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1.青天霹靂(せいてんのへきれき)

『ガタッガッタン、ガッゴーン!』床に木の椅子が転がり大きな音を立てた。続いて男の怒号が響く。


「なんだと! ふざけるな! なんでオレがっ!」


「お前みたいな役立たず、俺たちSSSSパーティーにはふさわしくないからに決まってんだろ! もういらねえ、追放だ!」


 このナロパ王国の王都、グレイナロの冒険者ギルドで、白昼堂々起きた出来事である。どいつもこいつも曲者揃いな荒くれ共たちが集うこの場において、時折起こる定番の諍いとも言えた。


 だが今回は少々尋常ではない出来事と言える。一番大きな理由は、若い剣士が叫んだように彼らのパーティーは『SSSS』であるからだ。つまりメンバー半分以上が最高ランクであるSSSSランクと言うことを示している。


 そんなパーティーは王国内にいくつも存在しない羨望(せんぼう)の存在、そんな猛者(もさ)たちの集団だと言うのに追放、脱退騒動が起こるだなんて一般の冒険者たちは想像もしていない。しかも白昼堂々公衆の面前で宣言するなんて、自分たちの恥をしっかりと目に焼き付けてくれと言わんばかりの愚行(ぐこう)と言えるだろう。


「なぜだ! オレは役立たずでもなんでもねえ、きちんと役に立っているじゃねえか! 今回だって未到達領域の探索ができたのはオレがいたからだ!」ずんぐりむっくり体型の人間(ヒュマン)が大声で反論した。


「バカ言うんじゃねえよ、お前は先頭を歩いて行っただけで特別なことなんて何一つしていないだろ。いつもそうだ、マップを作るだけしか能がないくせに。だからいまだにSランクに上がれないんだ」


「それはオメエが冒険の成果をオレの実績から外すからだろうに。パーティーで得た物は均等割りが当たり()えだろ? だがオメエは自分(テメエ)たちだけで独占しやがって!」


「何を言ってるんだ、オッサンにもちゃんと分配金は渡しているだろう? 戦闘には参加しない、罠を外すこともできない、荷物を余分に持つわけでもない役立たずにも報酬を出しているんだから感謝くらいしやがれってんだ」


「じゃあシェルドンよ、オメエは剣を振るうだけじゃねえか。今まで一度でもペンを持ちマッピングをやったのか? そんなはずねえよな? それが分業ってもんじゃねえか。若造だからそんなこともわからねえのか!?」


「わかっているさ、だから次からは探索者(レンジャー)を加入させることにしたよ。幸いSランクの使えそうなやつが見つかったからな。もちろん俺たち『回廊の冥王』にふさわしく、オッサンと違って『罠探知スキル』に『器用さ補正』も持ってるまともな冒険者だぜ」


 スキル、つまり生まれ持っての適正のことを言われてしまうと、このオッサン(・・・・)はぐうの音も出ない。言い返す材料が無くなってしまうのだ。若い冒険者の言う通り、この世界には特別なスキルを持った者と持たざる者に分けられている。


 一般的にはスキルを持っていない者たちは冒険者なぞにはならず、安定的なごく普通の職について生きて行くものだ。しかしこのオッサンと呼ばれた男、エンタクは普通ではなかった。


 かと言って、子供のころから冒険に憧れているとか、一獲千金を夢見てとか、良く見かけるような理由ではない。彼は自分は冒険者になりSSSSランクへ上り詰めるはずと思い込んでいる、言うなれば頭のネジが外れた人間だと誰もが知っているほどの有名人(変人)なのだ。


 これまでの約三年、エンタクは冒険者パーティー『回廊の冥王』の一員として旅をしていた。もちろんハナから戦闘要員ではなくシェルパ(道案内)としての臨時雇いが切っ掛けである。


 その正確さが評価され、未知の場所へとおもむく場合でも道中を記録するマッパーとして正式に加入することになった経緯がある。つまり必要とされてパーティーメンバーになったのだと、エンタク自身は考えていた。


「なあハイヤーン、オメエさんからもなんとか言ってくれよ。オレはちゃんと役に立ってただろ? 今まで仲良くやってたじゃねえか」


「そうね、アタイだってエンタクは役に立ってたと思ってるよ。でもリーダーはシェルドンだから仕方ないさね。それに地図は役に立ってても稼ぎに直結しなかったのは確かだと言われたらこれ以上はねえ」


「そんな冷てえことを…… 明日からオレはどうすりゃいいってんだ!」


「別のパーティーへ入るか、普通に働けばいいんだよ。体は丈夫なAランクだもの、拾ってくれるとこがいくらでもあるさね。それが嫌ならどこか田舎へでも引っ込んで木の実でも拾って暮らすしかないかもね」


「ちくしょう! おいシェルドン! そこまで言うならオレが描いた地図を全て返せ! 必要ないなら棄てるだけだろうが!」


「ああ、これね、確かに持っていてもゴミにしかならないか。ほら、拾いな」そう言ってシェルドンは重ねられた羊皮紙をばらまいた。


「酷い扱いだなまったく…… オレもこの地図たちもよお……」一枚一枚拾い集めながらエンタクは呟くが、それを聞いている様子も見せず『回廊の冥王』の四人は去っていった。



 翌朝、エンタクは馬車乗り場のある広場へとやって来ていた。顔は真っ赤でついさっきまで酒に呑まれていたことがわかる。冒険者が集まるギルドであんな騒動を見られてしまったのだから、みっともなくてもうグレイナロにはいられない。そう考えて旅へ出ることにしたのだ。


 かと言って身寄りもなく、王都以外では親しい仲間どころか顔見知りもいない天涯孤独な身の上だ。すなわち馬車でどこかへ向かうとしてもどこへ行けばいいのか見当が付かなかった。


『仕方ねえ、適当に馬車へ乗ってついた先のギルドで職探しをするか。場所が変わればオレの評価だって違ってくるに決まってらあ。そうさ、あいつらに見る目がねえってことさ』失意のおっさんは誰に言うでもなくブツブツと呟く。


 やがてやってきた最初の馬車に乗りこんだエンタクには、酔いのせいもあって眠気が襲ってきた。他に客がいないこともあって我が物顔で寝ころぶ。御者も見て見ぬ振りで苦笑いをしていた。



「うーん、むにゃむにゃ、一体全体オレのどこがダメだってんだ、オレが何をしたんだ……」ブツブツと寝言で自問自答しながら、行き先不明な馬車の旅が始まった。




ー=+--*--*--+=-ー=+--*--*--+=-


せいてんのへきれき【青天霹靂】

 まったく予期しなかった突然の出来事。急に受けた衝撃や打撃。快晴の空に不意に轟とどろいた雷の音という意味。


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