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こちら異世界観光タクシー ~SSSSパーティーから追放されたマッパーのオッサンは辺境で観光ガイドを開業してみた~  作者: 釈 余白(しやく)
第三章:オッサンは忙しくなった

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23.順風満帆(じゅんぷうまんぱん)

 タクシイ観光と宿泊所は予想よりはるかに評判が良かった。特に農家の夫婦には好評で、紹介されたからと次々に予約が入るほどだ。王国での農業はほとんどが似たような運用をしており、麦農家では麦を、野菜農家では野菜しか作らない。麦農家の場合は収穫が終わるとしばらく休みに入る。


 次の作付けまでは長く開くため暇を持て余している家が多く、野菜農家へ手伝いに行ったり街へ遊びに出かけたりすることが多い。だが街へ遊びに行くと言っても自分たちの村より栄えていて物資が豊富だと言うくらいで見るものは少ない。


 王都では観劇も出来るが劇場は数カ所しかなくすぐに見飽きてしまうらしい。かと言ってきれいな服や宝飾品で着飾ったり珍しい装飾品を購入したりしても、持ち帰るのは土埃舞う農村にある簡素な自宅である。


 つまり金を稼ぐことは出来ているが、稼いだ金の有効な使い道を思いつかない者が大勢いるのだ。そこに降ってわいたような観光案内であるから評判になっても不思議ではない。なんせ冒険者に守られての観光など、今まで王国では聞いたことが無い商売だというのが大きいだろう。


 随分と真面目な話をしている三人だが、この晩は幾度か続けて仕事をこなし、久しぶりに数日予約が入っていないので呑んだくれても問題ない日である。その割に真面目な話をしているのは商売が順調すぎて欲が出てきている証とも言えた。


「なあ、今は日に二カ所回って四日で終いだろ? それをもっと増やしたらいいんじゃないのか? なんなら野営有りにすれば喜ぶ客もいると思うんだ。オッサンならわかると思うけど、スキル無しで諦めてても冒険者になってみたかったってヤツも結構いるからなあ」


「そりゃオレだって出来ればもっと名所を増やしたいとは思ってるさ。でも他にめぼしいとこは猛獣やモンスターが出る場所だったり、通らなきゃいけなかったりして危なくなって来ちまう。さすがに人力車と客を抱えてちゃ何もできんぜ」


「ならアタイが着いて行けばいいんじゃないか? 客に魔法で戦うところも見せられるからもっと評判になるかもしれないよ?」


「そりゃオメエを見世物にするってことだろ? どうも気が進まねえ。逆にオメエさんに客を守ってもらってオレが戦う方がよほどマシだぜ」


「それも悪くないね。アンタが怪我したらアタイが治してあげられるしな。あの荷車を王族の馬車みたいに箱で囲えば安全に見物できるってもんさ。むしろモンスターが出るところへ連れて行って戦いを見物させるのを目的にすればいいよ」


「なるほど。そんな見世物は聞いたこともないし、怖いもの見たさの客が付くかもしれん。だが客は荷物じゃねえから荷車じゃねえぞ あくまで人力車だからな? 普通の人力車が無くなっても困るから大工へ相談して新規に作ってもらうとしよう」


「そんな金あるのかい? もし足りないならアンタのためにアタイが出してやってもいいよ? なあに共同出資者ってやつさ。あくまで商売上の相棒って意味だから勘違いするんじゃないよ?」いちいち一言多いハイヤーンの発言にエンタクは狼狽してしまう。


「バッカヤロー、勘違いなんてしねえよ。オメエそう言うのはわざと言ってるんじゃねえだろうな? いちいち思わせぶりだから考えすぎちまうんだっての。金なら多分大丈夫だ。いくらなんでもそろそろ例の苔の鑑定結果が出るだろ。きっと希少種だからガッポガッポだぜ?」


『そいつは楽しみだ。今度こそむふふふふふ』


「おいチビ助! アタイはもう精霊語をほとんど覚えたからな? 今のだってちゃんと聞き取れてるんだから滅多なこと言うんじゃないよ?」


『うへえマジかよ。魔法の天才なだけで言葉までそんな早く覚えられるのか? まさか本当は最初からわかってたんじゃないだろうな?』


「アンタら妖精と違ってスピルマンに取って魔法は学問だからね。呪文は言語と同じさ。つまり上級魔法使いはそれだけで賢さを証明できてるってことさね」


『まあいいさ、今までも聞かれて困ることをこそこそ話してたわけじゃねえ。直接話せるなら却って便利ってもんさ。だからたまには見逃してくれよな』


「アンタの言う『だから』の意味が分からないよ。なんで女遊びしに行くのを黙って見てなきゃいけないのさ。アタイの眼が光っているうちは絶対に行かせないからそう思っときな。女と飲みたきゃハイナ(酒場の婆)に頼むんだな」


『なんでそんなムキになって遊びに行かせないなんて言うんだ? まったく怪しい女だぜ。おー、怪しい怪しい。たまにはオレサマが家を空けた方がいいんじゃないかねえ?』


「どっちも下らねえこと話してんじゃねえよ。明日オレは目が覚めたら大工のところへ相談に行くぜ。オメエらはどうすんだ? 何ならその後にジョト村へでも行ってみるか? 売り上げがいいから遊びに行く余裕もあるしな」


「ジョト村ってのはうち(・・)の上客が大勢いる村じゃないか。まさか逆に観光へ行こうってのかい?」ハイヤーンの疑問はもっともとも言えるし的外れとも言える。


「そっかオメエには言って無かったかもしれねえな。あの村の近くには地下から湯が噴出してるところがあってな? つまり熱い湧き水を使った天然の露天風呂があるんだよ。ありゃなかなか心地よいもんだぜ?」


『オレサマは湯に浸かるなんて全く興味湧かないがなあ。女湯を覗き放題なのが嬉しいくらいだぜ』


「バカ言うな、覗かれてたまるかってんだよ。でも温泉はいいねえ。王都にいる時もたまには行ってたけど、まさかジョト村にもあるとは嬉しいじゃないかい。あそこから客が来るってことはそれほど遠くないんだろ?」


「そうだな、乗合馬車で一日、歩いて二日ってとこだ。ついでにとなりのアマザ村へも行って村の連絡版にタクシイ観光の広告を貼ってもらうとするか。向こうで宿に泊まるか? いつもは日帰りなんだがゆっくりしたけりゃ泊まりでも構わねえ」


「な、なっ、アタイを宿へ連れ込もうって言うのかい? いくらブカチへ行かせないからってそう言う手段に出るなんて欲求不満がすぎるんじゃないかい?」


「オメエは! なっ、なんですぐにそうやっておかしなことを言い出すんだよ。そんなこと言うなら別々の部屋を取りゃいいじゃねえか。変なこと言われるとオレだって変な気になっちまうからもっと落ち着いて考えろってんだよ」


 相変わらずわざとなのかどうか測りかねるハイヤーンの物言いにどぎまぎするエンタクだったが、彼女もまた耳を真っ赤に染め上げていた。




ー=+--*--*--+=-ー=+--*--*--+=-


じゅんぷう-まんぱん【順風満帆】

 物事がすべて順調に進行することのたとえ。追い風を帆いっぱいに受けて、船が軽快に進む意から。



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