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6.晴耕雨読(せいこううどく)

 このムサイムサ村の冒険者ギルドでは、冒険者の扱いにおいて王都グレイナロとは全く違う運用がなされていた。王都では現在のランクに見合った依頼のみを受けることができる、ある種の保護システムがあったのだが、ここではそんな決まりはない。と言うよりは、そんな選べるほどの依頼が存在しないのだった。


「つまり依頼はこれだけってことか。薬草採取と毛皮採取ってのは冒険者の仕事じゃねえぞ? 本来は猟師の仕事だからなあ。その護衛って言うならわかるが役目を兼ねてるってことなんだな?」


「ええそうです、依頼の体にしてますけど、個別の依頼と言うよりは仕入れに来る業者用に蓄えているんですよ。そのためにギルドで掲示して買い取り続けて、その成果を含めた実績によってランクアップを認定する仕組みです」


「なるほどなあ、つまりここではただ依頼をこなしていてもDランク止まりってことか。レア素材を偶然でなく継続的に集められればCランクまでというのは王都と同じかい?」


「それはナロパ王国の冒険者ギルド共通ですね。村の近隣でも珍薬草や珍茸類は獲れますから。ムサイムサ村トップの冒険者はCランクですよ。年配のドワロク夫婦ですがそのうちお会いするのでは?」


 目の前の受付嬢(年増)の言葉に頭が痛くなってくるエンタクだが、次はハナから壁へ向けてやると誓っているので、また鉢合わせても問題は無いと信じていた。そんなことよりも問題は依頼と言うか仕事が無さ過ぎて生計を立てる目途がまるでつかなそうなことである。


「なあ()ちゃんよ、他になにか仕事はねえのかい? 単純な力仕事は出来るだろうし狩猟も出来るとは思うんだが、なんと言うかもうちっとらしい(・・・)やつがあると助かるってもんさ」


「そう言われても依頼を出す人がいませんからね。そもそもここへやってくる冒険者は、珍薬草などを目当てにやってくる駆け出しばかりですよ。オジサンが腕に自信あるって言うならあまり横取りしないでもらいたいです」


「エンタクだ。だがオレもランクを上げていかねえとだしなあ。仕方ねえ、ダンジョンでも行ってお宝を拾ってくるしかねえか。確かこの近くにはグレイフォーリアの大滝があるな?」


「ヨマリマです。グレイフォーリア近くのダンジョンへ行くんですか? 村を経由して向かう冒険者はいますけど、あまりいい話は聞きませんねえ。碌な成果が得られない場所として有名ですし、今は行く人もあまりいないと思いますよ?」


「そうなのか? 確か国宝の巨大トルマリア原石が出た場所なんだろ? そんな場所が不人気とは解せねえなあ。この村へ立ち寄っていないだけじゃねえのか? と言っても他に中継地点はねえか」


「森で野営(キャンプ)している冒険者がいるかもしれませんけど、そんな行動にあまり意味はないでしょう。補給を考えたら村を使った方がいいと思うので、滅多にいないと言うことは不人気なのかなと」


 大昔にドデカい貴石の原石が見つかったことで一時期は大ブームになったともっぱらの噂だったがそれも百年以上前の話らしい。と言うことはすでに熱は冷めてしまっていると考えた方がいいだろう。それを狙い目と考えるか、無駄だと考えるか、エンタクは悩んでいた。


 だがオッサンはここで大切なことを思い出した。それは自分の得意分野が散策を主とするマッパーであり、それで長年生計を立ててきたと言うことである。つまりこのムサイムサ村周辺のマップを作り、やってくる駆け出し冒険者へ売りつけようと考えたのだった。


 そのためにもまずは自分が地域を把握する必要がある。そしてここまで決まれば方向性は定まり、日々どう過ごせばいいか簡単に導き出すことができ、やることも見えてくると言うものだ。


 こうしてエンタクはクプルを伴って地域探索を始めることにしたのである。もちろん明日から。


「ところでこの村で日用品を売ってる場所はねえのかい? 食器も何もねえから少しは揃えたいと思ってるんだ。まあないならないで構わねえがな? それでも起き抜けに水も飲めねえのは不便だろ?」


「村へやってくる交易隊(キャラバン)を待つか、ゴロチラム爺に頼むしかありません。森の入り口に住んでる木こりで、まあまあ器用で頼めば作ってくれますよ。金属武具が必要ならキャラバンを待つしかありませんけどね」


「そうか、教えてくれてありがとよ。これは礼だ、一杯やってくれ」エンタクはそう言ってから、王都と同じ相場ならこんなもんだろうと、カウンターの上に半エント銅貨を一枚置いた。


「あらやだこの人ったら随分キザな真似するんですねえ。でもありがたく貰っておきますね、ありがとう」


 どうやらここにはチップの習慣は無かったようである。エンタクは愛想よく笑顔を見せながらギルドを出て来たものの、内心では惜しいことをしたと悔やんでいた。


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せいこう-うどく【晴耕雨読】

 田園で世間のわずらわしさを離れて、心穏やかに暮らすこと。晴れた日には田畑を耕し、雨の日には家に引きこもって読書する意から。


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