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こちら異世界観光タクシー ~SSSSパーティーから追放されたマッパーのオッサンは辺境で観光ガイドを開業してみた~  作者: 釈 余白(しやく)
第三章:オッサンは忙しくなった

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22.一攫千金(いっかくせんきん)

 ボンクレの話によるとジョト村からの客人はまたもや夫婦二組の四名らしい。どうやら人力車に乗れるのが四人までであることは伝わっているらしく、今回来た客は次の客の予約を頼まれてきたとのことだ。


「ちょいとエンタクさ、この後も客が来るってわかっているなら帳面でもつけて管理しないとわからなくなりそうだよ? 他からも来たら同じ日に被るかもしれないだろうしなあ」


「それもそうだな。観光案内で回れるところは今んとこ八カ所だからせいぜい四日ってとこだろ? するってえといつも決まった順路を作っちまった方がわかりやすいかもしれねえな。ギルドの依頼書みてえなのを作って今回の客に持って帰って貰おう」


「ついでに交易馬車へ貼って貰ったらいいんじゃないかい? そうすれば王都まで宣伝してもらえるだろ? アタイもたまに貼ってあるの見て、宣伝文句に乗っちゃうことあるんだよ」


「確かあれは結構取られるはずだぜ? 宣伝効果が凄いからな。それに大混雑されてもうちじゃ捌ききれねえ。いいとこジョト村と、あとは同じくらいの距離にあるライモンくらいでいいと思うんだがな」


「ライモンってこっちのほうだったのか。行ったことないけどアレだろ…… 娼館街があるって言う…… オッサンたちは良く行くのか?」


『バカ言うな! オメエが来てから一回もイケてねえんだ!』


「いいから黙ってろってんだ―― いやこっちの話。

 隠しても仕方ねえから正直に言うが何度か行ったことはある。でも勘違いしてるみてえだけど、ライモンの歓楽街は娼婦遊びだけじゃねえんだよ。()レイな女が横についち()下らねえ話をして()カ騒ぎする(クラ)呑み屋ってのがほとんどだぜ?」


「アタイにしてみりゃ似たようなもんだと思うがねえ。男ってのはなんでこう女に弱いんだか……」


「おいおい、オメエさんみてえな堅物は知らねえだろうが、王都の西にあるブカチって街には女向けに男が接待する蔵呑み屋もあるんだからな? 男も女も個人の問題ってこった」


「んじゃエンタクもクプルもそっちの問題ある個人ってことな。よーくわかったよ、この汚れ! バカヤロウ!」『パチーン!』


『なあオッサン、あんたやっぱりバカだろ』クプルは呆れ顔で罵るが、自分も同類だと言うことには知らんぷりである。



 仕事前の小事が一段落し、頬に力強い判を押されたオッサンと口の悪い妖精は宿屋から出て行った。もちろん人力車を用意して馬小屋で待機するためである。季節はまだ冬、毛布の用意も万全だ。


 手入れが終わったころに宿泊所の掃除を終えたハイヤーンと合流し、客の到着前に腹ごしらえである。アレコレと摘まみながら一杯やりたいところだが、これから客を乗せた乗合馬車を出迎えるのだから我慢が必要である。はずなのだが――


「ちぇっ、自分たちばっかり呑んでさ。アタイだって一杯くらいいいだろ? しかも今晩来るかわからないじゃないか。それにしても乗合使ってまで観光に来るんだから、農家ってのはよほど儲かるんだねえ」


「オレ程度の冒険者よりはよほど儲かるだろうがな。日照りや水害に見舞われたら全部パーだし、毎日汗水たらして働いてるんだから真似は出来ねえぜ。オメエさんが出来ると思うなら畑借りてやるぞ?」


「なんでアタイがやるんだよ。オッサンが働いてアタイを喰わせてくれればいいじゃないか。今のままだとアタイのが稼ぎが上なんだよ?」


「い、いや、べ、別に夫婦じゃねえんだからそんなのどうでもいいだろうが。なにをおかしなこと言ってやがる」エンタクはハイヤーンが時折繰り出すこう言った思わせぶりな匂わせにいまだ慣れていない。


「それこそ考えすぎだって言うんだよ。一緒に住んでるのは確かだけどアタイが間借りしてるだけだろ? なのに半エントすら出してないから気が引けてるわけ。アンタの稼ぎが多いならそんなこと気にしなくて済むのにさ」


「まあでもあの家は貰いもんだし生活費なんて喰うことくらいだろ? しかも王都の半分もかからねえとくらあ。オメエさんから巻き上げなくたってオレは十分暮らしていけるんだから気にすんなってモンだよ」


「それじゃアタイの気が済まないから客が来た時はきっちり働くさ。見くびられると頭来るんだけど、冒険者だからって家のことが何もできないなんて思わないでおくれよ? これでも一通りはこなせるんだからな?」


「そういや前回も洗濯や掃除をやってくれたんだもんな。オレには出来ねえから助かったぜ。ずっといてくれるならこんなに嬉しいことはねえや」


「だ、だ、だからそう言う言い方するなって言ってるだろ! まったくもう、アタイが女だってこと忘れてるだろ……」自分が言う時は気にならないのに、言われると意識してしまうのはお互い様のようだ。


「まあそれはともかく、広告にもなるような案内を書いちまわねえとな。ええとタクシイ観光案内ではっと―――― んで順路はこんな感じで―――― 料金がええっと――――」


「さすがマッパーだ、うまいもんだなあ。そう言うところは細かいところまで気が利くってのにまったく…… おい! 美人女将が出迎えってのはやり過ぎだ、バカッ!」『バッコーン』本日二度目のお叱りである。


「こりゃあれだ、三十晩に二度くらい客が来るだけで結構儲りそうだな。宿代が3エントで観光が2エントを三輓だから15エントだぞ! 宿泊延長が3エントだけど案内するとこ増やさねえと延長は期待できねえか」


「今回は無理だけど一回くらい宿で料理を出せばその分も儲けになるぞ?」


 そんな風に二人がこれからの売り上げの皮算用について話し合っている間、クプルはすっかり酔いつぶれていた。




ー=+--*--*--+=-ー=+--*--*--+=-


いっかく-せんきん【一攫千金】

 一度にたやすく大きな利益を手に入れること。一つの仕事で巨利を得ること。


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