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こちら異世界観光タクシー ~SSSSパーティーから追放されたマッパーのオッサンは辺境で観光ガイドを開業してみた~  作者: 釈 余白(しやく)
第四章:オッサンはじまる

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46.昼想夜夢(ちゅうそうやむ)

 色々と想定外のことも有り、全く休暇にならなかった一行がムサイムサ村へ帰ってきたのは翌日の日中だった。溺れた上に熱を出してしまったエンタクは一晩ですっかりと良くなったため、行きと同じように人力車へハイヤーンとミチュリを乗せて帰ってきた。


 だが無事に帰りついたと同時に再び熱を出し、結局また寝込む羽目になった。なんと言っても人力車を引かせるためだけに無理やり回復魔法をかけ、かりそめの健康を与えたのだ。ただしその反動は甘く無いというのが魔法使いの間では常識である。



 朝になって関節の痛みで目覚めたエンタクは自分の部屋で唸っていたのだが、その声を聴きつけた優しき同居女性が様子を見にやってきた。当然のようにエンタク自身は無理な回復魔法の反動込みで痛みが強くなっていることは知らない。


 それでもあまりの痛みにたまらず愚痴をこぼすが、顔をのぞかせた相手は一日で別人になってしまったかのようだった。


「ちょっとアンタ! 朝っぱらからやかましいんだよ。大の男が痛い痛いって大騒ぎしすぎじゃないかい!? そんな弱気の大騒ぎ、子供の教育に悪いってもんさね」


「まったくよお、オレは病人なんだぜ? 昨日まではあんなに心配してくれて感激してたのに大損だってんだよ。ひざまくらまでしてくれてたあの優しさはまやかしだったのかねえ」


「べ、別に優しくしたわけじゃないさね。アンタの具合が悪いと帰りに不都合があるから看病してやっただけだっての。その証拠にちゃんと治っていたろ? まあぶり返しちまったのは悪かっ―― じゃなくてかわいそうだけどさ」


「ちょっと待て!? 今悪かったって言いかけたな? オレに何をしやがったんだコンチクショウ! まさか魔法で無理やり動かしたんじゃねえだろうな? ダンジョンにいるゾンビみてえによお」


「そりゃいくらなんでも考えすぎだよ。死体を動かすなんて禁制呪文、アタイみたいなまっとうな美人魔法使いができるはずないさね! ああいうのはしわくちゃの爺がやるもんだって相場が決まってるんだから失礼なこと言うんじゃないよ!」


 そう言いながらも明らかに狼狽しているハイヤーンと、隠された秘密があると確信しているエンタクのにらみ合いで今日一日の幕は上がった。


 幸い次の予約は四晩後のため影響はないのだが、土木作業員が寝込んでいるのでは部屋の改装も進められない。かといって自分が砂まみれになって片づけをすることだけは避けたいハイヤーンなのだ。


「まったくアンタもだらしないねえ。アタイのためになら何でもするって言ってくれたってのに、寝込んでいるんじゃなにも頼めやしないよ。仕方ないからアタイはミチュリと散歩がてら昼飯の調達に行ってくるよ。もしその間になにかあっても困るだろうから、井戸掘り職人たちへは出かけると伝えておくから安心して眠っときな。ああ、アタイって気が利いて優しいよなあ」ハイヤーンはそう言い残すとさっさと出かけてしまった。


 広い家に一人残されたエンタクは年甲斐もなく心細さを感じている。今までは一人でもなんともなかったのだが、ここしばらくはワイワイと騒がしく過ごしていたせいもあって一人でないことに慣れてしまったようだ。


『まさかオレがこんな気分で過ごすなんてなあ。そもそも自分の家を持つなんざ考えたこともなかったぜ。しかし身体は痛えが頭は冴えちまって眠れそうにねえな。一杯やりてえとこだがまさか抜け出して飲みに行けるほど元気でもねえか』


 そんなことを考えているうちにエンタクはいつの間にか眠りについた。


◇◇◇


『―― ッン、ッサン! おい、オッサン! そろそろ起きろ。カミさんがうまいもん作って待ってるぞ、この色男、いや色オッサンめ。うらやましいねえ』ベッドの上でいびきをかいているエンタクの腹の上で、クプルが起こそうと飛び跳ねている。


『んうんむんぐはっ、こらっ苦しいじゃねえか。大体そのカミさんってのはハイヤーンのことじゃねえだろうな? 何の冗談だよ、全く笑えねえぜ。ん? なんだかいい匂いがするじゃねえか。まさかウチで料理でも作ってやがんのか?』


『おいおい、まだ寝ぼけてんのかよ。オメエとハイヤーンは昨日夫婦になったじゃないか。妖精の泉での誓いを忘れっちゃったのか?』


『そんなバカな話があるかってえの。あんときゃただ膝枕してもらっただけじゃねえかよ。それっくれえのことで夫婦になるだあ? バカも休み休み言えってんだよ』


『オッサンこそ寝ぼけてるんじゃないのか!? 一体どうしたんだよ。昨晩はしゃぎすぎて呑みすぎたせいか? とにかく呼んでるんだから早く起きて来いよな』


 一体何が起きているのかわけもわからず、エンタクはいそいそと寝室を出て食堂へと向かった。するとそこには、いつも着ているようなひらひらとした魔法使いらしいローブ姿ではなく、ごく普通の村人たちと同じような服に身を包み、鼻歌交じりで料理を作っているハイヤーンの後ろ姿があった。


 しかもそのかたわらでは、ミチュリがなにやら手伝いをしているのだから二度驚くエンタクである。とても目の前の出来事が信じられない様子でよろよろとテーブルへ近寄ると、恐る恐る声をかけてみた。すると――


『あらオマイさん、ようやく目を覚ましたのかい? 具合が良くなったならいいんだけど、一晩中うなされていたから心配さね。さ、ミチュリは父ちゃんに濡らしたタオルを渡しておくれ。出掛けて無くなって寝起きにゃ顔くらい洗わないといけないからね。ちゃんと教えた通りに魔法で温めてから渡すんだよ?』


『はい、おかあさま、ミチュリだってもうすぐお姉ちゃんになるんだもん。それくらいできなきゃね。お父さま、ちゃんと見ててね』


『おいおいもうすぐお姉ちゃんってどういうことだ? それにいつの間にそんな元気になりやがったんだよ。オレはいったい何日くらい寝てたんだ……』ミチュリが魔法を使おうと集中して入る隙に再びハイヤーンへ目をやると、その腹が大きく膨れていることに気が付いた。


『んなばかなっ! 一日やそこらでそんなデカくなるはずがねえ! そんなことよりオレには全く覚えがねえぞ!? 一体誰の子なんだ!? おい、ハイヤーン、答えろ! オレをからかって何がしてえんだ!』


『もうオマイさんったら声が大きいよそんなに脅かしたら。腹の子が目を覚ましちゃうだろ? それにミチュリが頑張ってるとこもちゃんと見てやんなきゃさ。なんで男親ってのはこう気が利かないんだろうねえ。十年経ってもまだ親の自覚が無いんじゃ困っちゃうよ』


『じゅ、十年ってどういうことだよ! オレとオマエが知り合ってから三年と少ししか経ってねえじゃねえか。そもそもミチュリは本当の子じゃねえだろうがよお。いったい何の冗談なんだこりゃあ』


『オマイさんこそいったいどうしちまったのさ。覚えがないだとかおかしなことまで言いだしてさ。子供の前であんまり恥ずかしいことは言いっこなしだよ? まだ寝ぼけてるんなら顔を洗いな。ほら、ミチュリからおしぼりを受け取ってさっぱりしたらいいさね』


『ごめんねお父さま、今すぐ温めるからね』そう言うとミチュリは濡らしたタオルを両手で包みこんで意識を集中させている。


 しかし温めるどころか『ぼわわわあああっ!』と大きな音を立てながら燃え出してしまった。火はあっという間に火柱となり天井へと燃え移る。そのままテーブルクロスにも燃え移って大参事である。


『おい、こらっ! 早く消さねえと大変(てえへん)だ! 早く水、水を、桶、桶! おけー!――』「おけはどこだー! 早く消すんだ! おいハイヤーン! ミチュリ! 何とかしてくれええ!」



「ちょっとアンタァ! 帰ってきてそうそうやかましいんだよ! 大の男がどんな夢見てるのか知らないけどアタイどころかミチュリにまで助けを求めるって一体全体どういうことなのさ。病人とは言えまったく情けないねえ」


「えっ!? 夢!? 火はどうした? 火事は大丈夫だったのか?」エンタクはベッドから体を起こしてキョロキョロしてみたが火の気のかけらもないし、ミチュリはハイヤーンの後ろで腰のあたりを掴んだまま、いつも通り表情を変えることなく立っているだけだった。




ー=+--*--*--+=-ー=+--*--*--+=-


ちゅうそう-やむ【昼想夜夢】

 目が覚めている昼に思ったことを、夜に寝て夢見ること。


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