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こちら異世界観光タクシー ~SSSSパーティーから追放されたマッパーのオッサンは辺境で観光ガイドを開業してみた~  作者: 釈 余白(しやく)
第五章:オッサンは器がでかい

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61.前代未聞(ぜんだいみもん)

「だから謝ってるじゃねえかよ。それに朝になっても(けえ)って来ねえオメエも悪りいんだぜ? まあ置手紙しておけば追えたかもしれねえから、こうして謝ってんだがな」エンタクはおかんむりのクプルをなだめるのに疲れ、すでに投げやりになりつつある。


「もうそんなことはどうでもいいよ。それよりもアタイはミチュリをどうすべきか相談したいんだから」ハイヤーンが追い打ちをかけるように暴言を吐いた。


『なんだよ、二人とも所帯持ってオレサマのことが邪魔になったのか? やけに冷たくなっちまったじゃないか。なら仕方ないから出てくしかないのかよ……』クプルはチラリと二人を横目で見ながら嘆き節だ。


「出て行くって言うなら止める権利はねえけどよ? オレは共同経営者としてオメエのことは頼りにしてるんだぜ? 別に冷たくしているつもりもねえし、ゴロチラムへ頼むのにもオメエの希望を聞かないと進められねえからなあ。そのことで相談もあるんだぜ?」


「そうだよ、こっちにも都合と急ぎの用事があっただけでアンタを蔑ろにしたつもりはないんだからそうひがまないでおくれよ。アンタがいなかったらエンタクの仕事がうまく行かずに困っちまうくらいわかってるだろ? これからも頼りにしてるさね」


『まあ頼られるってのは悪い気分じゃないが、部屋の希望なんて大してないから勝手に作ってくれればいいさ。だが風呂とかの水場からは遠くしてくれよ?』二人の言葉に乗せられて気分を良くした妖精は、あっさりと前言撤回で出て行く様子は完全に消え失せた。


 置いてきぼりになっていたクプルをなだめているうちに夜はさらに更け、ようやく帰って来た一行も休まる暇がない。シェルドンとカミリガンはどこに消えたのかわからないままと言うことも気にはなる。


 だが明日は休みと決まったおかげでニクロマは宿で待機していた御者たちと酒場へ出かけて行ったし、調査員の二人はさっそくあてがわれた大部屋にアレコレ広げ研究開始らしい。


 ダンジョンでの出来事が頭から抜けず、エンタクとハイヤーンは疲れている割に目は冴えてしまっている。さらには暇を持て余していたせいで元気いっぱいのクプルを加えればやることは限られる。まだ話し足りないと言った風に果実酒の樽をテーブルへ載せると、三人は晩酌を始めた。


『それにしてもあっけなく調査ってやつも終わったなんてつまらないぜ。ついて行ったとしてもオレサマの出番があったかどうかはわからんが、見世物を一つ見損なったのは間違いないだろ』


「そんなことはないよ。アンタに聞きたいことがあるんだからねえ。妖精語みたいな文字が見つかったんだけどアタイには読めなくてさ。今日はもう遅いから明日にでもちょいと見てもらおうと考えてたところなんだよ」


『そりゃ無理ってモンだ。オレサマは妖精語の読み書きはまったくできないぜ。生まれてこの方妖精の集落で暮らしたことが無いんだから無茶ってもんさ。とは言え人の文字もあんまり読めないけどな』


「そういやオメエさんはずっと人間に囲われてたんだっけな。それなのに魔法が使えるんだからすげえもんだぜ」魔法の素養がまったく無いエンタクにとっては、それだけで垂涎物なのである。


「ならやっぱり泉まで行ってリリイに聞いてみるくらいしか当てがないねえ。でもそれは学者たちが請うて来たらで構わないか。それよりもまずはミチュリの件だよ」ハイヤーンにとっての優先順位はミチュリが一番、二番が自分、三番目にエンタクやその他なのだ。


『あの娘がどうかしたのか? ダンジョンなんて連れてったから具合が悪くなっちゃったとか? その割に大人しく寝てるみたいだけどな』


「これは何とも説明のしようがないことさね。なんとあの子が自発的な行動をとったんだからねえ。アタイは目を丸くしちゃったよ」


『なんだよ、また水にでも飛び込んだのか? その割にオッサンはピンピンしてるみたいだけどな。今度は追いかけて飛び込まなかったってことか』


「下らねえ冗談はやめてくれ、思い出したくもねえぜ…… ミチュリのやつがあの墓場みたいなとこで重大ななにかを見つけたらしいんだがよ、オレにはさっぱりわからねえんだ。そろそろ教えてくれてもいいと思うんだがな」


「そう言えば後回しと言ったまま忘れてたね。でも聞いても仕方ないからやめといた方がいいよ。これはアンタを馬鹿にしてるんじゃなくて忠告してる―― って言ってももう遅いか」エンタクはすでに聞く気満々で目を輝かせていた。


「仕方ないねえ…… 話してるアタイが正気を保てなくなったらやめるから、二人ともそのつもりで聞いておくれよ? ああ、前のアレとはちと違うけど、とにかく胸糞悪そうな予想だってことさね」


 ハイヤーンは大分もったい付けつつ、脅しとも取れるような言葉を交えながら現時点でわかっていることと推察を含んだ内容を語った。



 それを聞いた二人は、確かに胸糞悪くなる内容だったとうなずいているが、かと言って知らない方が良かったとは思っていない。エンタクなぞは逆に『ハイヤーンが一人抱え込んで苦悩することがないよう聞いておいて良かった』と言い出す始末である。


『おいおい、オッサンはまったくカミさんに弱すぎるだろ。確かにいい話ではなかったけど、別にそれほど突飛ってこともなかったな。人間と違ってオレサマのような妖精たちは、いつ死ぬとか生まれるとか生き返るとか気にしてないってだけだが』


「だがそれでも人が妖精のように生まれてくるなんざおかしな話だろうに。しかもそれを人の手でやろうってんだろ? だがよ、人を作り出す魔法なんてもんが本当にあるのかねえ」


「もしかしたらアタイの考えすぎかもしれないよ? 別の見方をすれば、怪我や病気で失った部位を再生する魔法の研究かも知れないしね。だが人体に何かしらの作用を起こすと言うよりは、そのものを産み出す装置であることは間違いないだろうね」


「それとあの金属板に書かれてた文言の関連がわからねえぜ。ミチュリがどうこうを置いといたとしてもな? その秘密にオメエさんは気が付いたってことだろ?」


「アレは魔法の言葉でも装置の使い方でも無くってさ、言うなればアレ単体では意味をなさない暗号表みたいなもんだと思う。よくよく見てみたらいくつかの語句が二十書かれた表のようなものってことに気が付いたのさ、ミチュリがだけどね」


「二十ってことはあの場にある棺の数と同じだなあ。それは偶然じゃねえと?」


「そりゃそうさね。そして棺のような箱自体も全てに意味があるわけじゃないってこともね。意味があるのはあのうちの八、いや中央以外の十九の内の七つだろうよ。そのことがあの金属板と中央の箱底面に刻まれた文字からわかったのさ」


「もう大分難しくなってきてオレにはとても理解できねえ。だが仕組みはともかくなんで七つだけ意味があるんだ? それに七って数にも意味があるのかどうかもわからねえだろ?」


「それが魔法の知識に寄るってことなのさ。魔法を構築する際に重要視される数字ってのがあって絶対数(素数)って呼ぶんだけど、それが一から二十までの間に八つあるんだよ。具体的には二、三、五、七、十一、十三、十七、十九の八つさね」ここでハイヤーンは棚から粘土板を出してきて机の上に置いた。


 ハイヤーンが図のようなものを描いていくと、クプルは見ていないからピンとこないがエンタクは先ほど見て来たばかりなのでふむふむとうなずいている。すべて描き終わると説明を続けた。


「いいかい? この明らかに人型をした図には、あの金属板に刻まれていたのと同じ文字があったのさ。それがこの絵で言うと頭と上半身に下半身、それと両腕と両脚に位置する場所だよ」ハイヤーンはそう言いながらそれぞれの部位を指差して印を付けて行く。


 ようは金属板の文字が表だとすると、その絶対数の位置にある文言が人間の部位に書かれた文字と一致していたと言いたいのだ。それが外周にある十九の棺のうち、どれに繋がっているのかはわからない。だがおそらく有効なのは七つなのだろうと言うのがハイヤーンの推察である。


『でもよ? それがどうして人間を作り出すってことになるんだ?』現場を見ていないクプルは軽い気持ちで二人へ尋ねた。


「それはよ、あの場に残されてたもんがなんだったのか調べが進めばわかるのかもしれねえな…… でもまあオレとしては、今回はハイヤーンの早とちり、勘違いであって欲しいと願っちまうぜ」もしかして怒られるかもと彼女の顔を覗き込むと、意外なほどに冷静な顔で苦笑していた。


「その意見、アタイも大賛成さね。だけどねえ、今回の件はアタイじゃなくミチュリが読み解くきっかけをくれたわけだろ? あの子の出自も本当のことはわかってないままだし、どうにも当たってる予感しかしないんだよ。最悪――」


「アマザ村の村長に会って話を聞かねえと、か……」




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ぜんだい-みもん【前代未聞】

 これまでに聞いたこともないような珍しく変わったこと。また、たいへんな出来事。


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