第17話 唇は完全にアウト
僕たちは準備を済ませ校舎へと向かっていた。
もちろん入学式に出るためである。
「もっとくっついていたかったです……」
「入学式だから仕方ないさ。流石に初日から休むわけには行かないだろ?」
「それはそうですけど……」
シャーロットはさっきからずっとこの調子だ。
よほどプロポーズが嬉しかったらしくプロポーズのあとは準備を始めるまでずっとべったりだった。
なんとか説得できたけど相当渋っていた。
「まあいいです。私にはこの指輪がありますから」
そう言ってシャーロットはうっとりとした表情で指輪を眺める。
自作したものをそう言ってくれるのは嬉しいけどやっぱり送る側はもっと高価なもののほうがいいんじゃないかと思ってしまう。
でもシャーロットは頑なに首を縦に振らなかった。
「その指輪硬いとはいえ木製だからなぁ……金属製にしたほうがよかったかな」
「気にしないで大丈夫ですよ。防御魔法を重ねがけしてありますので腐りませんし巨人の攻撃をくらっても傷一つ付きません」
それでさっき俺の膝の上で防御魔法を使ってたのか。
かなり時間がかかっていたから戦闘にはまだ使えなさそうだけどその効力はかなりすごい。
というかどこの世界にギガントの攻撃をくらっても傷一つ付かなくなるまで防御魔法を指輪にかける聖女がいるのだろうか。
「そ、それならよかったよ。ん?あれが僕たちの教室かな?」
「そうみたいですね。Sクラスって書いてありますし」
ノビリタス学園では入試の順位順にクラスが決まる。
だから1位のシャーロットと2位の僕は一番上のSクラスというわけだ。
僕たちは並んでクラスに入る。
教室にはそこそこの数の生徒たちが集まっていた。
「僕たちの席は……」
「自由でいいんだよ〜!」
「わっ!」
後ろから突然話しかけられビクッとする。
恐る恐る振り返ると鮮やかな赤い髪が見えた。
「メアリー!」
「ふふ、久しぶりだね。アランくん、シャーロットちゃん」
話しかけてきたのはメアリーだった。
シャーロットも嬉しそうにニコニコしている。
「お久しぶりです。メアリーさん」
「うん!」
「メアリー。ここにいるということは……」
メアリーは大きく頷きVサインを作る。
顔は完全にドヤ顔だ。
「私もSクラスだよ〜!」
「すごいな。俺はフェニックスの加点があったからここまでこれたけど……」
「私とアランくんはペアでしょ?だから全部じゃないけど少しだけ私にも加点があったんだよ。それに私は魔法試験も受けてるしね」
「魔法を使えるのか!?」
「そうだよ〜!」
平民で魔法を使えるものは本当に少ない。
それにSクラスに入れるということは座学も優秀なんだろうし実戦試験では魔法を使わずムチで戦っていた。
超ハイスペックだな……
「これから一年間よろしくね!」
「知り合いがいると頼もしいよ」
するとシャーロットが腕を組んできた。
どうやらずっとそっちのけでしゃっべていたのが面白くなかったようだ。
少し頬を膨らませてこちらを見てくる。
普通は聖女がそんなことをしたら驚きの声が上がるだろうが今、他のクラスメイト達はみな人脈づくりの為か話し込んでいる者の方が多く特に声は上がらなかった。
「ごめんごめん」
「女性とずっと話すなんて……!浮気ですよ?」
「メアリーは友達って言っただろ?それに僕が好きなのはシャーロットだけ」
「でも……嫌なものは嫌です……」
相変わらず独占欲が強いな。
でもあの日気持ちを伝え合ってからはそういうのもあまり気にならなくなってきた。
人間の慣れとは恐ろしいものだな。
「え、えーっと……二人はどういう関係なの?」
「婚約者です」
シャーロットが即答してしまった。
せっかくゆっくり順を追って説明しようとしてたのに……
シャーロットの言葉の聞いたメアリーは驚きで目を丸くする。
「ええっ!?それじゃあアランくんって勇しムグッ……!?」
肝心なところを叫ばれる前になんとか口を塞ぐことができた。
何人かは何事かとこっちを見ているけど『勇者』という単語には気づかなかったようだ。
ギリギリセーフ……
(それはまだ内緒にしてくれ。まだ正式に発表されていないんだ)
(っ!う、うん)
小声で説得するとメアリーは頷く。
僕はホッと息をはきメアリーの口から手を離す。
「ごめんね。手荒なことをしちゃって」
「ううん。私こそ驚いちゃったし……ごめん」
「仕方ないよ。今のは誰でも驚くさ」
メアリーは申し訳なさそうに謝ってくれるが今のは不可抗力みたいなものだろう。
勇者という存在の大きさを再実感した。
「本当にごめん。私は時間も時間だし席に戻るね」
そう言ってメアリーは移動していった。
どうやらもう友達がいるらしく少し遠くの席に座って女の人と話していた。
「さて、僕たちも座る……か……」
シャーロットの目からは完全に光が消えていた。
な、何かやらかした!?
で、でも僕は何もやっていないはず……
「ど、どうしたの……?」
「私以外の女の子の唇に触れるのは完全にアウトですよ?」
と、止めようとしたときのことか!?
あれは流石にしょうがないことだったんじゃ……
あのまま叫ばれてたら確実に面倒くさいことになっていた。
「不可抗力だろ……?」
「不可抗力なら仕方ないと?」
仕方ないから不可抗力と言うのでは?
だがこんなときにそんな言い訳をすれば逆効果なのは目に見えている。
もうそんな僕に残されている手段は……
「ごめん!本当にわざとじゃなかったんだ……」
本気で誠心誠意を持って謝る。
これしか僕にできることはなかった。
僕はシャーロットの言葉を待ち頭を下げ続ける。
「……わかりました。今回は水に流します。私が不用意にメアリーさんに教えてしまったのも原因ですし」
シャーロットから許しの言葉をもらえたことで僕は顔を上げる。
すでにシャーロットの目には光が戻っていてホッと安堵の息をはく。
「でも、これだけはさせてください」
シャーロットは僕の手を取って手のひらにキスを落とす。
なんでそんな不思議な場所に?
「ふふっ、上書きしちゃいました」
「ああ、そういうことね」
これにて一軒略着、ということで僕たちは席についた。
席の場所は自由とのことだからもちろん隣同士の席だ。
「まだ何人か来てないみたいだね」
「そうですね。Sクラスなのはわかってましたからクラスの名簿は確認してないです……」
「実は僕も……」
僕たちは顔を見合わせ苦笑する。
そのまま雑談をしばらく楽しんでいると──
「ほう……ここが俺のクラスか」
「はっ。そうでございます」
見覚えのある二人組が入ってきた。
さっきまで楽しかった空気に一気に水を差された気分になる。
横を見るとシャーロットも渋い顔をしていた。
「ジェームズ王子……」




