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竜の蒼い月 1

 

 最初はゲームの隠しイベントが発生したかと思った。

 でも可笑しいのは、どれだけ待っても目の前の政宗が動かない事だ。

 そして異変に気が付いたのは俺が瞬きをした時。

 同じくして政宗が瞬きをした。


 もしかしてと思う。


 顔を左に傾ければ、俺の目に映る政宗は右に傾く。

 顔を右に傾ければ、俺の目に映る政宗は左に傾く。


 左頬に手を伸ばせば、右頬に手が。

 右頬に手を伸ばせば、左頬に手が。


 目に映る政宗は同じように俺の動きを真似する。

 いや、写っているのは鏡なのだから仕方が無いのだが。


「?…………??????」


 どんどん自身が理解できなくなってきた。

 自身の顔をペタペタと弄る。俺は俺の顔を確認する。


 目に映るのは政宗だ。

 対面する鏡に映るのは政宗だ。


 こげ茶色のクセの強い髪。竜の様な金色の左瞳。右目は眼帯で覆われて見えやしない。

 歳は7歳ほどにしか見えないが間違いない。

 間違いない乙女ゲー「下天の空」に登場する伊達政宗その人。


 鏡に映る自身を見つめながら愕然とした。一瞬叫びたそうになったが、声が出ない。

 冷や汗がダラダラ流れ出し、頭は真っ白に、顔は真っ青になるのが分かる。


「政宗!」


 無言のまま鏡と睨めっこしていると、洗面所の外から同じこげ茶の髪を持つ女性が声を掛けて来た。

 振り抜けば歳は若いがその顔には見覚えがある。

 何処か凛とした佇まい。軽く化粧を施し、白いワンピースに黄色のバッグを肩にかけているが間違いない。

 いや、そもそも何故だが記憶がある。伊達政宗の母。義姫が立っていた。


「政宗!」

「え、は、はい……」


 もう一度声を掛けられ、俺は我に返った。

 両頬を両手でつまみ上げ必死にコレは夢か幻か確認している最中。

 そんな政宗、いや俺を見てか義姫()は溜息を付いて近づいて来た。


「いい加減にしなさい!何度呼べば来てくれるの?今日は大切な日だって言った筈でしょう?」

「え、あ、い、いや」


 整った顔立ちでつめられると中々の迫力が――。違う。

 俺は焦る頭で必死に巡らせた。

 今日は何かあったっけ?大切な日とは?

 自分に無い筈の記憶を必死に巡らせる。だがその答えは直ぐに導き出された。


 今日は父と母と弟で新しい家族を、義理の妹を迎えに行く日だ。




「え、えええええええええええええ!?」

「きゃあ!な、なんです急に!」


 記憶の整理が終わると俺は思わずと大きな悲鳴を上げてしまった。


 目の前の義姫、否。母がそりゃ驚く顔を見せる。

 当たり前か我が子が不思議そうに自分の顔を探っていて、声を掛けてみればいきなり大声を出されたのだから。


 俺は自分でもビックリするぐらいの声を出した後に見事なまでに固まる。

 きっと顔はひきつけを起こしていたに違いない。


「も、もう全く!」


 そんな俺を、一瞬ひるんだモノの母が手を掴み引っ張る。

 痛くはないが子供からすれば大人の力には敵わずされるがまま、俺はそのまま玄関へ連れ出された。


 ちょっと待てと、俺はまだ頭が困惑していたが。

 俺とは違う整った政宗の顔。俺の記憶と存在しない『記憶』

 見たことのない筈の廊下。『見覚えのあるはずの廊下』

 知っていて知らない筈の義姫()。『知っていて当然の母』


 頭の中で色んな出来事がグルグルと、絵の具を混ぜ合わせたようにぐちゃぐちゃになった。

 そんな中で、長い髪を揺らしながら母は少しだけ苛立ったような声を出す。


「本当に!紫荻ちゃんが待っていると言うのに、この子ときたら!」


 誰よりも聞き覚えのある名前を。

 俺は早歩きで玄関を進みながら、玄関前でようやくと現状を理解する。


 俺は。

 俺は伊達政宗に転移したらしい――と。



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