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竜の蒼い月 4

 


「ようこそいらっしゃいました!伊達家のみなさま」


 ――すこし話を遡ろう。

 とりあえず、俺達が竹中院と言う名の孤児院に着いたあたり。

 今こうして玄関の前で俺達を正座で出迎えた栗色の髪をした紫荻(女の子)の話から。


 ☆


 なんてことない。孤児院と言う名の小さなボロイお寺に俺達は辿り着いた。


「おかあさん、僕の妹がいるのってここ?ゆーれーがでそうだよ」

「政道、止めなさい!」


 弟の第一印象がこれだった。

 正直俺もびっくりだ。なにせ弟の言う通り、今からでも幽霊が出そうなほどにボロボロのお寺だったからだ。

 孤児院ってもっとこう。子供の家ですよ。みたいな外見をしているとばかり。


「寺……」

「ここはなぁ。元々は普通のお寺だったんだけど。今の御当主様の意向で孤児院になったんだよ」


 呆然としている俺の隣で父が教えてくれる。

 そうなんだ、偉い男だな。それが俺の正直な感想だ。


 紫荻の義父はゲームでも頻繁に出てきたため知っている人物なのだが、まさかお寺の坊さん迄やっているとは知らなかった。裏設定と言う奴か。ちょっと感激だなとしみじみ思う。


 別に隠すことも無い。紫荻の義父の名は竹中半兵衛。

 数百年前はかの豊臣秀吉の軍師の一人だった男だ。


 なんで彼が義父かだって?

 これは「下天の空」の時、SNSでゲーム関係者が明かした裏設定から始まったのだが。


 紫荻姫は赤ん坊のころ奥州から敵国の織田家に人質として送り出されたと言う。

 そんな彼女を引き取る形で預けられたのが竹中半兵衛と言う軍師だった。

 彼は紫荻を我が子の様に可愛がり、出来る限りの戦法などを(幼い子に)教え上げ、3つの時に伊達家に秘密裏に返した。紫荻からしたら足を向けて眠れない程の恩義のある人物である。


 その設定は続編の「蒼月の空」まで継続した訳だ。

 今作は俺より1つ下だから、6年間彼の元で過ごしたわけになるのか。

 (因みに「天空」では政宗と紫荻は3つ違いだった)


 まぁ、その竹中半兵衛本人は「天空」ではすでに故人。

「蒼月の空」では紫荻(主人公)が通う学校の保険医だったはずなのだが。

 何度でも言う。坊さん迄やってるとは思わなかった。


 因みに竹中半兵衛の容姿は、くるくるとした天パの薄いオレンジ色の髪に、女の様な線の細さを持つ眼鏡男子(現在35)。

 何故か前作では史実通り若くして死に至り。

 今作ではどう見ても三十後半には見えないイケメンになった訳だな、これが。


「天空」でも「蒼天」でも秀吉より歳を食わされたある意味の被害者だったりするのだが。

 秀吉はルックス的に女性人気が高かったからなぁ。――なんてしみじみ思っていると。


「あ、お待ちしていました伊達さん」


 そのご本人が寺の中から出てきてくれた。

 白い着物に古めかしい下駄姿。

 竹中半兵衛は俺達の前まで足早にやって来る。


「こんにちは。お待ちしていましたよ~」


 のんびりとした爽やかで柔らかな声が彼の口から発せられる。

 容姿は変わらない。天パの薄いオレンジ色の長い髪を何とか後ろ手に纏め、今にも倒れそうな青白い肌と丸メガネが特徴的な線が細くて女にも見える優男。


 ニコニコと柔らかな笑みを浮かべたまま、ふと気が付いたように俺達を見下ろす。

 彼がひざを折り俺の目線迄腰を下ろしてくれたのは直ぐの事。


「こんにちは。政宗君に、政道君だね」

「こんにちは」

「……こ、こんにちは」


 挨拶を向けられたらすぐ返せ。

 昔から両親に言われている事だ。

 直ぐに返した俺に対し、政道は母の後ろに隠れながら恐る恐るだった。


「まぁ、政宗!偉いわね!何時もは政道と同じ行動を取るのにどうしちゃったの?」


 俺の行動に母までもが驚いていた。

 何時もあんなに口を酸っぱくして言っているのにいざ行動したら――。


 と、ここで俺は気が付いた。

 そうだ。俺は今政宗なのだ。政宗は無口で内向的な少年。

 こんなに簡単に人に挨拶を返せるような子じゃない。


 ここで下手をすれば実は中身は俺であり政宗じゃないと感づかれてしまうかもしれない。

 そう思った俺はひとしきり――。五秒ほど考えてから顔を母に向けた。


「きょ、今日から、俺も新しい妹のお兄ちゃんになるから。じ、自分を変えて行こうと思って……」

「……」

「……」


 ダメか?駄目だったか?

 やっぱりもう少し口籠ると言いうか、弱々しい子供を演じた方が良かったか。

 押し黙ってしまった両親を前に俺は焦りまくっていた。


「政宗……。貴方昨日と比べると本当に急にお兄ちゃんになっちゃって……」

「ああ全くだ本当に昨日までの政宗じゃないみたいだな」


 予想は的中と言う奴か。滅茶苦茶感心されてしまった。

 母なんかは目元に涙なんかを浮かべている。

 父も心から感心しているようと言うか不思議がっている。


 やり過ぎてしまったのか俺は。

 いや、この「ゲーム」の政宗幼少期何処まで卑屈だったんだよ。

 挨拶返しただけだぞ、俺は。


 政道なんか「お兄ちゃん偉い」なんて無邪気に笑っているし。

 もう止めてくれ頼む。竹中半兵衛の柔らかな視線が痛いからやめてくれ!

 そう心で思ってももう遅い。次の瞬間は青白い手が俺の頭へと伸びていた。


「うんうん、えらいね。えらい」


 心からの「偉い偉い」をありがとう。照れくさいが貰っておくことにしよう。そう俺は唇を噛みしめて思った。

 他愛無く、ありきたりで何処までも平和な会話。

 こんな会話が続き、俺達は妹に合うのだろう。と、その時までは思っていた。


 そんな半兵衛の柔らかな彼の笑みが僅かに曇るまで。


「えらいお兄ちゃんだからこそ。驚かないでね」

「え?」

「あの子も悪気がある訳じゃないんだ」


 ――なんて。

 いったいどいう事だろうとしか思えない謎発言を繰り出し竹中半兵衛は緩やかに立ち上がる。


「じゃ、此方にどうぞ。紫荻ちゃんもずっと待っていますから」


 両親に向けて寺の方へと手を差し伸べ案内。

 二人は何方からともなく彼の案内に従って歩を動かし、俺達も浮足立った様子でソレに続く。


 ぶっちゃけ、内心ここ一番の盛り上がりを見せるのだが仕方が無い事。

 やっと来た!可愛い推しに会えるのか!!なんて実に無邪気に。なんて思っても怒られやしないだろう。普通。


 寺に入った途端。


「ようこそいらっしゃいました!伊達家のみなさま」


 なんて正座して、両手を地面に付けた旅館のお辞儀のポーズで出迎えられる破目になるまでは。


 さすがの俺達もコレには呆然だ。

 4人そろって呆然と低姿勢のどう見ても6歳ほどの栗色の少女を見る。半兵衛は頭を抱えていた。

 ――少しの間。


「えー、と。し、おぎちゃん?」


 父が声を掛ければ、彼女はバッと顔を上げる。

 待ち望んでいた。澄み切った蒼い瞳が俺達を映す。


 思わずドキリと胸が高まる。

 そこにいたのは知っていたが、6歳ながらにして絶世の美少女だったから。


 綺麗に切りそろえられた栗色のショートヘアーの髪。

 まだふっくらとした幼い顔立ち。頬は桃色。

 きりっとした形の良い長い眉毛。長い睫はピンと立ち。

 筋の通った小さい鼻。紅色のふっくらとした小さい唇。

 大きな僅かに吊り上がった蒼い瞳――。


 何処までも真っすぐな瞳で、透き通った目で見据える。

 思わず見惚れるのも、つかの間。

 彼女が立ち上がり横に置いてあった竹刀を手にする。


 びし!!

 音を付けるなら正にそれ。


 ソレはもう見事なほどに高らかに。

 竹刀の先を、俺に向けて。


「先にはっきりいいます!私はお前なんかの月にはなりません!!!!」


 序盤のセリフに繋がる訳である。




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