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こちら異世界観光タクシー ~SSSSパーティーから追放されたマッパーのオッサンは辺境で観光ガイドを開業してみた~  作者: 釈 余白
第六章:オッサンは絶望と刺激と変化と充実で出来ている

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70.空空寂寂(くうくうじゃくじゃく)

 まったく胸糞悪い話であるが、王国中枢部が中心となり進めている事なのであればあらがいようがない。知ってしまったことが不幸だと言えるくらいである。きっと国外へ逃げようとしても出る前に抹殺されるだろうし、一生このまま監視付きで過ごすのかと憂鬱になっている夫婦だった。


 そこには、そんなことには我関せずと言った具合にボケーっと座ったままで果物をかじっているミチュリと、まさか自分まで監視対象なのかと疑いを持ちつつも強硬策で確かめる事も出来ず不機嫌そうな顔つきのクプルもいる。こうして四人はアマザ村から帰って来て何もする気が無く無気力なままで数日が経過していた。


 それでも予約が入っている日になれば観光案内へと出掛け、見た目だけはいつもの生活へと戻っていけているようにも見える。その観光ルートは、グノルスス洞穴の入り口すら塞がれてしまったため以前のままとはいかず、これで今までも少なかったムサイムサ村へ冒険者が訪れることはほぼ無くなったと言えよう。



「まったく商売あがったりだぜ。思い通りに行かないことばっかでヤンなっちまうなあ。まあ行動に移す前で良かったとも言えるがよ」エンタクはアマザ村でカミリガンを助けようとしたことを引き合いに出した。


「まったくあの女ったらトンデモないことしてくれたさね。捉まって監禁されたフリしたからってシェルドンが言うこと聞くとも限らなかったのにさ。逆にあの野蛮人が何人もいる女の一人に執心するなんてことに驚きだよ」それは確かにそうだとエンタクも大いに頷く。


 確かに事情を細かく知ってしまえばアマザ村の異常性は抜きんでている。母親である村長に言われれば、考え方のずれたカミリガンであれば、男一人言うこと聞かすために捕らえられた演技くらいいくらでもするだろう。その母親もシェルドンが言うことを聞かなかったらカミリガンを殺しかねない、そんな狂気を感じるのだ。


それでも努めて平静を装った一家は当たり前の日常を過ごし、あの日から三十ほどの晩が経過した。



「おーうい、(けえ)ったぞ。おいどうした!? 灯りも灯さずにどうしたって言うんだ。具合が悪いなら後はオレがやるから寝室へ――」エンタクが床へへたり込んでいる愛妻の顔を確認すると、そこには目の周りを腫らし悔しそうな表情が見て取れた。それによく考えると――


「そうか、その時が来ちまったってことか。後はオレがやっとくから奥で休んでてくれ。後で温かいもんでも持っていくからそれまで横になってるんだ。いいか? 余計なことは考えなくていいからな?」とぼとぼと力なく歩くハイヤーンを何とか部屋へと押し込んだエンタクは、観光客へ謝罪しながら夕飯へ連れて行く準備を進める。


『おいクプルよ、ハイヤーンが早まったことをしないよう見といてくれ。動きがあったらすぐに教えてくれよな。頼んだぞ?』普通の精神状態であれば滅多なことをするとは考えづらいが、目の前でミチュリを連れて行かれてしまったのだから突発的な行動に出ることも考えられる。


 ひとまずは風呂を用意して客を案内すると、その隙にハイヤーンの相手をしようと部屋へ向かったエンタクである。だが思いのほか表情にやわらぎが戻っており拍子抜けしてしまった。


「なんだ? もしかして自力で立ち直れたのか?」少しさみしそうなのが丸わかりだったのか、ハイヤーンは苦笑しながら言葉を返す。


「まあ初めてのことで戸惑ったってのが大きいさね。ただ無理矢理にさらって行ったわけでもなく、ミチュリがいつものように淡々とした態度で当然のように手を引かれて行ったことはショックだったねえ。でもあのおかしな力のことが本当ならまた戻ってくるんだから待つしかないよ」


「そうだな、一度は俺たちも味わっているんだから信じるしかねえだろう。しかしどういう原理で時間が巻き戻るなんてことが起きるってんだ? 魔法なら出来てもおかしくねえってこともないだろうに」


「そりゃそうさね。世の理に反してることは間違いないし、あの儀式と言うか実験場で求めているのもそう言う力なんだろうさ。だったら王族が入って自分たちが力を手にすりゃいいんだよ、オマイさんもそう思わないかい?」


「もちろんそう思うぜ。そのことで考えていたことがあったんだがな? 前に言ってたミチュリを平常に戻すことはもう試せねえのか? そりゃ元からああだし治るってのとは違うだろうが、人格みたいなのが出て来たならどうなっちまうんだろうなって思ってるんだよ」


「そうだねえ、アタイが考えていたのは催眠とか暗示とかに分類される術式だから、魔法で直接的に作用させるわけじゃないんだよ。でもあの子にだってちゃんと意志はあるはずだろ? 喰いもんに好みはあるし、水辺が好きだったり、あの文字に反応したりするんだからさ」


「そうだよな。つまり赤ん坊に物を教えるみてえに一からなんでも教えて行ったら話くれえ出来るようになるかもしれねえぞ! よし、オレは客を酒場へ連れてった後にゴロチラムのところへ行ってくるぜ。オメエは一杯やりながら待ってろよ。それとも今日は家にいるか?」


「そうだねえ、さすがにあんまり酔っぱらう気分でもないし、帰りになにか持ってきておくれよ。ゴロチラムへ何を頼んだかは後でちゃんと教えるんだよ?」


「うむ、家一軒建てるって大仕事が無くなっちまってショック受けてたからな。少しでも稼がせてやらねえと悪い気がするぜ。まあ大したもんじゃねえが小銭くらいは受け取ってくれるだろうて」エンタクは得意そうに鼻の頭をかいた。




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くうくう-じゃくじゃく【空空寂寂】

 空虚で静寂なさま。執着や煩悩ぼんのうを除いた静かな心の境地。無心。転じて、何もなく静かなさま。また、思慮や分別のないさま。


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