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こちら異世界観光タクシー ~SSSSパーティーから追放されたマッパーのオッサンは辺境で観光ガイドを開業してみた~  作者: 釈 余白(しやく)
第三章:オッサンは忙しくなった

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34.悠々自適(ゆうゆうじてき)

 ムサイムサ村とジョト村の交流は深い。どちらも太古の時代にグレイフォーリア川の氾濫から逃げ回りそれぞれの場所へ落ち着いた開拓民だったことが影響しているのだろう。


 かたやダンジョン、かたや温泉を名物として発展してきたのだが、大きな違いは冒険者ギルドの有無である。そのためジョト村には農民や猟師を初めとする一般的な仕事を生業とする者がほとんどである。その為だろうか――


「まったくそんなに冒険者が珍しいのかねえ。温泉目当てで外からの客がいくらでも来ているだろうによ。ここへ来るといつもまとわりつかれて敵わねえぜ」


「いいじゃないか、可愛らしくてさ。アタイはなんだか楽しいけど? もしかしてアンタは子供嫌いなのかい? その年で独り身ってことはそう言う……」


「ちげえよ、単にまとわりつかれるなんてこの村へ来た時くれえだから、いつまでたっても慣れねえし照れくさいのよ。逆にハイヤーンはよくそんなに平然としていられるもんだと感心するよ。まさかオメエ……」


「違うに決まってるだろ! 引っぱたくよ!?」


「おっと、風呂入る前に腫れあがったら沁みちまって仕方ねえから、今は勘弁して貰いたいもんだな。それじゃ部屋は別々に取ったからよ。風呂上りに休憩所で合流して酒場へ繰り出そうじゃねえか」


「あいよ、この子らはどこまでくっついてくるつもりなんだ? まさか一緒に風呂入ろうってんじゃないだろうね?」


「そのまさかだよ、まあ子供の小遣い稼ぎだから我慢してやれよ。たまには背中流してもらうのも悪くねえかもしれんし。間違っても変な真似すんなよ?」


「オッサンじゃないんだからアタイはそんなことするわけないだろ! それにしてもこんな小さな女の子まで働くなんて偉いねえ。歳はいくつなんだい?」


「ろくさいです。いちにちがんばると甘芋をまるごとひとつたべていいんだよ?」


「なるほどねえ、そういう仕組みってことか。それじゃお願いしちゃおうか。チビ助は覗きに来るんじゃないよ? 来たら容赦なく撃ち落とすからな!」


『けっ、べつにオメエなんて見たかないっての。今日も若い女の客はいなそうだし、オレサマは麦畑に行ってくるぜ。後で酒場へ行けばいいな?』


「おうよ、せいぜい頑張ってこい。ゲハハッハ」エンタクはなにやらいやらしい笑い方をしてクプルを見送った。もちろんハイヤーンにも何となく察しはついている。


「アイツは麦の妖精だってことかい? ウチらとは似て非なる種族だから生態は謎だけど、なんかアレなんだろ? その…… アレだよ……」


「そんな恥ずかしがるなら言わなきゃいいじゃねえか。ヤツラにはヤツラのシモ事情があるってことさ。その割に人型の女も好きなんだからアイツは変わってら」


 クプルのような妖精型精霊族(スピルス)には人型種族のような生殖行為は存在しない。その代わりに、それぞれのルーツである植物や鉱石などの自然物周辺で他人と混じり合うのだ。


 あくまで種族を維持するための行動であり、直接的な繁殖行為とは異なるものの、蓄えた物を放出すると言うことではオスの行動と近しいとも言える。ものの話では快楽を伴うらしいが、スピルスの学者と言うのがほぼ存在しないため実体は謎に包まれている。


 そんなクプルは別行動で、エンタクとハイヤーンはそれぞれ湯へ向かった。お互いの後ろからは小さな子供が付いていくのだが、こうした小姓(こしょう)が客の背中を流すのがジョト村温泉の流儀である。


 もちろん性的なサービスをするためではない。それに王国では子供への性暴力は極刑であるし、相手が大人であっても数十年の強制労働が当たり前に下される。何かと極刑とされる王国の法は、見方を変えれば恐怖政治とも言えるのだが、弱者にとっては何より安全とも言えた。


 そのような事情が後押しすることで、このジョト村での温泉小姓は健全な名物となっているのである。当然であるが、温泉と関連の観光客は村にとって重要な収入源であることは間違いなく、農閑期においても安定した収入と裕福な生活をもたらしているのだ。



「それにしても相変わらず繁盛してるよなあ。たかが風呂だなんてバカに出来ねえもんだぜ。ムサイムサ村にはこう言うのがねえからな。あんなしょっぱいダンジョンじゃどうにもならねえ」


「でも例の棺桶次第でどうなるかわからないよ? もしかしたら凄いお宝が手に入るとか、さらに階層があって難易度がぐっと上がるとかさ。冒険者だって増えればそこに群がる商売人が増えて訪れるヤツも観光するヤツも増えるってことになるだろ」


「まあそんなことになるまでに何年かかるかわからねえけどな。ブクマクレンが今ほど栄えるまでには二十年以上かかってるらしいぜ? そんなに待ってたらヨボヨボどころかオレぁおっちんでるだろうぜ」


「じゃあその時はアタイがアンタの墓守してやるさね。あんまり縁起でもないこと言ってないで今を楽しむのが一番さ。さてと、そろそろ飲みに行こうじゃないか。すでにチビ助が待ってるかもしれないよ?」


「違えねえ、やっぱり元気なうちに楽しまねえと損だわな。オメエさんも早くなんとかしねえとしわくちゃの婆になっちま――」『パッチーーン!』


「まったく、いい年して学ぶって言葉を知らないのかい? 次はもっとひどいのお見舞いするから覚悟しときなよ」


 酒場についてクプルと合流した際には、再びバカだの考えなしだのとののしられるエンタクだった。




ー=+--*--*--+=-ー=+--*--*--+=-


ゆうゆう-じてき【悠悠自適】

 のんびりと心静かに、思うまま過ごすこと。


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