67.往古来今(おうこらいこん)
襲ってきた賊たちを次々に起こし、何やら説明してから勝手に返していくシェルドン。それからエンタクたちへ近づいてきた。
「いいかオマエラ、これからその娘の危険性について説明するから疑わずにちゃんと聞いて理解しろ。それでも抵抗するなら今度はお前らの命は完全になくなるもんだと思えよ?」冗談でもこけおどしでもなく、シェルドンの目は真剣そのものだった。
「ああ、まずは話を聞いてからだと言いたいが、オマエさんの意に添わなければあっさりと殺られっちまうんだろうな。オレはともかく、付き合いの長いハイヤーンまでやるこたねえだろうに」
「なに言ってんだよオマイさん、冗談でもそう言うことは言わないでおくれ。それよりもまずは話を聞こうじゃないか。場合によっては全員でアマザ村へ行けば済むってことだろう?」
「まあそれが一番穏便かもしれないな。さすがはハイヤーン、オッサンと違って理解が早くて助かるぜ。いいかエンタク、オマエはしょせん力も頭も足りないAランク冒険者に過ぎないんだよ。無理してええカッコしいしなくていいってことさ」SSSSランク冒険者に言われると説得力が強い。
そんな辛辣な苦言を叩きつけられたエンタクだが、それでも言い返さずに大人しく話を聞く素振りを見せた。まあ逆らっても敵いっこないと言うのもあるし、今は真相を聞くのが先だと考えているせいもある。
二人が大人しく聞く気になったことを確認し、シェルドンは顛末を話しはじめた。
◇◇◇
シェルドンとカミリガンが姿を消した理由
「だから結婚するからパーティー抜けるとか軽々しく言ってんじゃねえよ。お前は俺のもんなんだから勝手な真似は許さねえぞ。今までどれだけ手間暇金かけてここまで面倒見てきたと思ってるんだよ」
「でもアタシはその分体で払って来たでしょ。それに親が決めてるんだから簡単に反故にできないもの。それならシェルドンが貰ってくれればいいじゃないの。そうじゃなくて遊びで構ってるだけならもう解放してよ」
「誰が遊びで女を囲ってるって言ったよ。俺はすべての女に平等なだけだ。全員をかわいがってるし、それぞれにあった援助をして面倒を見てるんだ。そこに結婚なんて俗世間的な仕組みを当てはめてねえだけだぜ」
どうやらシェルドンにはシェルドンなりの愛があるようだ。しかしそれでカミリガンが納得できるはずもなく話は平行線をたどったままである。
「それならアタシの親にそう言って説得できる? 村と家のしきたりで、もうそろそろ子供を作らないといけないの。本当は休暇中に話を付けてもらいたかったけど、今からでもまだ遅く無いもの。シェルドンが堂々と言ってくれたら親も納得してくれるかもしれないでしょ?」
「なんだそんなことかよ。その事情を先に言えば二度手間にならず今頃は方が付いてたってのに。んでお前の故郷はどこなんだ、何ならこんな退屈な仕事ニクロマへ任せて今から行ったっていいぜ?」
「本当に! アマザ村だから帰りがけでもいいんだけど……」
「いや、帰りになったら調査員と一緒だから自由が効かなくなる。構わねえから今から行くぞ。ついて来い」
アマザ村での出来事
「お母さん、アタシの彼が結婚を止めに来たの。事情は話して覚悟を持ってきてくれたんだからちゃんと話を聞いてあげて欲しい」
「お母さんもお父さんも村のしきたりを守れば相手は誰でも構いませんよ。ただ大人間だと言うのが気になりますけどね。まあ生き物としては人間と近いのだから繁殖にそれほど支障は無いでしょう」
「随分と生々しい話をするじゃねえか。結局冒険者を続けられねえってことは一緒ってことはその対策を考えないといけないぜ。ハイヤーンも辞めるって聞かねえし頭が痛いぜ、まったくよ」
「あの女の話はしないで…… アタシ大嫌いなの」
「そこまで嫌う理由があるのか? まさかあの年でオボコだからって嫉妬してるんじゃないだろうな。お前みたいな尻軽とは違うのかもしれないし、ただ単に同性愛主義者かもしれないがな」
「どうでもいいから名前を出さないで! そんなことよりアタシを貰う気があるのかどうか、今すぐに決めて欲しいの」
「貰うも何もすでにお前は俺のもんだ。誰にもやらねえし、子供を作らないとならないなら従うしかねえんだろ? 今この場で初めても構わねえぞ?」シェルドンはふざけたことをふざけた口調で言い放った。
「やる気があってよろしい。それではカミリガン、部屋へ案内して好きなだけ目合いなさい。婿殿にも仕事があるでしょうからその合間合間に来てくれれば良い。子ができるのは早ければ早いほど助かりますからね」
「助かるってどういう意味だ? まさか子供らを喰らって生き伸びてるんじゃあるまいな? いくら俺でもそう言うのは勘弁だぜ? せめて若い働き手が必要ってくらいにしておいてもらいたいもんだな」
シェルドンがカミリガンへ尋ねるような視線を送るが、彼女も何も知らないらしく、村長や長老と呼ばれている重鎮のみが把握しているしきたりとしか聞かされていないようだ。そしてその疑問にはカミリガンの母親が答えた。
「いいですか婿殿、この村では太古の昔から続けられている儀式があるのです。それはとても危険を伴うもので今まで多くの子供が命を落としてきました。しかしそのことに怯え儀式をやめることは許されません。これは人類すべてに関わることなのですから」
「なにやら随分と大仰な話を聞かされても信じられないぜ。大体子供を危険な儀式に使うってのがイカレてるな。親の愛情とか母性みたいなもんが何も感じられなくて実に俺好みだ。笑えるよなカミリガン、お前の子供が生まれても儀式で死んじまうんだとよ」
「それは知ってるから何とも思わないけど? アタシの上にも姉さんがいたらしいけど、儀式で命を落としてしまったと聞いてるの。でもこの村の初めての子供は全員同じだもの。それが当たり前だと思ってたから、違うと聞かされた時の方が驚いたわ」
「いいねえ、実にイカレてる村だ。それでその儀式ってのは魔法や呪いみたいなもんか? 丁度今回の仕事で行ったとこにも怪しげな儀式場みたいなもんがありやがって親近感がわいてくるよな」
「ああ、確かに儀式っぽい雰囲気はあるかもしれない。そうだ! お母さん、そう言えばミチュリって口のきけないおかしな子がこの村にいたでしょ? その子が今回仕事で行った村にいたけど引き取ってもらったの?」
「カミリガン!? それと婿殿!? その村と言うのはムサイムサ村で中年夫婦が連れていたのでしょう? 儀式場のような施設と言うのはまさかグノルスス洞穴の奥ではあるまいね?」
「えっ? その通りだけど良く知っていますね。今まで未発見だった領域って聞いていたのに、お母さんは知っていたのね」カミリガンはのんきに感心しているが、母親の顔はみるみる強張っていった。
「なるほど…… カミリガン、こちらへおいでなさい。婿殿はこちらでしばしお待ちくださいね。床の用意をしてまいりますから」
そしてカミリガンはそのまま土蔵へと幽閉され、物理的魔法的な装置で幾重にも囲まれてその場から出ようとすると命の保証がない状態となってしまった。
◇◇◇
「ってのがいきさつだ。アイツの母親に、カミリガンを殺されたくなければその小娘を捉えてこいと言われてるんだよ。その際、何か不測の事態が起きた時には娘を殺せば時間が戻ると教えられた訳さ、半分以上信じてなかったけどな」
「ちくしょう、その状況でよくもまあハイヤーンを殺ってくれやがったな」エンタクは怒り心頭である。しかしその言葉に喜ぶ物が約一名――
「オマイさんったらいつもアタイのことを一番に考えてくれるんだからさ。そう言うとこだよ。シェルドンにはこう言った優しさってもんがかけらもない。だからアタイはなびかなかったんだからね」
「俺の女になれば体も含めていい思い出来ただろうによ。まあお前は実力も俺並みかそれ以上だから助力は必要なくてつまらなかっただろうがな」
「勝手に言ってろってとこさね。それよりもアマザ村の儀式ってやつは本当に胸糞悪いねえ。子供を使って何をしてるってのさ」
「詳しいことは教えてもらえてねえが、もしかするとあの隠し部屋の棺の山が関係してそうだな。発見されたって話を聞いた時の村長の顔は相当ヤバそうな雰囲気だったぜ?」
「ええっ!? カミリガンってアマザ村の村長の娘だったのか? こりゃどうしてもあの村へ行かないといけなくなったねえ。そうすればアンタの仕事もうまく行ったことになるんだろう?」
「そうだな、それでお前ら二人の命も助かるってこった。まあオレとしてはオッサンだけぶっ殺してハイヤーンをパーティーへ戻すって方法をとってもいいん―― まったまった冗談だってんだよ。エンタクに何かしたらお前は俺を憎んで戻ってくるはずないことくらいわかってら」
「だったら滅多なことは言わないことさね。次おかしな言動や動きを見せたら即座に突き刺すよ」そう言いながらシェルドンの頭上に構築していた雷の槍を消した。
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おうこ-らいこん【往古来今】
綿々と続く時間の流れ。また、昔から今まで。




