うけど」
「牢屋が見当たらないのさ!」
嘘だろオイ。
「と、取り敢えず連れて行くよ。すみません、では士燮様、私はこれで」
「あぁ、儂は軍が出発するまでこの屋敷に居ればいいんじゃな?」
「も、もう勝手にして大丈夫ですよ! 適当に客間とか使って頂いて……痛い痛い痛い! 祝融殿、今連れて行くから!」
そう言って祝融に引かれて連れて行かれる兀突骨を士燮は複雑な面持ちで見つめていた。
「あの女子、捕虜だったのでは無いのか……?」
ちなみにこの後祝融と孟獲の処遇が交趾での軟禁に決まったことはここに記しておく。
いや、その、ホントに、真面目に、言い訳じゃないんですけど、曜日感覚が完全に狂っていて、「まだ次の話出せないかなぁ」と本気で思っていました。
いや月曜日も水曜日も余裕で過ぎてるだろうが…。お詫びで1話増やして更新しようと思ったんですけど、100話の切れ目をお詫び更新で迎えるのもアレかなと思い…というのは幻覚でした。今日漸く気づいたのですが、なろうって100話を超えると筆者側での作業も2ページ目に移るんですね。1ページ目の最終更新が6/13になっていて、2回分更新忘れたのかと目ん玉が飛び出るぐらい驚きました。今目ん玉拾い集めてます。予定通り、金曜日6/20に更新で大丈夫そうですね(6/19なう)
なお南蛮の現時点での勢力図に関してはこの話か次の話くらいまでに用意できればなと思います。如何せん主人公を暴れさせ過ぎたせいで領域が広く、今までの地図だと枠外に飛び出してしまっているので下地から作り直しです。もう暫くお待ち下さい。
今後とも何卒宜しくお願いします。
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