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こちら異世界観光タクシー ~SSSSパーティーから追放されたマッパーのオッサンは辺境で観光ガイドを開業してみた~  作者: 釈 余白(しやく)
第四章:オッサンはじまる

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42.侃侃諤諤(かんかんがくがく)

 グレイフォーリア川の手前までやってきて野営場(テント)を設営し終わったところでやることははと言えば一つだ。早速エンタクはかまどを用意していつものように肉を煮込み始めた。


 今日はミチュリがいるためスパイスではなく別の調味料を使用したのだが、漂う香りですぐに気が付いたハイヤーンに、案の定易しいだの気遣いができるだのと冷やかされた。


 これには年甲斐もなく照れるエンタクだったのだが、オッサンの顔は素晴らしい景観に相応しくないと今度はクプルから余計なことを言われ、悔し紛れにジョッキを煽った。そんなじゃれ合いを見てもミチュリは顔色を変えることなく、じっとハイヤーンの袖を掴んだままである。


「コイツがいつか自然に笑える日が来るといいな。それまではオレも頑張らねえとって気になって来たぜ。こう言うのを父性本能とは言わねえのか?」エンタクはハイヤーンへ尋ねた。


「父性本能なんて聞いたことないねえ。どちらかというと男親が抱く子への愛情ってのは間接的な印象があるよ。生活を支えたり贅沢させてあげたいと考えたり、他にもいい旦那を見つけてもらいたいとかさ」


「なるほどなあ。オメエさんもそう思われてた時があるんだろ? オレは捨て子だから親を知らねえけどよ、思い返して見れば、孤児院の院長は色々と心配してくれてた気がするぜ」


「アンタは王都の孤児院で育ったのかい? 色々と事情があるんだろうけど、そんな話は始めて聞いたねえ。その割にヤサグレ無いでまっとうに近く生きてきてるのは立派だよ。変人扱いだったけどな」


「あれはなあ…… これでも冒険者を目指したことがそもそも間違ってたとは思ってるんだぜ? なんてったって十になって地神神殿で判別を受けた時に、多数の人間同様スキル無しだって言われたわけじゃねえか。孤児院で働いてた男がそれを聞いて余計なこと言ったんで刷り込まれちまったんだよ」


「へえ、その男はなんて言ったんだい? まさかお前は特別な人間だから冒険者になれなんて言わないよね?」


「さすがにそこまでじゃなかったがな。生きざまはスキルで決まるんじゃねえ、生き方を自分で切り開いた後に出来る道のことなんだ、なんて言われてその気になっちまった。今になって考えてみりゃスキルが無くたって働きようも生き方もいろいろあるってことだったと思えるがな、ガキのオレはなぜか冒険者になれると思いこんじまったんだよ」


「なんだ、やっぱり筋金入りの変人じゃないか。たまにスキル無しで冒険者になろうとするやつはいるけど、大抵のヤツはすぐにあきらめるか命を落としていなくなるかのどちらかだよな。でもアンタは違う。今はともかくこないだまではAランクの冒険者だったんだから大したもんだよ」


「けっ、世辞は止めてくれ。たかがAランクじゃねえか。年数から言ったらSランクにはなってねえと恥ずかしいってもんだぜ。シェルドンの野郎がオレに実績を付けねえでシェルパ(道案内)だって申請してた事に気付かなかったからこんなことになっちまったぜ」


「まあそれは災難だと思うけどさ、マッパーもシェルパも大差ないじゃないか。いないと困るかと言われると微妙な役割なことは自分でもわかってただろ? だから一概にシェルドンのやったことが間違ってるとは思わないねえ」


「まあそうかもしれねえが、オレにしてみりゃ後から加わったカミリガンがすいすいとランクを上げてSSに到達したところで切れちまったぜ。んで指摘したら追放だからなあ、ヒデエ話だ」


「あの子はシェルドンの情婦だから仕方ないさね。魔法剣士としての実力もまあまあだから、冒険者としてはアンタより上だよ」


「ちぇえ、随分とはっきり言いやがる。最初はオレに戻ってこいって言ったくせによお。どうも釈然としねえぜ」


「あくまで個人的な能力で言ったらってことさ。パーティーに求められる能力はまた別だからな。少なくとも『回廊の冥王』にはアンタの力が必要だった。なんと言ってもシェルドンの方向音痴さは並みじゃないんだもの。そのくせ自分の判断を絶対視するから困ったやつだよ」


「やっぱりアイツにも致命的な欠点があったってわけだ。SSSSパーティーがオレを誘うなんざおかしいと思ってはいたんだ。ただ誘ってくれたこと自体は感謝してるぜ。一人じゃ行かれねえようなとこのマップを作れたんだからよ。それに―― オメエさんとも知り合えたわけだしな」


「また照れくさいことを堂々と言うねえ。でもアタイもアンタがいる時が一番楽しかったよ。抜けてからはどうにもピリピリと張りつめてるようでね。進むたびに道があってるか気にしないといけないのは思ってたよりも大分しんどいもんだ」


「新たに加えた探索者(レンジャー)がいただろ? そいつが道案内をしたんじゃねえのか?」


「あれは罠解除が得意なだけでマッピングは出来なかったよ。地図があれば読むことは出来て助かった面はあるけどね。未踏破領域にはなんの役も果たさないからあくまでマシだったってだけさ」


「マッピングなんて誰でも出来ると思うんだが、意外にやれるヤツは少ねえな。地味すぎて修練する気にならねえんだろう。そこがオレの生命線だと思って習得した考えは間違っちゃいなかった。残念ながら一般的な評価が低いってことを見落としてたけどよ」


「まあアンタの能力的には雇われシェルパと同等だと思うよ。それでもAランクまで上り詰めたシェルパなんていないんだから、やっぱりどこかおかしいかすごい人間なんだろうさ。ま、アタイから見りゃ地図をクルクル回さないヤツはみんな凄いと思うけどな」


「あれなあ、なんで方向音痴なヤツはすぐに地図を回すんだ? 自分がいる場所がわかりゃ後は方角通りに行きゃいいだけだろうに。その地図を回してたら自分から迷っちまうし、わざわざおかしなことしてるといつもおもってるぜ」


「アンタみたいに方向を見失わないようなヤツには一生わからないことさ。アタイだってなんで自分が地図を回すのかわかってないんだからね。本当はそれもスキルじゃないのかねえ。地神さまにもわからないスキルがあるのかは知らないけどさ」


「まああれだよ、オメエさんの容姿がいいのとか、ポキリの店にいる姉ちゃんの歌がうめえのとかもスキルじゃねえじゃねえか。ハンナ婆の料理の腕が良くて飯がうまいのだってそうさ。スキルとは関係ねえところにも人にはなかなかねえ能力ってもんもあるんじゃねえかな」


「ホントにアンタは前向きだよ。それもスキルにならないスキルなのかもしれないね。うふふ、あはははは、なんだか面白いねえ、楽しいねえ」


 そんな笑い声が真っ暗で静寂な夜の森へと吸い込まれていく。ハイヤーンは今の生活に満足している様子で、眠っているミチュリの頭を撫でていた。




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かんかん-がくがく【侃侃諤諤】

 ひるまず述べて盛んに議論をするさま。議論の盛んなことの形容。また、はばかることなく直言するさま。


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