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こちら異世界観光タクシー ~SSSSパーティーから追放されたマッパーのオッサンは辺境で観光ガイドを開業してみた~  作者: 釈 余白(しやく)
第二章:オッサンは起業する

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10.築室道謀(ちくしつどうぼう)

「チクショウ! どいつもこいつも舐めやがって! どうせなら正面から言ってきやがれ!」『バーン!』


「ちょっとシェルドンったらモノに当たるのはかっこ悪いからおやめよ。カミリガンだって怯えてるじゃないか。アタイだって悔しいけどどうせヤツラのほうが格下なんだし、ただの僻みだからほっとけばいいさね」


 王都グレイナロの酒場では『回廊の()王』のメンバーが卓を囲んで一杯やっているところだ。リーダーのシェルドンが荒れているのはパーティー名の冥王に引っかけて迷王と陰口を叩く連中が増えてきたことが原因である。


 こういう時ハイヤーンはどうしてもなだめる側になってしまい損な役回りだと常々嘆いている。しかし他には粗暴な野郎衆か小柄で気弱な人間女性のカミリガンしかおらず、やはり適任はハイヤーンと言うことになってしまうのだ。


◇◇◇


 そもそも、王国でもトップクラスの実力を持っていると見られていた冒険者パーティー『回廊の冥王』が迷王呼ばわりされるようになったのは、エンタクを追放してから最初に挑んだダンジョンでの出来事から始まった。


 以前一度だけ潜ったことのあるそのダンジョンはまだ未踏破領域が多く、売られている地図に記されているのは地下二階の一部までだった。これは罠が非常に多いことと、落とし穴のようなトラップにより別の場所へと移動させられてしまう構造によりマッピングが困難だからである。


 人はたいていの場合、周囲の情報を元に自分の現在位置を認識している。しかし唐突に視点を変えられ場所を動かされてしまうと、元いた場所の方角どころか、今現在自分がいる場所向いている方角等々がわからなくなってしまうのだ。


 そして回廊の迷王のメンバー、すなわちハイヤーンたちも同じ目に合ってしまった。結局は高価な帰還用魔道具を使用する羽目になり探索継続を断念した。これが最初の失敗である。



 この、探索失敗どころかまったくの無成果かつ、高額アイテムを使って赤字帰還したとの噂はあっという間に広まったが、こう言ったゴシップは得てして尾ひれがつきがちである。そのため事実以上に迷ったことが強調されてしまったのだ。


 だがそれもあのダンジョンならば仕方ない。だからこそ、数々の猛者どもが挑んでいるにもかかわらず、いまだに未踏破領域が多く残されているのだと、同情的に見る向きもあったのがわずかな救いと言えよう。


 それでもその後は王室やギルドから依頼された場所の攻略や素材収集、他にも地域住民から報告の上がった中で、大きな問題となりそうなモンスターを討伐する仕事などを安定してこなしていき信頼を取り戻していった。



 順調に見えたパーティー活動に再び暗雲が立ち込めたのはつい先日のこと。冬に備えて懐を温かくしておこうとシェルドンが言い出し、今まで何度も入っているダンジョンへ、軽くひと稼ぎするために出掛けたことが発端(ほったん)である。


 もちろん問題など起きるはずもなく順調に攻略を進め、踏破済み領域の最深部である十一階まで来てから戻ると言う、過去に何度も通っているルートで地上を目指そうとしていた。その時――


「なあ、こんなところに扉の取っ手のような切欠きがあるぞ? もしかしたら未発見の通路か部屋があるかもしれないな。こりゃ思わぬ大収穫に繋がって大儲けできるかもしれないぜ」そんな景気のいい軽口を吐いたのは、エンタクの代わりに加入したレンジャー(探索者)のロッソマである。


 彼は宝探しが好きな典型的ホリブン(小人間)らしく、器用そうな指先をくねくねと動かしながらやる気満々な様子を見せ指示を待っている。するとシェルドンはにやりと笑って顎をしゃくるような合図を送った。


 しかしこれに異を唱える女が一人――


「アタイは気が進まないねえ。今回は小銭稼ぎに来たんだから欲をかいておかしな目にあうのは嫌だよ」ハイヤーンは先日の探索失敗以降、かなり保守的になっていた。


「なに言ってんだよ、稼げるときに稼ぐのが冒険者の鉄則だろうが。それができなくなったなら引退を考えた方がいいぜ? それがSSSSまで上り詰めた天才マジックキャスターの台詞とはねえ。ぐわっはっは」大盾持ちのニクロマが下品に笑いながらハイヤーンを冷やかす。


 シェルドンもそうだが、バイカル(大人間)は頭の中までおおざっぱだと言われるほど楽観主義者ぞろいである。となると種族的には慎重派が多い人間の意見がカギになるかもしれないと、ハイヤーンが小柄な女へ視線をやった。


「アタシも不安ですけど稼げるのは魅力ですからねえ。雪が降りはじめたら暖かい地方でひと休みと行きたいものですから、稼ぎは多いに越したことはないです、はい」か細い声だが欲望だけは人並みなカミリガンも賛成の意を示す。


「よし、多数決で決まりだな。ロッソマ、そこまで言うんだから開錠イケるんだよな? 失敗だけは勘弁してくれよ?」シェルドンが小馬鹿にしたように煽ると、ロッソマは問題ないとだけ返して鍵を開けるための道具を取り出した。


「随分と旧式だ、これなら楽勝だぜ」


 これが彼の残した最後の言葉になった。


◇◇◇


「大体よお、あんな古びた扉自体に罠が仕掛けられているだなんて誰が思うかってんだよ! ロッソマは消えちまった時にはなんの冗談かと思ったくらいだぜ。だってそうだろう? あそこのダンジョンにテレポーターの罠なんざ一つもないんだぞ? いくら最深部だからと言って今まで発見されてなかったのもおかしな話さ」


「つまりなに? 誰かが仕掛けた罠だとでも言いたいわけ? 確かに可能性はゼロじゃないけどさ。相手を飛ばしちまったら金目のものを盗るのも難しいさね。もし移動先で待ち構えていたとしても、そんな高度な呪文を魔道具に出来るようなやつが、開錠係一人を(さら)うなんてこと考えにくいだろう?」


「アタシもハイヤーンの意見に賛成、です。きっと今までもずっとあったけど、土が被ってたり壁があったりしたんだと思うの。それより早くロッソマを助けに行かないと……」


「どこへ行ったかもわからねえ。生きてるか死んでるかも含めてな。つまり探しようがないってことさ。そんなに心配ならもう一回潜って全員飛ばされてみるくらいしかできねえぞ? もちろん一番手はカミリガンに譲ってやるがな」


「いえ…… 結構です。ロッソマなんて人知らないし。臨時雇いでしたよね?」こういうところはドライなカミリガンである。自分と金が大好きで、他人に興味を示すことは少ない。パーティーへ入ったころは有望な魔法剣士だったが、今ではシェルドンの情婦兼任だと、他のメンバーたちは考えていた。




ー=+--*--*--+=-ー=+--*--*--+=-


ちくしつ-どうぼう【築室道謀】

 余計な意見ばかり多くてまとまらず、物事がなかなか完成しない、また、結局失敗することのたとえ。


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