14.前途有望(ぜんとゆうぼう)
はっきり言って大成功だった。考えていたよりも相当喜んで帰っていった客人たちは、咲いていなかった花畑をもう一度見に来るため、春にまたやってくると言い残していた。
「いやあおめすっげえど。ドワロクは旅行が好きだじぇ、ジョト村へ帰ったらきっと言いふらすじぇき、別の客じぇどんどこやってくんど」今回の客を招きもてなしたボンクレは大喜びである。
「そんなに大勢こられてもいいとこ四人までしか乗せられねえからなあ。繁盛しすぎも困るってモンだ。だが喜んで貰えたなら走った甲斐があったぜ」共に呑んでいるのは観光案内に手ごたえとやりがいを感じ、金儲け以上に成功を喜ぶエンタクである。
少し離れてカウンターには、ムサイ男たちと一緒にされたくないと逃げてきたハイヤーン、そしてちゃっかり彼女の谷間へ陣取っているクプルがチビチビと杯を交わしていた。
『vfrうぃjfvjcくぃえくぉdzxkんmくぃくぁlz』
「ごめんね、アタイは確かにスピルマンだけど、生まれも育ちも王都だから精霊語がわからないんだよ。でもアンタちっこくてかわいいね。酒なんて呑んで平気なのか知らないけどいつも呑んでるしいいんだろう」
標準語を話すことは出来なくとも聞き取ることができるクプルは、にこやかな表情を保ちながら心の中で舌なめずりをしていた。それもそのはず、見た目は子供にしか見えないが実年齢に換算すれば数十歳にはなるのだ。
だが胸の丸みへもたれかかっているだけで飽き足らず、調子に乗って胸を撫でまわし、さらにはつい大人のような邪心を含みながら揉みしだいてしまった。これではさすがに気付かれてしまう。
「ちょっとアンタ! 見た目から子供なのかと思ったけど、まさかホントはいいオッサンなのか!? チクショウ、スピルスってなんでこう年齢がわかり辛いんだっての。この助平め、あっち行け!」
ハイヤーンはクプルを掴むとエンタクへ向かって放り投げた。もちろん叩きつけられることなく宙を舞い、頭を掻きながらオッサン共のテーブルへと着地する。
「なんだオメエ、意外とバレルの早かったじゃねえか。演技には自信があるだなんて大口叩いてたくせに情けねえ―― あ、いや、そりゃ知ってたが、実際に行動へ移したのはこのチビ助でオレはなにも悪かねえだろ? おい、待て、こら、落ち着けっての!」『バキョォォオオン』
あわれエンタクの頭上には、鉄鍋の蓋が振り下ろされた。どうもハイヤーンの短気さは酒場の女将といい勝負である。一発喰らわせたところで気が済んだのか同じテーブルへ座ると、鉄鍋に入った煮込みをつまみながら酒をあおった。
「そう言えばさ、今回みたいに観光案内と宿屋の仕事がある時はいいとして、それ以外の日はどうするつもりなんだ? アタイも面白かったし手伝ってもいいかなって思ったけど、そうそう毎日のように仕事なんてないだろ?」
「そうだよなあ、かといって他の村や街へ宣伝なんてしてられねえし、大勢こられてもそれはそれで捌けねえってモンだ。意外と商売ってやつは簡単じゃねえってことだろう。まあそれならそれで冒険者稼業をしてりゃいいさ」
「でもこの辺で稼げるところなんてあるのか? ムサイムサ村がどうかは知らないけども、北へ向かうのは駆け出し冒険者と相場は決まってるだろ」
「うむ、一応グレイフォーリアの大滝ってとこの近くにダンジョンはあるけどよ、確かにアレは初心者向けで階層も地上に二階、地下一階のこじんまりしたやつさ」
「地上階があるのにダンジョンってのは面白いねえ。ちょっと言ってみようじゃないか。アンタの商売がうまく行った記念にさ」
「なんで記念なのにダンジョンへ行かにゃならねえのかわからねえが、オマエさんが行きてえなら付き合ってもいいぜ? オレたちゃ冒険者だから潜ること自体はおかしくはねえんだしよ」
ハイヤーンはその言葉に「うんうん」と二度うなずいた。それからおどけたように言葉を返す。
「それじゃあ今晩はゆっくり楽しく呑み明かして、明日目覚めたら出かけるとしようかねえ。ちゃんとアタイが守ってあげるから心配しなくていいよ? Dランクのオッサンルーキーちゃん」
「けっ、言うに事欠いてそれかよ。それじゃお願い申し上げますよ、SSSSランクの天才マジックキャスター様。そいやすっかり忘れていたがいい加減クプルも冒険者登録した方がいいのかもしれねえな。言葉が通じなくてもそんくれえは出来るもんだろ、多分」
『オレサマは別に必要としてないけど、高ランクになったら女にちやほやしてもらえるって言うなら登録してもいいな。それよりどこかの街へ繰り出す話はいつになったら実現するんだよ。今度こそと思っていたが立ち消えなのか? オッサンの明るい未来が優先ってことだろ?』
「けっ、余計な心配するなってんだよ。このゲス妖精め」
「ちょっとアンタ達はなにをコソコソ話してるのさ。どうせ色ボケたことだろうと見当はつくけどね? アタイの乳揉んだ分はきっちり払ってもらうよ。無論揉ませた分も含めてきっちりだよ、キッチリ!」
「まったくしっかりしてやがるぜ。色ボケスピルスに守銭奴スピルマンの組み合わせたあ最悪だ。精霊族ってのはもっと高尚なモンかと思ってるやつらも多いだろうに、これじゃ幻滅されっちまうだろうぜ」
エンタクは、まさかクプルが自分とハイヤーンの仲を変に勘ぐったり、どうせならくっついてしまえなどと考えているとはとても言えなかった。
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ぜんと-ゆうぼう【前途有望】
将来成功する可能性を大いに秘めているさま。




