1話ードラグニアと契約
「あ、ごめ」
―
どうしてだろう、目の前には大きな口が開き眩い光が迸っている。
これ、死ぬんじゃないか。
光に呑み込まれる。
どうしてこうなった。
―
ここはどこだろう。何か神々しいものが目の前にいる気がする。
なんだって?死んだ?
ああ、そうか、死んだのか。
病に倒れ、延命を望まなかった。
親に迷惑をかけるわけにはいかない。
まぁ、気にはしない。
死んでしまったものはしょうがない。
それで何かを喋っている。口を開閉しているのはわかるが、何を言っているかわからない。
ああ、聞こえるようになってきた。
「すまない。神語は通じなかった。これでわかるか」
慣れ親しんだ言葉だ。耳にも心地が良い。
「死んでしまったが、君にはやって欲しいことがあってな」
なんだろう。こういう時って大抵めんどくさいことではないだろうか。嫌だなぁ…。
眠っていて疲れたから永眠を要求したい。
「これが終わったら君が望むことを叶えてやろう」
そうか…。
「実は失敗してしまってな。それを直してほしいんだ」
尻拭きは自分でするものじゃないんだろうか…。
「残念ながらそれはできない。したいのは山々なのだが、直接手を下すことができないそれで暇そうな君に白羽の矢が立った」
とてつもないめんどくささがあるが、断れないのだろう。
「そういうことだ。君には私が作った箱庭の調停者となってもらいたい」
なんのことだ?
その問いに答えるかのように小さな箱が現れた。
箱の中身は大凡、六芒星のような形をしていた。
「一番上が人間の世界。右回りに魔物の世界、魔族の世界、亜人の世界、動物の世界、天使の世界があり、中央に龍の里と言われる場所がある。少し種族を増やしすぎたのか戦争が横行している。それを守ってくれ」
やはり、尻拭いだ。
「箱庭の調停者、君の称号は後で見るといい。ここも長くいると神が宿る可能性がある。それでは人間の国からおねが…あれ」
今、あれって言ったような。気のせいだろうなぁ。なんか体が光に包まれる。
「間違えっちゃったなぁ…どうしようかなぁ」
聞き間違えじゃなかったんだなぁ。困ったなぁ。どんなところに飛ばされるんだろうなぁ。
「あ、ごめ」
最後まで聞き取れなかった。
―
そうして今のこの状態。
どうしてこうなった。
無数の東洋龍が地に這いつくばっている。
龍なりの土下座なのだろうか。
先ほどの光は無導の息吹というもので、触れたものを全て消えるという龍族の中でも最上級の技らしい。
それを受けても今自分はピンピンしている。
服ひとつの乱れも汚れもない。
そしてこれを受けて生きているものはいなかったらしい。
そうして何故か崇め奉られている。
そういえば、何かあの人…人なのか?が後で確認しろって言ってたけど、何を確認すればいいのかな。
あと、どうやって確認すればいいんだろうか。
そういえば箱庭の調停者とか言ってたんけど…何があるんだろう。
どうやって見るんだろう。
―
あ、見えた。なんか目を瞑って見ようと思ったら見えた。
箱庭の調停者:完全に物理・魔法・状態異常を防御する。敵対した敵の倍の攻撃力を有する神の代行者。
龍の覇者:最強である神龍王を倒した者。
あれ、なんか称号増えているんだけど。おかしいなぁ。確かにビックリしてあの光を払おうとして手が何かに当たった気がするけど…。
なんかあそこで治療みたいなのを受けているのが神龍王とかっていうのかな…。
「申し訳ございませんでした…」
龍が一人…?一体?一匹?何か喋っている。とりあえず聞ける。龍の言葉もわかるのか。まぁ…わからないと何も言えないだろうし。
なんだろうか。
「我ら古代竜種全15匹あなた様にお仕えします」
…。よくわからなかった。まぁ匹換算でいいのかな。
古代龍種ってなんだろう。名前の通りからすると昔から生きている龍なんだろうけど、ここって何年前からあるんだろうか。
「この世界は大体5000年前からある」
どうやら神龍王と言われる龍が起きたみたいだ。
そうか、5000年前からか…。それでここはどこなんだろう。それと色々聞かせて欲しいなぁ。
「こんな体で失礼する」
知能はあるから助かった。知能がなければずっと戦わないといけないのはそれはそれで面倒な気がする。
「ここは龍峰全世界の頂点であり、中心である」
なんでここには人がいないのだろうか。
そろそろお腹が空いてきたから、飯を食べながらでもいいんじゃないかな。ダメかな。
「この姿で一緒にいいのか」
いや、他の姿になれるのかな?なれるんだったらお願いしたいんだけどさ。結構難しいんじゃないかな。
「主と契約ができれば我々も人化が使えるようになる」
契約って何するの?痛いことは嫌なんだけどなぁ。困るなぁ。
「種族によって契約の方法が違う。龍族であれば大抵は主に血を分ける。体の拒絶反応がなければそのまま従者となる」
なんか嫌な単語聞いたなぁ。拒絶反応とか言ってたけど。拒絶反応があったらどうするんだろう。そのまま死んじゃうのかな。
でも…終わったら永眠できるっていうし。いいかもしれない。
「それでは我ら15匹の血を呑んでくれ」
…一度に?分けて呑まないとダメなんじゃないの?確実に殺しにきている気がするんだけど。
豪勢な器が用意された。
そこに全竜が血を一滴ずつ垂らしていく。
龍の鱗ってそんなに簡単に貫けていいものなの?ああ。神龍王じゃないと無理なのね。刃物とかじゃ通らない?龍聖剣じゃないと切れない?何を言っているかわからないけどさ、一体一体の血の量多くないかな。おかしくないかな。
「これで全てだ」
神龍王の血の一滴が最後に入ると何故か光っている。
この世界光すぎじゃない?
まぁ、なんとかなるでしょ。1ℓくらいの血を飲み干す。
あ、意外と美味しい。血生臭さは全くないかな。ワインみたいな感じだ。
体が熱い。内側から焼き爛れていくようだ。
体の構造が変わっていくような、そんな感じ。
そして、段々体が冷え込んでいく。
指先から頭先から心臓へどんどん冷えこんでいく。
今度は体が引き裂かれるような、何か体の中から突き刺されるような。
―
「主よ、大丈夫か」
誰だ、何かぷるんと揺れるものが目の前で揺れている。しかし…。
ちょっと臭うかもしれない。
「…申し訳ない」
後頭部に痛みが生じる。どうやら膝枕か何かをしてくれていたみたいだ。
上体を起こすとそこには一人、白髪の女性が立っていた。
誰だろう。だが、体の痛みなどはもう無い。
あと体が軽い。
で、誰だっけ。
「神龍王と言われていたものだ」
あー…人化っていうのができるようになったのかな。あと他に龍いた気がするんだけど、どこ行ったのかな。
「他のものは宴の準備をしている」
そうか、ご飯食べようって話だったっけ。そう言えば、腹減ったなぁ。
「もうすぐできる。もう少し休んでおくといい」
そうだな。ゆっくりしていよう。
目を閉じる。
古代龍種の使い手:古代龍種の能力を継承する。
龍峰の主:龍峰内での創造が可能。
あれ、新しい称号が増えている。何でだろう。しかもテイマーになっている。
そう言えば、さっきの子主とか言っていたし、契約どうのこうのは成功したみたいだ。
拒絶反応ではなかったのか。
「龍種を従えるものなぞ、この5000年いると聞いたことがない。拒絶反応があれば通常であれば死ぬ。おそらく順応反応だろう。龍種だから少しだけ特殊なだけだろう」
と神龍王は言っていた。
そう言えば、名前は何て言うのだろうか。
「名という名は無い。敬愛されている龍はそれぞれ特殊な名を持つが、我みたいに神龍王や天龍などが名と言える」
そうか…、何か毎回神龍王とか硬いのも嫌だしなぁ、でも全員分の名前をつけるのは面倒だなぁ…。
「宴の準備が整った。主殿、向かいましょう」
神龍王(仮)についていくことにした。
何やら臭いがするがとても香ばしい臭い。
誘導されるがままに席に座る。
目の前には見たことのない木の実。そして丸焼きの肉。しかも真っ黒。
これは何かのイジメだろうか。
「申し訳ありません、主様。調整が難しく。我らは生でも大丈夫なのですが、主はおそらく人間の類だと思いましたので火を通そうとしたのですが」
赤髪の子がやってくれたみたいだ。一応善意でやってくれたんだな。それは感謝。しかし、おそらく人間の類とはどういうことだろうか。
「無導の息吹を受けて何もなかった人間は居ません」
そう言うことね。わからなくもないけど…。一応人間。だと思う。断定できないのは少し恥ずかしい。
頂きます。炭の部分を落とせば食べられないことも…。
うーん、血生臭い。自然そのものって感じ。血抜きは…。
「何ですかそれ」
だよね。わかる。ちなみにこの肉って何?
「龍峰に住むウサギのようなものです。たまに喧嘩売ってくるので払いのけると死んでしまうのでたくさんいます」
兎かぁ…。無いよりはマシなんだろうけど…。調味料が欲しい。塩とか、胡椒とか。
今度は果実に手を出してみる。
うーん…。どれも美味しいとは程遠いかもしれない。
瑞々しい感じはあるけど、どこかエグ味があったり、苦味があったり前世?で食べた果実の方が美味しい気がする。
「龍峰ではちゃんとした果実、野菜などが育ちにくいのです。これでも美味しいものを選りすぐりました」
どうやらここは人間が住むにはあまり適さないようだ。
龍峰は山に囲まれている。
外部との交流は一切ないようだ。
だからだろうか、このような料理と言っていいかわからないものしか無いのだろう。
「ここでの食事はそうだが、人間の世界に言ってもそうは変わらない気がします。人間の世界は魔物に襲われ、滅び、魔族の世界と戦争して敗戦などをしている。文化レベルはとても低い。亜人の世界でも戦争が絶えず、文明が安定しない。天使と精霊がいる世界はここより少しいいくらいだ。一番は魔族の世界が安定しているだろうな。しかし食事という面では腹に入ればいいというもので食を求めるものが少ない」
えっと…何を楽しみ生きているんだろう。