7.奇貨可居(きかかきょ)
周辺探索をすると決めてから暦板を十枚ほど取り換える程度の月日が経っていた。その間も探索と地図作成に精をだし、合間に薬草採取等をこなしていたエンタクのランクもいつの間にかDランクである。
ただ退屈し始めているのも事実だったし、それは相棒のリンリクプルも同じで、特に商売女のいる酒場が無いのが一番の不満だ。終いにはもう冒険者稼業には協力しないとまで言い始めていた。
「なあヨマリマ、念のため聞いてみるんだがな? 本当にこの村には他に依頼は来ないのか? 例えば旅の行商人が依頼していくとかあってもおかしくねえ。次来るまでに何かを集めといてくれとかそう言うヤツだよ」
「今までゼロではありません。でも年に一度あるかどうかですね。理由は簡単でそんなまともな行商人が来ないからです。基本的には交易馬車へ委託して王都やその他の街で売って来てもらい、必要なものをまた買ってきてもらうことが多いです」
「そうか、物を持ちこんで売るには市場規模が小さすぎて割に合わないってんだな? つーことはその辺りに商機があるってことでもあるな。まあそんな資本は無いんだが。それにしたってこのまんまじゃランクが上がら無くて仕方がねえ」
「エンタク氏は何故そんなにランクを上げたいのですか? 村の生活には全く影響がないのに。自慢する相手もいませんし。稼ぎも十分ですよね?」
「なに言ってんだよ、生きてるからには欲が無かったら楽しさがねえってモンじゃねえのかい? ヨマリマだってなにかを楽しみに仕事してるんじゃねえのか?」
「そうですねえ、私の場合は他にやることもないし、親も同じ仕事をしていたので後を引き継いだだけですから。楽しみと言えば家庭菜園くらいなもの。お金を貯めていつか旅行をしたいとは思ってますけど代わりの受付がいないと無理でしょうね」
常にギルド受付に張りついていて、そこから動いたことを見たことがないほどずっと座っているヨマリマだが、確かに代わりがいなかったら冒険者は困るだろう。しかし冒険者と言ってもエンタクとオマケのクプルの他には流れの駆け出しががたまに来る程度。それと――
「おお! エンタクどんはここにおっちゃらいかい。村中探し回ったじぇ。ちと頼みがあるんじぇき、相談どのっとくじぇり」コンチクショウ、うるせえやつがきやがった、とエンタクは呟いた。
その嘆きを聞いたクプルは、エンタク同様困ったような顔をしてから手慣れた様子で自分たちの周囲に魔力の壁を作る。こうでもしないと耳すかになってしまいそうだからだ。
「このボンクラ、オメエは声がでけえんだよ。そんな大声出さなくったってちゃんと聞こえらあ。んで何の用だ? どうせロクでもねえことだろうがな」
「なんじぇとコラアア、オラはボンクレじぇと何回言わせるどよ! まさかおまいさんわざと言ってるんじぇねったいね?」むしろわざとだと思っていなかったところに驚いているエンタクである。だが細かいことは後回しにするおおらかなこのずんぐりむっくりなドワロクは構わず続きを話し出す。
「ま、んなことどうでもいいじぇな。おまいさんに頼みごとがあるんじぇき。実はオラのカミさんの妹の旦那のおっかさんが、仲間内数人連れじぇってこん村まで遊びじぇ来いやがんどよ」
「なに!? オメエの相方のなんだって!? まあそりゃどうでもいいか」ボンクレに負けじとおおらかなエンタクである。
「どうでもいいとじぇ聞き捨てならんじぇよ。オラのカミさんの妹の旦那のおっかさんじぇと言ってるじぇねとよ!」
「わかったわかった、とにかくオメエの知り合いが村へ来るってんだな? んでオレにどうしろってんだ? まさか自分が面倒だからってこの辺を案内してもてなせなんて言うなよ?」
「やっぱりオラの見込んだ男じぇよ。名誉ドワロクと呼んでもいいくらいじぇき。だがオラのカミさんの妹の旦那のおっかさんは狂っちゃいないじぇぞ? ちんとまともじぇきどっか景色どいいところでも案内してやってくんなまし、頼むじぇよ」
「なんでオレがそんな真似しねえといけ―― 待てよ? もちろんただってわけじゃねえな? 一日いくつか回って2エントってのはどうだ? オレが回ってみたとこで景観が楽しめそうな六、七カ所を三日で案内してやろう」
「おおお、それで頼めるなら喜んで払うじぇい。あとは泊まるとこさがあればいいんじぇきなあ…… できらた一軒家で荷物の少な空家じぇあるど都合良きじぇが…… おまいさんそんなとこ知らんじぇき?」
「わあったよ、オレの家を片付けりゃいいってこったろ? こっちは一日3エントだ。何日くらい滞在する予定なんだ? それによってオレもどうすっか考えっからよ?」
「いちよ六晩くらいの予定じぇよ。なんか全部全部世話になるなんど悪い気もするじぇがちゃんと金ど払うからよろしく頼むじぇい。前払いでもええじぇよ?」
「そりゃ助かるな。どこか寝るところを探さねえといけねえからな。ギルドの物置でも借りるとするか。それか酒場の納屋も良さそうだ。それでいつから明渡せばいいんだ?」
「おん、今晩からじぇよ」
エンタクは先払い代金をひったくると大急ぎで家へ向かった。
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きか-かきょ【奇貨可居】
好機はうまくとらえて、利用しなければならないというたとえ。珍しい値打ちのある物は貯えておいて、将来値が上がってから売ること。
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