第一話 キタカゼコノハヲハラフ
本連載のカク○ムさんの方が更新早いです。
ようやく見つけた。見つかった。……いや、俺は求めただけで、だから初めてそれが、"道"が、見えたというだけなのかもしれない。歩みを進めても、扉を開けるのはきっと俺じゃない。うん、その瞬間を待つことしか出来ない。鍵が開くのは、誰かが、それを求めたとき。俺がそうであったように。頼むぜ、折れるなよ──────スーパーヒーロー。
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何度考えても真っ白。頭の中で雪が積もっているようだった。永久に降り頻る銀の粒。今の季節に、ふつう雪は降らないのに。上手く冷静になれていない。参ったな、滅多に、ないんだけど。かれこれ数分は膝を折り曲げている状態が続いている。本来ならここで息を潜めている余裕すら、俺たちにはなかった。窮屈で仕方がない。身体は鎧のような防具で包まれており、加えて低い天井、隊員10名。つま先から脳まで蒸される感覚に襲われるのも訳はないが、それを無に帰すかの如くの冷や汗、この状況。あまりにも、笑みが溢れるくらいには悪くて仕方がない。
「里崎、本部との連絡は」
「まだ繋がりません、おそらく───」
「ああ、"ヤツ"ら、姑息なことしやがって……」
瓦礫の隙間から通す視線の先には、"ヤツ"ら……『バイオ=ディストラクションズ』が、そこにいた。数々見える爬虫類のような頭には、進化した脳みそが詰まっているのであろう。人間の機械を操り、妨害電波を発しているのだ。
「……敵状況を報告する。距離約60m、先と変わらず、大・人型バイズを中心に円形の陣営を組んでいる。こちらに気づいている様子はない」
自分たちが"敵"と見なす、"バイズ"達を睨みつけつつ、仲間に報告をする。覇気のない「了解」と呟く声が聞こえる。────筋肉質な胴部に脚部、おまけに二足歩行。繰り出される身体能力が恐ろしく高いことに、疑う余地もなかった。それに対し、たかが人間の脚が竦むのは、造作もないことだった。
「味方状況を報告します。善岡分隊全12隊員内10名は損傷無し。遠藤、塩嶺は先の対峙で陣形から離脱、現在地は敵を挟んだ反対側であります」
「生体反応」
「異常はありません」
「了解……里崎、悪くないぞ」
「え……っあ、ありがとうございます」
齢20歳とは思えない落ち着き具合を見せてはいるものの、内心お先真っ暗。若くして分隊一つを任されたエリート兵士:善岡晴輝である。そして、里崎隊員も含めた善岡分隊の平均年齢:19歳とは、圧倒的人員不足の現れであろう。ひどく芳しくない、お互いの敵と睨み合うだけの2099年11月27日、閉鎖された竹下通りの一幕。しかしこの日も、終わりを告げ始めていた。
「俺個人としては……仲間を置いて本部に戻ることはしたくない。しかしこのバイズの勢力は、悔しいが、俺の分隊一つで手に負えるものではない……と考える」
隊員9名が息を飲みつつも、静かに善岡晴輝の言葉を聴き入れる。
「遠藤/塩嶺とすら連絡が取れない現状に、本部からの応援が通ることはない。そして何より危惧しているのは、日が沈み始めていることだ……」
そう、彼らが敵とするバイズは本来は夜行性。活動がより活発になる夜間での戦闘は、軍の中でも禁忌とされていた。
「よ、要するに───」
震えに震え、しかと理解するのも難しい声色が軽く響く。
「あっ…す、すみませ──」
「良い、続けろ。田原隊員」
「……要するに、勝負できるのはあと一時間……で、ですよね……」
図らずとも口角を歪ませられ、それがより大きな笑みを生み出す。この期に及んで、こんなに血の気のある奴がいたとは。
「面白い、その通りだ」
隊長の善岡がそう答えずともいられまい。場の全員の士気は上がり、冷や汗を吹き飛ばすほどの熱が湧いてくる。
「バイズの勢力が手に負えない、と言ったな。あれは嘘だ。隊員の方を見くびっていた」
まるきり、彼の本音である。同意したのか、他の隊員もじわじわと声を上げていく。
「まさか田原、お前が隠れ怖いもの知らずだとはな」
「ジョン・ウィックの殺され役の気分はどうだい」
狭い空間から長い腕を伸ばし、田原の肩に軽く手をやるのは大倉隊員。そして早川隊員の暫くぶりに声を発する喉は、いつも以上に低く鳴る。映画ネタは彼の鉄板だ。
「よし……善岡分隊、遠藤隊員及び塩嶺隊員の救出作戦の実行を決定。タイムリミットは日没。作戦内容確認、里崎」
「はい。まず────────」
「作戦確認よし……お前らいいな……」
善岡はゆっくりと息を吸い、隊員全員を向き、呟く。
「善岡分隊は、まだ"英雄"にはならない……‼︎」
『────了解‼︎‼︎』