動きたくない懐中時計
その懐中時計は動きたくない。
壊れたままでいたい。
なぜなら、修理されたら、孫に渡されてしまうから。
誕生日プレゼントになってしまうから。
懐中時計は、ずっと同じ持ち主がいいと思っている。
なぜなら、新しい持ち主が大事にしてくれるか分からないから。
最近のわかもの、という存在は、簡単に物を壊すし、捨てる。
そう思っているから。
だから、ずっと壊れたままでいたいと思っている。
新しい持ち主なんていらないから、本当は持ち主のほうをどうにかしたいけど、そうすると今の持ち主が悲しむから。
だから、どんなにあちこちが痛くて、きしんで、今にも壊れそうでも。
修理されたくなかった。
このままでいいと思っている。
どんなに辛くても、最後まで、大好きな人の側にいたいと思っている。