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こちら異世界観光タクシー ~SSSSパーティーから追放されたマッパーのオッサンは辺境で観光ガイドを開業してみた~  作者: 釈 余白(しやく)
第二章:オッサンは起業する

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11.合従連衡(がっしょうれんこう)

 ハイヤーンは人力車に揺られながら、これまでの出来事をぽつりぽつりとかいつまんで話していった。それを聞いたエンタクは振り返りはせずに相槌を打つだけだ。


「それでしばらくは活動休止にしようってことになったのよ。さすがに一人行方不明になっちゃったからね。シェルドンもニクロマも大口叩いてる場合じゃないみたい。カミリガンは休暇に出ちゃったしアタイも旅へ出ようかしら」


「なに言ってんだよ。すでにここまで旅してきてるじゃねえか。まあ馬車で五日程度の道のりだが。泊まるところがねえならオレのとこ来てもいいぜ。部屋はたくさんあるんだが扉と壁がねえのが珠に傷だな」


「それって部屋じゃなくてただの大広間じゃないの? そんなとこにアンタと二人なんてヤダよ。かと言って王都へ帰ったらシェルドンが荒れてて相手するの面倒だしねえ」


「大広間なんて上等なもんじゃねえけどな。それに二人きりでもねえ、コイツが一緒だから野郎二人と一緒ってことにならあな」そういってクプルを見せると、お互い緊張しているのか言葉を交わすことなく頭を下げ合った。


「あとでちゃんと紹介してやるからな。でもこの村には宿なんてねえから落ちつけねえかもなあ。仕事するなら何とかできるがハイヤーンには向かなそうだ。何ってったってまっとうな労働だから無理だろうなあ……」


「ちょっとアンタ? そうやってアタイを焚きつけようとしてるだけだろ。そんな手に乗るかってのよ。でも何の仕事なのかくらい聞いてあげてもいいよ?」


 こうしてみると口車へ乗せることに失敗したようだが、お互いに言葉遊びをしているだけ、言うなれば駆け引き風を楽しむ大人のやり取りと言える。結局ハイヤーンを乗せた人力車は村から出ずに引き換えし、エンタクたちの『新たな自宅』へと向かった。



「―― アタイさ、久しぶりにこの言葉使うよ、まさに絶句だね。んでもって今すぐアンタをぶん殴りたいくらいさね…… なにが個室がたくさんあるだよ! 壁が無い!? そもそも部屋じゃないだろこれ! アンタみたいな野人は知らないかもしれないけど、ここは馬小屋って言うんだよ!」


「うむ、んなこた知ってるぞ。でも馬がいないんだから小屋で、俺たちが住むことにしたから人小屋だな、ガハハハッ」『バッカーン!』ハイヤーンの投げつけた木の桶がエンタクの尻へと直撃するがびくともせず笑い続けている。


 だがいつまでも笑っているだけでは話が進まないし時間も無くなってしまう。地面へと座り込んだエンタクは、客人へ応接椅子を勧めるかの如く、馬小屋の柵へ腰かけるよう促した。


「それじゃあ打ち合わせと行こうじゃないか。仕事内容は簡単だ、宿で客人の世話をするだけでいい。といっても接待じゃねえぞ? 何かあった時に備えて同じ建物にいるだけだ。報酬は一日に1エント、宿へ一緒に泊まるんだから住み込みってことだな。夜になったら客を酒場へ連れてってもらって、その場で好きに食べていいぞ。他の時間に腹が減ったら同じ酒場へ行って自腹で適当に喰え。半エント渡せば一週間は喰わせてくれるさ」


「ちょ、ちょっと待て、そんないっぺんに言われてもわかんないよ。んでアタイは何を倒せばいいんだ? その客ってのが悪人とか? まさか巻き上げようとか企んでんじゃないだろうね?」


「オメエはなにを聞いてたんだよ。宿屋だって言っただろ? オレは観光案内と宿泊所を始めるんだ。観光はこの人力車を使うからオレでも不自然じゃねえ。だが宿屋の世話までオレがうろうろしてたら落ち着かねえだろ? そこへオマエさんが来たってことは天啓と言ってもいいな、ガッハハ」


「つまりアタイに接客をやれと? んなもんやったことないよ、無理だよ!」確かに冒険者として生きてきた彼女に突然宿屋の女将は無理筋とも言える。しかしエンタクは首を横に振り話を続けた。


「いいか? どんな客でもあのシェルドンのバカよりも気分屋ってことはねえ。つまりヤツのご機嫌取りよりは随分と楽ができるはずだぜ? 若い女を囲ってるのを見せつけられなくて済むしな」


「見せつけられてイラついてたのはアンタら男連中だろ。まあでもそう言われると簡単に出来そうな気もしてくるな。基本的にはいるだけでいいんだろ? 何かあったらアンタを呼びに行けばいいのか?」


「そうだな、自分で出来ることならしてやってもいいが無理は必要ねえ。俺はここで寝てっからいつでも呼びに来ていいし、夜這いに来てもいいぞ?」


「バカだねえ、そしたら宿屋の面倒はどうするんだよ。アンタはもうちょっと頭を使うってことを考えた方がいいやね」ハイヤーンが暴言を吐くと、その言葉がツボに入ったらしいクプルが肩を揺らしながら便乗した。


『そうだぜオッサン、頭は薪を折るのに使うんじゃねえってことさ。賢いのかと思うと抜けてたりして掴みどころがねえヤツだぜ』


「けっ、なんでえ二人とも結託しやがって。スピル人種同士だから気が合うのかねえ。まあ仲が悪いよりは随分いいがな。まあそりゃいいとして村の中を案内しながら飯を喰いつつ顔合わせと行くか。オマエさんも世話になるんだからな」


 話がまとまり客を帰した後の宿屋を片付けなくて済むとご機嫌なエンタクとクプル、そしてよくわからないままに流されてしまったSSSS冒険者のハイヤーンはハイナ婆さんの営む酒場へ向かった。




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がっしょう-れんこう【合従連衡】

 その時の利害に従って、結びついたり離れたりすること。また、その時勢を察して、巧みにはかりごとをめぐらす政策、特に外交政策のこと。

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