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だって、ざまぁキャラだから

 

「初めまして、私はマリア。四代目マリアです」


 新入団員がいると聞き、皆は四代目マリアの紹介を受け――三代目マリアの末路を知った。


 ピンク髪の男爵令嬢というだけで目の敵にされるざまぁキャラマリア(役名)。

 その裏の生き様なんて誰も知らない。

 脚本家は更なるざまぁを求めて過激にざまぁする。


「マリア……、嘘だ……、なんで……」


 がっくりと膝を突き嘆き悲しむのはよく王太子役として駆り出されるウィリアム(役名)。

 マリアとワンセットでの出演希望も多く、マリアを死なせない為尽力もしていた。


 だが今回のマリアはハロルド(役名)、ショーン(役名)などあまり活躍できないざまぁキャラとの共演だった。

 ざまぁに容赦しない脚本家にあたったのも運の尽き。

 脚本内で死亡し、還らぬ人となったのだ。


「ウィル、元気を出せ」

「俺と三代目マリアは結婚の約束をしていたんだ!」


 両の目から涙を流し、ウィリアムは顔を伏せた。


「この脚本が終わったら結婚しようって……!

 いつ別れが来るか分からないから一緒に暮らそうって……、言って……」


 慰めるクロード(役名)は察してしまった。

 よくある話。

「この戦争が終わったら結婚するんだ」

 それはモブに与えられた死亡フラグ。

 ざまぁキャラは時として存在感や使用価値が下がると見ると更生しかけたように見せ掛けて殺される場合がある。

 今回三代目マリアが処刑されたのも、一種の虫の知らせのようなものかもしれない、とクロードは思う。


 ざまぁキャラのフラグ建築能力は絶大だ。

 破滅に関する事ならいくらでも建てられる。

 三代目マリアが死んでしまったのはこのフラグのせい……とは言い切れないが、何とも言い難い空気が押し寄せた。


「あの……。姉を想っていただきありがとうございます。姉も幸せそうにしていました。

 ざまぁされる事を誇りにもしていました。

 だから、嘆かないで下さい。

 姉は立派にざまぁされました。きっと本望だと思います」


 未だ絶望の表情を浮かべるウィリアムに、四代目マリアが寄り添う。

 さすがよく一緒に借り出される事はある。

 二人はシスターズが変わっても以心伝心、ウィリアムの表情に赤みが戻っている。


 ――後悔しても立ち直りが早いのもざまぁキャラの特徴だ。

 そうでなければざまぁされて凹みっぱなしで鬱になる。

 悲しみも苦しみも早々に乗り越えて開き直りの大地に降り立つ。

 これでこそざまぁされる者としての心持ちである。


 でなければ処刑や鉱山送りなどやってられない。

 できれば脚本家たちには「ざまぁされて死にました!」と明確にはせず、「誰も見た者はいない」くらいに留めて頂きたい、というのがざまぁキャラたちの希望であるが、ざまぁに慣れすぎた観客たちを楽しませようと脚本家たちは躍起になり奇をてらい、過剰ざまぁになる傾向にある昨今、生きて帰れる方が奇跡である。



 四代目マリアとウィリアムは、その後順調に仲を深めて婚約した。

 互いに忙しい身ではあるが、少しずつ仲を深め、愛を育む日々。

 もしも共演したら「真実の愛が演技じゃなくなるね」なんて笑い合っていた。



 そんな時、ウィリアムに再び王太子役が回ってきた。


「無事に帰れるように……祈ってる」

「ああ、待っていてほしい。帰ったら……」

「だめよ、その先は。……待ってるから」


 二人は名残惜しく口付けを交わし、愛を深め合った。

 目覚めた朝は身体が軽く、もう怖いものなんて、何もない、どんなざまぁが来ても負けないと揺るぎないものになっていた。



 だが、ウィリアムは戻って来なかった。



 今回ウィリアムが出演した脚本は、いわゆる「元サヤ」ものだった。

 真実の愛で婚約破棄をするが、アグレッシブな婚約者令嬢は王太子を本当に愛していた。

 だからライバル令嬢を蹴散らして王太子の奪還に成功したのだ。

 もちろんざまぁはされた。

 婚約者令嬢から一日中愛の檻に入れられたっぷりと可愛がられたのだ。


 役とはいえ他の女性にいいようにされ、あまつさえ執着するという彼はなんと、ざまぁキャラではなくクズヒーロー枠での召喚だった。


 ヒーロー枠では帰れない。

 心に四代目マリアを想いながら、ウィリアムはその心をアグレッシブヒロインに奪われた。



「……そう、ですか……」


 ウィリアムがヒーロー枠におさまり帰って来る事は無いと聞いた四代目マリアは、二人で住んでいた家に帰りぺたんと床に座り込んだ。


 台所には二人分の食器が伏せられ、居間の棚には二人の肖像画が立て掛けられている。


 四代目マリアの頬を雫が伝い、彼女のスカートに丸くシミを作る。

 役どころで死んでしまうのは嫌だが、心変わりはもっと嫌だった。

 ウィリアムの力強い抱擁も、熱い吐息も、蕩けるような甘い視線も全て奪われてしまったのだ。

 悔しくて悲しくて苦しくて、四代目マリアはボロボロと涙を溢れさせた。


「マリア……」

「リチャード(役名)……」


 何かの届け物をしに来た仲間に縋り、マリアは嗚咽をあげた。

 リチャードもマリアをぎゅっと抱き締める。


 彼は先日、とある脚本から帰還したばかり。

 ウィリアムとはよく出演が重なり、仲も良かった。だからマリアとウィリアムを祝福していたし、今回ウィリアムがヒーローになった事に複雑な思いもあったのだ。


「わたしね、ウィルのお嫁さんになったの」

「ああ」

「すっごく幸せで、夢みたいって思った。そしたら本当に夢になっちゃった!」


 わあ、と再び泣き出すマリア。

 リチャードはそんな彼女を抱き締める。


「あいつの事なんか、忘れろ……。これからは俺がそばにいるから……」

「リチャード……」


 涙で潤んだ瞳でリチャードを見つめれば、リチャードも熱のこもった瞳でマリアを見つめた。

 その頬を持ち、二人の唇が重なり合う。

 啄むような口付けから、瞼の涙を吸うような口付け、そして熱く見つめ合い、二人はベッドに倒れ込んだ。



 王太子とその周りの令息たちがマリア(役名)を通して繋がっているなどよくある話。

 その実マリアとリチャードも、ウィリアムがいる頃から繋がっていた。


 不誠実と思うなかれ。

 彼らの本業はざまぁキャラ。

 ざまぁされるツボを心得ているのである。


 それは役を降りても変わらない。

 素も混ぜられるから役に没頭できるのだ。



 マリアはその後しばらく享楽的に過ごし、一人の女児を出産した。



 何代目マリアの誕生である。


物語は忘れても、ざまぁキャラの事は忘れないで下さい……

by ざまぁキャラ一同


お読み頂きありがとうございましたm(_ _)m

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