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こちら異世界観光タクシー ~SSSSパーティーから追放されたマッパーのオッサンは辺境で観光ガイドを開業してみた~  作者: 釈 余白(しやく)
序章:オッサンの受難

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5.漫言放語(まんげんほうご)

 妖精妖精と言っているが、正式には妖精型精霊族(スピルス)と言う精霊族中の分類の一つである。『回廊の冥王』でエンタクのパーティーメンバーだったハイヤーンも精霊族なのだが、彼女は人間型精霊族(スピルマン)に属する種族でクプルとは近親種と言える。


 人型の中で最もスタンダードと言うのは、エンタクのような人間族(ヒュマン)であり、シェルドンは大人間族(バイカル)という大型の人系種族である。人間族と言うのは総じてとびぬけた能力を持つ割合が少ない種族だ。


 ヒュマンは戦闘に向いているとは言い難い種族だが、我欲が強く学術的探究心と繁殖力に長けている傾向を持つ。その特性を生かすように集団で都市を築き、生活水準を高めつつ安定した日常を維持している。その一部が学問に精を出し、人種や武器を系統立ててまとめた結果が一般常識となっている。


 かたやバイカルは、単に体躯が大柄なだけでなく戦闘に関わるスキルを持つことが多い。パーティーで前衛を張ることの多い武器持ちの戦士系は、こう言ったバイカルや獣人、有鱗人等の大柄な人種が主である。


 そして今、エンタクと向かい合って一触触発と言った様子なのが山男(ドワロク)と呼ばれる種族で、縦横比が真四角に近い胴体に短い手足を持つずんぐりむっくりした男だった。


「だからオレは同胞じゃねえって言ってんだろうが! オメエみてえなドワロクと一緒にするんじぇねえよ!」エンタクは店中に響くような大声で凄んでいた。その脇ではクプルが騒動を無視して酒をあおっている。


「なんだとコノヤロー、その言い方じぇまるでドワロク全体を馬鹿にしてるようじぇ言い方じぇないかい? ヒュマンにしては骨のありそうなやつどと思ったから褒めてやったってのにコンチクショー」


「ふざけるんじゃねえ! ヒュマンのオレを別人種呼ばわりしたオメエがどう考えても失礼に決まってんじゃねえか! それはオメエがドワロクだからでもドワロク自体が悪いわけでもねえんだ。オメエが間違ったことを正当化しようとしてやがっからいけねえって話だぜ!」


「んじゃなにかい? オラがヒュマンに見られたら怒らねえとおかしいってことになるだろ? でもオラはそんなことじぇいちいち腹立てたりせんじぇえ? ふざけてやがんのかコンニャロー」


「おい、コイツはこの店の常連なのか? 頭がおかしくなりそうだから何とかしてくれ。さっきから一体何度同じ話をすりゃあ気が済むんだよ! よお女将さん、笑ってねえで助けてくれい」エンタクはとうとう店の女主人へと助けを求めた。クプルはまだ一人で飲んでいる。


「でもこん人は話じぇ通じらんかえ手間なのよ。どうせ朝にゃ覚えてないんじぇし馬鹿らしいもんね。いいから壁にでも向けてほっとき。勝手に喋り満足するやし」


「本当だろうな? こんな絡みかたされたのは初めてでイライラしちまうぜ。今にもぶん殴りそうで我慢すんのがてえへんだ。おいクプル、一人でのんきに飲んでんじゃねえよ、まったく……」


 エンタクは愚痴をこぼしながらも、言われた通りに酔っ払いを壁に向けた。すると本当に一人で話を続けている。どうやら相手がいるかどうかは関係ないらしいのだが、それならさっきまで真面目に相手をしていたのはなんだったのかと、憤りを隠せずジョッキをあおった。


「それにしてもムサイムサ村には始めてきたがあ、なかなかいいところだな。聞いた話では寒い地方で雪が積もってるってことだったが、ありゃ一年中って意味じゃなかったってわけだ。水がいいのか酒はうまいし、料理もなかなか、これで女将が若けりゃ言うことねえってとこか、ワハハハハ――」


『パッカーン』「ほれ、おかわりだろ? アタシのおごりじぇ、遠慮しねでいいから好きなだけやっとくり」エンタクの頭に飛んできたジョッキが跳ね返った。


「オレが酒好きでもさすがに中身が無きゃ飲めねえがな。まったく冗談の通じねえ女将さんだよ。だが酒場があるだけでも助かったってもんさ。こちとら生まれたてなもんで右も左もわからねえんだからな」


「まったくこの中年オヤジじぇ何ど言っとんじぇんだろねい。もっぱい呑むなら取りきんさいじぇ。それにしても兄さんじぇ都会から来たんさろね? こんへんど都会語じぇしゃべりよは珍しんさ」


「まあな、王都からさっきついたところさ。色々あって田舎へ引っ込みたくなって移住して来たんだよ。ひいきにさせてもらうからよろしく頼まあ」


 期せずして家が手に入ってしまったためここに住むしかないと言うのが本音だが、正直言うと何も考えていなかったわけだし、別に住むのはどこでも良かった。それでも早急に考えなければならない問題が一つある。


「それで相談と言うか聞きたいんだがな? この村に仕事はあるのか? オレみたいに外からやってきて出来るようなのがよ。別に大金持ちになりてえ訳じゃねえんだ。毎日の食い扶持と酒代が出りゃいいって程度さ」


「んだなあ、薪でも拾うちょか、獣狩るか、女捕まえて食わしじぇもらか、色々あるじぇねいかなぁ。冒険者なるど、こん村を拠点にしじぇえあちこちらどわりよるんもいるんさいがよお」


「なるほど、探索する場所自体はあるってことか。それなら明日にでも冒険者ギルドで聞いてみるか。Fランクでも出来る仕事があるかもしれねえ。おい、クプル、オメエも手伝うんだからな? 働かざるもの喰うべからず、呑むなら働け喰うなら動け、腹の虫は我慢の虫って言うからな」


『そんな言葉始めて聞いたけどな、ヒック、まあ今日はとことん飲んで祝杯をあげるってことにしたんだから野暮は言いっこなしだぜ?』


 どうやらこの辺境の田舎村近隣には妖精族がそこそこ多いらしく、クプルが目立つこともなく助かったと考えていたエンタクである。そうこうしているうちにどちらもすでに大分いい気分になっており、結局目覚めたのは次の日の夕方近くなってからだった。



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まんげん-ほうご【漫言放語】

 口からでまかせに、勝手なことをいい散らすこと。

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