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第4話 簡単な話だった

「ったく……使えない奴らだったな。後で殺しとくか」


目の前の男はどうやらさっき僕が倒した人たちのことを言っているようだった。

気を抜いてるようにも見えるのに隙が見つからない。


「そんじゃあ、そこのガキ。今その銀髪の嬢ちゃんを渡せば楽に殺してやるけどどうする?」


「お断り。僕はシャーロットを守るから」


「あ、アランくん……!私は置いて逃げたほうがいいよ……!」


シャーロットが僕の後ろでそう言う。

だが生憎この人は僕も生かしておいてくれないだろうしシャーロットを見捨てるつもりなんて1ミリもない。


「シャーロット、少しだけ離れていてくれ」


「アランくん……」


「やる気みたいだな。じゃあ死ね」


相手はシャーロットが少し離れた瞬間切りかかってくる。

なんとか受けたけど体格差、武器の性能ともに負けていて膝をつかされ木剣に少しだけ刃が食い込んだ。


「へえ……防ぐか。中々、末恐ろしいガキじゃねえか」


「そりゃどうも!」


なんとか抜け出しそう言う。

しかし状況が悪いことに変わりはない。

体格差も絶望的。

そしてこちらは木剣なので相手の軍刀サーベルをまともに受けることができない。

受けの姿勢だとやられる!こっちからいかなきゃ!


「いい判断だ。つくづく惜しいガキだな」


しかし全て弾かれる。

ここに来て先ほどの戦いが重く体にのしかかる。

さらに命を懸けた戦いはどんどん気力も削ってくる。

受ける数を最小限にし攻めまくるが体はどんどん鈍り致命傷はなんとか避けているものの傷を負い始めた。


「本当にやるなぁ!ガキ!」


「はぁ……はぁ……」


僕は未だにこの人に一撃も与えることができていない。

もはや負けるのは時間の問題であり今すぐに倒れてもおかしくない状況だった。


「じゃあな!楽しかったぜ!」


「くっ……」


脳天に迫る攻撃を重い腕に力を入れなんとか防御の大勢に入る。

そのとき、一瞬左手から力が抜けてしまった。

急いで回避しようとしたが左肩を切りつけ血が吹き出した。


「アランくん!血が……!」


「くく……ゲームセットだな。俺の名前はバルザック。冥土の土産として覚えておけ」


「そういうことだったのか……」


「あ?」


僕は左肩の痛みよりも、敵の名前よりも()()()()が頭を占めていた。

今まで闇雲に防ごうとしたから疲労もするし防ぎきれなかったんだ。

子供が大人に力で挑もうとするなんて間違っていた。


「ちっ……不気味なガキだ。楽しかったがもう死んでもらおう」


再び攻撃が迫ってくる。

僕はその剣筋をしっかり見極め剣を出した。

ここから……こんな感じかな?

力を適度に抜き敵の剣を僕の剣の腹に滑らせた。


「なっ!?受け流した!?」


「こういうことだったんだね。おじさん」


「運が良かったな!次はねえぞ!」


何回も剣が飛んでくるがもう僕の体に届くことはない。

気づいてしまえば簡単な話だった。

ただ()()()()()()()()()()()()()()()()()だったんだから。



一方、攻め続けているはずのバルザックは冷や汗が止まらなかった。

長年戦いに身を置いていたからこそ強く感じるその異質さに自然と体が震える。


(な、なんなんだこのガキは……!?さっきまで実力を隠してやがったのか……!?)


先程まで自分と目の前の子供には経験、体格、武器の性能、身体状況、全てに勝っていたはずなのに今では攻撃一つ当たらない。

横にごうにも全て受け流され突きをしようとしても一瞬で間合いを詰められ防がざるをえなくなる。


「てめぇ……実力を隠してやがったな!」


「実力を隠す?なんのこと?」


「受け流しを温存してやがっただろう!」


このガキは数百年に一人、もしかしたらそれ以上の天才だ。

その幼さでここまで戦えるのは化け物の部類に入るだろう。

だからといってこんなガキに手を抜かれるのは腹が立ってしかたなかった。


「あれね。さっきやり方を知ったんだよ」


「は……?そんなこと、可能なはずが……」


「なんで?別に大して難しいことじゃないでしょ?おじさんも使ってるし」


ガキは嘘を言っている様子は無く本気で言っているようだった。

俺は軍人として2()0()()戦ってきたんだよ……!

それを一瞬で……?


その意味を理解したバルザックを包んだのは怒りではなかった。

あるのはただただ恐怖。

もはや戦いのために生まれ人の枠を超えかけているとしか思えない目の前の存在に恐怖した。



一方、その頃のアランはこれ以上ないほどの高揚感を覚えていた。

頭がすっきりする……体も軽い気がした。

おじさん、なんで焦ってるんだろう?

なんか目に見えて隙ができてきたな。まあなんでも良いや。叩き潰しちゃえ。


「行くよ?おじさん」


「……!?うっ……!」


その一閃は今までのどの振りよりも速くバルザックが防御する前に腹に直撃した。

やはり体が軽い。

先ほどまで重かった体が嘘のようだ。


「ゲームセット、かな?」


「くっ……この化け物がぁぁぁ!!」


おじさんの剣と僕の剣がぶつかり合った。

その場は静寂に包まれる。

次の瞬間、倒れたのは───バルザックだった。


「はは……勝っちゃったよ……」


勝った嬉しさより安堵の方が大きい。

気づけば全身傷だらけでめちゃくちゃ痛かった。


「アランくん!」


「シャーロット、無事?」


「うん……私は大丈夫だけどアランくん、血が……」


シャーロットは今にも泣きそうな顔で僕を見ていた。

無茶をしたしかなり心配をかけてしまったようだ。

僕は安心させるかのようにシャーロットの頭を撫でる。

さらさらの銀髪は指に引っかかることなくすぅっと入っていく。


「シャーロットを守れて良かったよ」


「うん……ありがとう」


僕はシャーロットを抱きしめた。

小さくて柔らかくてとても温かい。

僕はその温かさを感じていると意識が突然朦朧(もうろう)としてきた。

あれ……おかしいな……体が……うごか、ない……や……


「アランくん!」

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