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~序章~

~人としてわたしは生きるのをやめたのだ。愛する人は遠くに行ってしまった。わたしはそこに彷徨い続けるだろう。わたしは彷徨い続けながら過去と現在と、そして未来をも体験するだろう。そこではわたしのことなど誰も知る者がいないだろう。そこでわたしは生き続ける。人外のものとして彷徨い続けるのだ。 ダイニ~

 波が浅瀬に規則正しく打ち寄せは引き、岩を洗い砂を巻き上げそこに住む生き物たちを弄ぶように笑い洗い流すかのようだ。


 岩礁の窪みに金属でできた構造物が打ち捨てられている。

そこは子供達の格好の遊び場であり、水面から下は魚たちの住処となっていた。

少年は小さな頃からその構造物を遊びから遊びへの中継地点として使っていたし、村の大人から逃げるための隠れ家だった。


 彼は今日も誰とも話さず一日を過ごした。

声が出せない訳ではないが、声を出す不快感から逃れるために、わざと誰とも目を合わせることなく過ごし一日を終わろうとしていた。


 夕日が鉄の塊の向こうに沈もうとした時、彼はオレンジ色の光の反射の中に違う反射をする束を見つけた。


 少年はもう一度鉄の塊の構造物によじ登り、光が屈折していた辺りを探した。

斜めに倒れてしまった金属製の構造物をよじ登るのは容易ではない。

足の取っ掛かりがない平坦なものが斜めになっている。

滑り台を逆さまから登るより難易度が高い。

しかし彼はそれを難なくよじ登り、光が屈折していた辺りを探した。


 海鳥が巣を作っていた隙間の丁度上あたりに、砂が大量に堆積している部分を見つけた。

彼は小さな両手を熊手のように使って砂を掻き出した。

砂を半分ほど掻き出した後、何かを見つけた。

ドアのようなものだ。

小さなドア。

取っ手が平面に隠されるように存在していた。


 少年はその取っ手を垂直に起こし、左方向に回した。

その時、少し構造物が揺れた気がして動きを止めてしまったが、気を取り直して更に左に回した。


 何も起こらない。

音も何もしないが、確かに取っ手が回るための距離を全て使い切って回した感じはしていた。


取っ手は回転の終着地に到達しかつんと音を発した。


 彼は取っ手を自分のいる方向に引っ張り、そしてその力は極限地点に達し、もう必要とはされなくなった。


そう、扉が開いたのだ。


 縦25センチ横8センチほどの小さな部屋があった。

中に何かが縦に入っていた。

鈍く光るそれを手に取った少年が振り返った向こうは、大きく見えるふたつの太陽が今まさに海の向こうに沈み行く瞬間だった。


―――『心ここに在らざれば視れども見えず聴けども聞えず食えどもその味を知らず』―――

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