ざまぁキャラたちの愚痴大会
「チーッス」
今日も一人、ざまぁされた男が退場し控室に戻って来た。
「お疲れー」
「どうだった?」
「今日もしっかりざまぁされて来たわ〜」
「まあ浮気からの婚約破棄は最早慣れたもんだよなぁ」
金髪碧眼のこの男の名はアラン(役名)。
婚約者がいるにも関わらず、浮気を繰り返し真実の愛に目覚めたと言って婚約破棄を宣言して見事返り討ちにあいざまぁされた男――を演じて今しがた戻って来たところである。
「昨今のざまぁキャラってもうアタオカ祭りだからさぁ、何でそうなんの? って疑問しかねぇよなぁ」
「分かるー。主人公たちをアゲる為にバカにならざるをえないっつーの。
ただ破滅させるだけの装置だよなぁ」
うんうん、と頷き控室に用意してあるお菓子をつまみながら優雅に紅茶を嗜む。
「なまじっか顔がいいと王太子役で引っ張りだこだよなぁ。うらやま」
「もう王太子=ざまぁの為に存在するようなもんだろ」
「主人公になりたきゃ隣国の王子役が回ってこなきゃ意味無いし」
うんうん、と頷き肌のお手入れは怠らない。
これも王太子役……もとい、次回のざまぁキャラに起用され立派に役目を果たす為である。
「そういや、そろそろマリア(役名)戻って来んじゃね?」
「今何の役っけ?」
「ドアマット聖女を追い出すやつかな」
「エイドリアン(役名)にぶら下がる役じゃね?」
マリアとはざまぁキャラ商会のピンクの髪の売れっ子ナンバーワン女性である。
マリアという名前とピンクの髪というだけであちらこちらから引っ張りだこなのである。
「もうピンク髪ってだけで指ボキボキ慣らしてざまぁ待ちされてるもんなぁ」
「あとなんだ? ミア(役名)とかキャロライン(役名)とかもじゃん」
ざまぁキャラ商会に所属する者達は姿絵を登録しているが、その物語にあわせて様々に出番があるはずなのだが。
ピンク髪のぷるぷる上目遣いが得意な女性は群を抜いて売れっ子キャラなのだ。
主に役名マリアとして登場する。
どこかの誰かが聞いたら卒倒しそうだが、大抵は登場時点で純潔では無い。
主に男爵令嬢として出演し、王太子や公爵令息など高位貴族の後ろでぷるぷる震えながら断罪されるヒロインを見守る役を言われる。
そしてその後高位貴族令息の婚約者となるのだが、大抵は貴族社会に馴染めず男と共倒れし平民になるまでがテンプレだ。
時折マリアのみ娼館にやられたり処刑されたりする。
ちなみに処刑されたざまぁキャラは戻らない。
だが不思議とピンクの髪のマリアは二代目三代目と需要があるせいか派遣されるのも早いのだ。
現在のマリアは三代目マリアである。
初代と二代目は姉で、通称マリアシスターズと呼ばれている。
「今回は無事だといいなぁ」
「二代目マリアはなんだったけ」
「鉱山の男の慰みもので性病にかかって発狂死」
「やべーえげつねぇ」
商会としても円滑なざまぁ派遣の為に無事に帰還できるよう脚本家たちに要請はするもの、近頃はテンプレばかり飽きたのか内容が過激になりつつあるのだ。
平民落ちなどは良い方だ。
さすがにざまぁの為に処刑されると戻って来れない。
「主人公はいいよなぁ。主人公ってだけでクズ行動しても守られるもんな」
「分かるわ。ざまぁキャラがかわいそうでも主人公に対してやらかしただけで断罪だもんなぁ」
「俺こないだやったやつマジ主人公ざまぁされろって思ったわ。理不尽極まりない」
彼の名前はディラン(役名)。
とある勇者パーティーの勇者役で先日まで派遣されていた。
彼の役目は実は有能な主人公を無能だと言って追い出すこと。
この役に何度も派遣されていればさすがに分かってはいるものの、ざまぁされて退場する事には変わりない。
「つかそもそも『やってる事は僕の中で普通ですけど何か?』ってスカしてマウントしてんじゃねぇよってんの。
だから嫌われんだよ」
追放される主人公は大抵自己主張するわけでもなく淡々と言いなりになり、追放されてから自己主張という名の本領を発揮する。
主に可愛い女の子の励ましによって。
それまで「僕なんか」とウジウジしていたのに、ちょっと「大丈夫、私は分かってるよ」と褒められただけで自信を取り戻し、元いたパーティーメンバーにざまぁするのだ。
「その女の子とマリアたちみたいな奴との違いって主人公か否かだろうにな」
ヒロインだけが主人公を分かってくれる。
そう、構図で言えば男爵令嬢に励まされるざまぁ王子と何ら変わりない。
だが、追放される男は主人公。
それだけでざまぁされるかされないかが決まるのだ。
「まあまあ、主人公の成長を見守るのも醍醐味ってなもんよ」
「そうだなあ、まぁ、世界最強様になる為の最初の踏み台なんだからな。
追放しないと脚本も始まらないわけだしな」
そもそも主人公が変わるきっかけをやるのが追放勇者の役割なのだが、ほぼ必ずざまぁされるから割に合わなかったりもするのだ。
落ちぶれたパーティーとなるのはまだ良い方で、功績を横取りされてなるものかと焦らせ魔王の力を表す為だけに犠牲になる勇者役もチラホラといるとかいないとか。
重傷で済めば良いが、重傷のまま末路が描かれなかった場合は悲惨だ。
そのままケガが治らず役名を降りた後で帰らぬ人となる場合もある。
ざまぁキャラはいつでも命懸けで役をこなし、主人公様たちを盛り上げているのだ。
「物語が盛り上がるのも俺たちの活躍あってこそなんだがな。自己中になりきるのも辛いわ」
「知能レベル低すぎるのもしんどいぞ。主人公が無能なせいでどこまでもバカに成り下がらなきゃいけないからな」
最近よく見かけるのは人気が出てきたせいか脚本家が話を引き伸ばす事である。
短い話の中で華麗に決まったものをダラダラと長引かせる為にざまぁキャラは更にクズ化し、主人公は解決できない無能になってしまうパターンがよくあるのだ。
「こんなバカに勝てないの?」という事は最早お決まりのパターン。
中にはざまぁのパターンが思い浮かばないのかざまぁキャラ退場後に再び似たようなざまぁキャラを出して尺を稼いだり、ざまぁキャラの心情を切々と語り話の尺を伸ばす脚本家も増えた。
観客はざまぁキャラの背景なんてどうでも良いのだ。
ただ怒りとイライラ、モヤモヤの感情を植え付けられたからこてんぱんにしてほしい。スッキリしたい。
脚本家は心得たとばかりに嬉々として貶める。
それでいて「私は登場人物全てを子どものように愛している。だから悪口はやめてほしい」と言うからざまぁキャラ商会では裏で失笑しているのだ。
その登場人物に彼らは含まれない。
あくまでも登場人物は主人公たちの事で、ざまぁキャラはざまぁされる為のものなのである。
「レアパターンで、脚本家に気に入られて囲い込まれる奴もいるらしいぞ」
「それあんまり幸せになれた試し無いんだよなぁ。可愛い可愛いと言いながら甚振ってるようにしか見えない」
ざまぁキャラが可愛くて仕方ない、我が子のように可愛いと言いながら本人の人格は無視、傍から見て幸せとは程遠い結末を迎えさせられたら、役を降りても暫くは廃人のままだ。
甚振る系の溺愛は歓迎されない。
そんな時彼らは思うのだ。
『脚本家もざまぁされたらいいのにな』